第36話 魔法りろん!
ほとんど貸し切り状態の訓練所に移動した2人は、実演を交えながら説明を始めた。
まず、修は「普通の方法」で魔法を発動してみせた。紫の光が収束し、訓練用の標的へと魔法が炸裂する。威力はそこそこだが、修は眉をひそめた。
「ほら、こうやると威力はそこそこだけど、魔力の消費が多いんだ。コスパが悪い方式よな。」
高峰玲奈も当然とばかりに頷く。その光景には特に驚きもない。
「それで、この発動スピードを維持しつつ、もっと低コストで発動できないか考えたんだ。」
修は一拍置いてから続けた。
「マナレギュレーターで魔法を発動するとき、魔力が失われるのが2段階に分かれていることに気づいたんだ。最初は、そのわずかな時間差に魔力が使われているなんて気づかなかったけどね。」
玲奈の目が輝く。修はさらに言葉を重ねた。
「1段階目は、魔法陣を描くのに少量の魔力を使ってる。そして、2段階目でかなりの量の魔力を消費する仕組みになってる。だから、1段階目だけマナレギュレーターにやらせて、2段階目は自力で魔力を集めて発動するように調整してみた。」
修は少し間を置き、右手をゆっくりと上げた。
「実際に試してみると……こうなる。」
彼の手から放たれた光が収束し、先ほどよりも一段と鋭い閃光となって標的を粉々に打ち砕いた。訓練所全体に響く衝撃音と共に、修は軽く手を下ろす。
「ほら、こうやって魔法が発動できた。」
修自身も、いつも以上の威力に驚きを感じていたが、それ以上に玲奈の反応が衝撃的だった。
「な、なんだと! この方法なら効率が飛躍的に上がる!その前にどうやって魔力を操作してる?」
玲奈の目は興奮で輝き、その場で小さく跳ねながら抑揚はないが独り言を早口で呟き興奮していることが伝わってきた。
「魔力の損失が減るどころか、威力も上がるとは……。魔力の操作は考えるのは後にして…それでもこれはすごい! 実用化できたら、今までの魔法運用の根本が変わる!」
玲奈はポケットから手帳を取り出し、狂ったように何かを書き留め始めた。その勢いに、修は少し圧倒されつつも、彼女の情熱には感心せざるを得なかった。
「そんなに興奮するとは思わなかったけど、まあ……役に立ちそうでよかったよ。」
修は照れ臭そうに笑いながら言葉を続けた。しかし、玲奈は不思議そうに考えるように手を止めた。
「でも、やっぱり分からない。どうして威力が上がる? 何か他に心当たりは?」
玲奈の真剣な問いに、修は腕を組み、少し考え込む。
「そうだな……他に思い当たることとしては……ああ、そういえば最近気づいたことがある。」
修はゆっくりと話し始めた。
「どうやらマナレギュレーターを通すとすべての魔法に均一に魔力が注がれている……かもしれない。感覚的な話になるけど、魔力の密度を意識して訓練してたんだ。少ない魔力でも密度を意識して、魔力を通す感覚を掴んできたから、威力が上がったんじゃないかって気がする。」
修の言葉に、玲奈の手が一瞬止まり、その目が大きく輝いた。
「それだ! まさかそこにつながる?前々から密度の理論は確かにあったが…。」
玲奈は興奮に満ちた声を上げると、再び手帳に向かってぶつぶつ呟きながら書き始めた。
「密度を意識して魔力を注ぐ……これならもっと効率が良くなる。これ、もっと工夫できそう。 より効率化すれば、運用が根本から変わる!修オーサム!」
玲奈の抑揚のないのダジャレに、修は苦笑しながら、止まることなく手帳を埋め尽くそうとする玲奈を眺めた。その様子はまるで、発見した知識を一瞬たりとも逃すまいとする研究者そのものだった。
あらかた何かを書き留め終えると、玲奈は手帳を片手にどこかへ駆け出していった。
「お、おい……。」
修は呆気に取られたまま、玲奈の背中を見送る。彼女の行動の素早さに戸惑いつつも、妙な情熱に圧倒された気分だった。
「……まあ、帰ってくるだろう。」
訓練所に残された修は、そう呟くと、気持ちを切り替えるように剣を構えた。
無心で剣を振り、魔力の流れを感じながら身体を動かす時間――修にとってそれは、戦場での感情や考えを整理するための大切なひとときだった。
「よし……もう少し。」
剣を振り下ろし、魔力を収束させる感覚を確認する。細かな制御が上手くいった時の心地よさに、修は小さく笑みを浮かべた。
そうして集中しているうちに、いつの間にか数時間が経っていた。気づけば訓練所の外はすっかり暗くなり、窓の向こうには沈んだ夕日が微かに残るだけだった。
「もうこんな時間か……。」
訓練所に響く消灯の合図が静寂を切り裂く。その音を聞き、修は剣を収めた。
この瞬間の小さなやり取りが、後に大きな変化をもたらすことを、修はまだ知らなかった。
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本日も当たり前のように正規の夕食時間を逃した修は、寮母に感謝しつつ食堂へ向かった。食堂の灯りは控えめにともり、ひっそりとしている。そんな中、テーブルの上には3人分の夕食が用意されていた。
「3人分?」
修は眉をひそめる。自分の分と、もう一つは恐らく玲奈のものだろう。しかし、もう一皿が誰のものなのか見当がつかない。
「……?」
考え込んでいると、階段の奥から玲奈が疲れた様子で降りてきた。だが、その表情にはどこか満足感が漂っている。
「途中でどこか行ってたけど、大丈夫だったのか? これ、たぶん高峰の分だと思う。」
修は指で玲奈の皿を示しながら声をかける。玲奈は軽く頷くと、食卓につきながらさらりと言った。
「問題ない。それより、私のことは玲奈でいい。」
「……じゃあ、玲奈。お前、どこ行ってたんだ?」
修が問いかけると、玲奈はニヤリと笑いながら箸を手に取った。
「部屋で、さっきのまとめをしてた。ついさっき教授に連絡したら……すぐ会ってくれる。だから、明日行くよ、研究都市。」
「は? ……ちょっと待て。落ち着いて、ゆっくり話してくれないか?」
玲奈の言葉が飛躍しすぎていて、修は困惑を隠せなかった。箸を置き、玲奈をまじまじと見つめる。
「新しいマナレギュレーターの構想が完成したんだ。明日の朝にはすぐ出発する。」
「研究都市って……お前、冗談だろ?」
修の戸惑いの声に対して、玲奈はまるで当然のように頷いてみせた。
「冗談じゃない。それに私はお前でもない。」
その真剣な表情を前に、修は言葉を失った。その時、不意に背後から声がかかった。
「新たなマナレギュレーター? なかなか面白そうな話をしているじゃないか。」
その声の主は、先日皿洗いをさせられていた制服姿の少女だった。黒いマントを羽織り、奇抜なデザインの杖を机に立てかける。頭には魔女の帽子を深くかぶり、その佇まいは非日常的で目を引いた。
彼女はゆっくりと近づき、修と玲奈の隣に座ると、にやりと笑みを浮かべた。
「ちょうど暇を持て余していたところさ。何か新しいものが見られるなら悪くない。」
「……なんでお前が乗り気なんだよ。」
修がため息をつくと、少女もご飯に手を付けて食べ始めた。その隣で玲奈も淡々と食事を進めつつ、修に真剣な眼差しを向ける。
「了解した!そして、修も来て。」
「いや、ちょっと待て。急すぎるだろ。」
修は困惑を隠せない様子で抗議するが、玲奈はさらりと続けた。
「大丈夫だ。宿は教授が準備してくれる。」
「いやいや、準備してくれるじゃなくて……。」
修の抗議をよそに、玲奈は魔女の帽子の少女と視線を交わし、互いに満足げな微笑みを浮かべた。
「明日は早いから、早めに寝ること。」
玲奈が軽く皿を持ち上げる。その様子を見て、修は観念したように頷いた。
「分かったよ……どうせ暇だしな。」
こうして、修はなし崩し的に研究都市への旅に加わることになった。
ちなみに今回の皿洗いは自分の分だけで、押し付けられることを回避できた。
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