第22話

居酒屋のカウンター席に並んで座る佐藤と中村。お酒が進むにつれ、二人の会話も自然と親しげなものに変わっていった。中村は少し顔を赤らめ、普段の落ち着いた態度とは違う、砕けた雰囲気で話し始めた。


「佐藤さん、ほんとに頼りになるなぁ。私なんか最近全然ダメで…」と中村は軽く笑いながらも、少し愚痴っぽい口調で言った。「エリックソンの件だって、私のせいでうまくいかなかったんじゃないかって、思っちゃいますよ。」


佐藤は、そんな中村の変わった一面を新鮮に感じつつも、彼女の話に耳を傾けた。「そんなことないですよ、中村さん。あの案件はみんなが一丸となって取り組んでいたし、中村さんのリーダーシップがあったからこそ、ここまで来れたんです。」


中村は佐藤の言葉を聞きながら、照れくさそうに視線をそらした。「そう言ってもらえるのはありがたいですけどね…でも結果が出ないと意味ないっていうか。なんか、自信がなくなっちゃいますよ。」


「中村さんがいなかったら、もっと大変なことになってたはずです。皆さん、中村さんのことを頼りにしてますから。」佐藤は、中村が自分を責める様子に、やんわりと励ますように言った。「あなたがクレスト・テクノロジーズで重要な存在であること、僕はちゃんとわかってます。」


中村は、少し感慨深げに頷きながら、ビールを一口飲んだ。「佐藤さん、ありがとう。ほんとに、こうやって話せるだけでも、気持ちが楽になる気がします。」


佐藤は軽く笑って、グラスを持ち上げた。「それなら良かったです。辛いときは、こうやって飲んで話して、気持ちを軽くするのが一番ですよ。」


中村も笑顔で佐藤のグラスに自分のグラスを合わせた。「そうですね。佐藤さんがいてくれると、なんか安心します。」


佐藤はふと、時間が経ったことに気づき、「ちょっと手洗いに」と言って席を立った。カウンターに一人残された中村は、佐藤の気遣いが心に響いているのを感じ、目の前のグラスをじっと見つめた。佐藤が自分をよく見てくれていること、そのことに改めて気づき、胸の奥に温かな気持ちが広がった。


佐藤が戻ってくるのを待ちながら、中村は自分にとって彼の存在がどれほど大切なものかを、静かに思い返していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る