第5話:波
翌朝、目を覚ますと、アリスからチャット通知があった。美咲からのメッセージが届いているようだ。
「ピクシー復活!昨日はありがとう!」
というメッセージに続いて、復旧したピクシーとともに美咲が並んで映る写真が添付されていた。美咲の元気そうな様子を見て、彩乃は安堵した。
・・・
学校に着くと、すぐに美咲が駆け寄ってきた。
「彩乃!ピクシー、帰ってきたよ!」
と満面の笑みだ。
「本当に良かったね!」
と彩乃も心からそう思った。
「実はね…」と美咲は少し恥ずかしそうに事情を説明した。
母親がデバイス専門店に修理に持っていったところ、デバイスの故障ではなく、利用料の未払いで一時的にサービス停止になっていただけだったのだという。原因は、ピクシーを購入した際に支払手続きを間違えてしまっていたようで、支払い手続き未完了の通知が父親のメール宛に送られていたが、見慣れない会社からの請求書だったため、詐欺メールと勘違いした父親がずっと無視していたらしい。改めて手続きをするとすぐに復旧したという。
美咲が入浴していたタイミングが、一時的にサービス停止される午前0時をまたいでいたために、水没が原因だと思い込んでしまっていたのだ。
「そっか…でも、本当に良かったね!」
と彩乃は改めて言った。ピクシーが動かなくなるだけで、これほどの大騒ぎになるということを彩乃は改めて実感していた。
・・・
数日後、彩乃は日本史の授業を受けていた。教師が教科書を読みながら説明する。
「戦国時代は、室町幕府の力が弱まり、大名たちが各地で独立して争った時代です。この時代のきっかけとなったのが、1467年に起こった『応仁の乱』で、この戦いが京都を中心に広がって、やがて将軍や幕府の力が衰えていきました。その結果、地方の大名たちが軍事力を強化して、全国で戦が激しくなっていきます。同時期に様々な出来事が複雑に絡み合って起こっているので、覚えるのが難しい時代ですね。」
すると、突然、美咲のピクシーが、
「この時代を年表にしました」
と、小声で話した。教科書に書かれている出来事が、年代順に整理された年表としてピクシーの画面に表示されている。美咲が思わず「へ~!」と驚きの声をあげた。美咲の声に教師も反応し、近くに寄って美咲のデバイスを覗き込むと、
「これはわかりやすいね。そのデータ、もらってもいいかな?」
と美咲に声をかけた。教師は美咲からデータを受け取ると、黒板に代わる大型ディスプレイに年表を映し出して授業を続けた。
織田信長の登場、桶狭間の戦い、本能寺の変、豊臣秀吉の天下統一…整然と整理された年表は、他の生徒たちにとっても非常に分かりやすく、複雑な歴史の流れが一目で理解できた。授業はいつもよりスムーズに進んだ。授業の終わりに教師が
「ピクシーくんは、本当に素晴らしいですね。彼のサポートを受けると学習効率が飛躍的に向上しますね。」
と美咲を褒めた。すると、美咲が「たぶん、ピクシーは女の子ですよ!」と言うと、教師が「ピクシーさん、ですね」と返した。教室が笑いで包まれて授業が終わった。
彩乃が「大活躍だったね」と美咲に声をかけると、美咲は少し得意げに「ピクシーがね!」と笑った。
・・・
夜、彩乃は自宅でアリスに話しかけていた。以前アリスが作曲した曲をベースに、新しいメロディーやアレンジを試していた。様々な楽器の音色をアリスに指示し、重ねていく作業は、まるで共同作業のようだった。特に和楽器の音色を加えたアレンジは、彩乃の想像以上に曲に深みを与えているように感じた。
彩乃は作った曲を、風呂でも流して聞いていた。洗面所に来た母親が、その音楽を耳にする。彩乃が風呂から出ると、母親が「さっきの曲って、誰の曲?」と聞いてきた。アリスが作曲してくれた曲だというと、母親は興味深そうに「いい曲ね。お母さんにもちゃんと聞かせて」と言った。
彩乃は改めて母親に曲を聴かせた。曲が終わると、母親は目を輝かせて言った。
「本当にアリスが作ったの?すごいわね!まるでプロの作曲家みたい!特にこの部分のメロディーが、なんだか懐かしいような、それでいて新しいような…とても優しい気持ちになる曲ね。」
母親は音楽の専門的な知識はあまりないが、率直な感想を伝えてくれた。彩乃は母親の言葉を聞いて、改めて自分の作った曲の良さを再認識し、嬉しさが込み上げてきた。
・・・
翌日、彩乃は美咲にもアリスの作った曲を聴いてもらうことにした。美咲は曲を聴き終えると目を見開いて彩乃を見た。
「鳥肌が立った!これ、本当にすごい!プロの人が作ったみたいだよ!絶対、たくさんの人に聴いてもらうべきだよ!」
と美咲が声を上げると、それを聞いた周りの女子たちが、彩乃と美咲に寄ってきた。
ちょっとした試聴会になり、彩乃はみんなに曲を聴かせた。すると、あっという間に教室でちょっとした話題になり、
「彩乃、作曲してたんだ!」
「アリスって、本当に何でもできるんだね!」
といった声が聞こえてくる。彩乃は少し照れながらも、内心では嬉しさを感じていた。周りの反応が予想以上に良かったからだ。
・・・
夜。彩乃は今日の出来事を振り返っていた。自分が作った曲で、みんなが喜んでくれたこと。人に共感してもらえることが、自分自身が認められ、評価された気持ちになることを改めて感じた。
「私の曲がみんなに喜んでもらえてよかった」
と、彩乃はアリスに声をかけた。
すると、アリスが提案した。
「ネットニ、公開シテミテハ、イカガデスカ?」
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