入学
寮への引っ越しも無事に終わり、本日は大垣高校の入学式――同じ寮生である楓と共に大垣高校へ向かい、クラス分けが記載されている掲示板へ向かった。
「あ……残念――違うクラスみたいだね」
「そうだね……でも、寮も一緒だしいつでも話せるよ」
遥は楓にそう言っていたが、やはり一抹の寂しさがあった。楓も心なしか寂しそうな表情を浮かべたまま口を開く。
「……じゃあ私は先に行くね。また後で!」
そう言い残すと楓は足早にその場を立ち去った。遥は彼女の後ろ姿を見ながら少し寂しい気持ちになりつつ自身の教室へ向かう。教室へ入り、黒板に張り出されている座席表を確認して着席した。それから暫くすると、担任と思わしき教師が教室へ入ってきた。
「出席番号順に廊下へならんでくれ」
教師の指示に従い遥を含めた生徒たちが廊下に並ぶ。程なくして全員の整列が完了すると、そのまま入学式が行われる体育館へ向かった。1学年10クラス編成であるため新入生の人数はおおよそ400人ということになる。2桁以上の生徒が一堂に会する場を経験したことがない遥は大層驚いていた。
その後、校長や来賓による挨拶、在校生、新入生代表の言葉や校歌斉唱などが執り行われ、つつがなく入学式が終了した。そして教室へ戻ると、担任から自己紹介が行われた。
「俺はこのクラスの担任を務めることになった天宮だ、担当は数学――何かわからないことがあれば遠慮せず聞いてくれ」
そう告げた天宮教諭はかなりの強面で第一印象は怖いんじゃないか……と遥は思いこんでいたのだが、割とフランクな様子で話を進めたためその心配は杞憂に終わったようだ。
そして暫くの間はこれからの授業や学校生活についてのオリエンテーションが行われ、一通りの説明が終わったところで自己紹介をする流れとなった。出席番号順に自己紹介が行われていく。『な』から始まる遥はクラスのちょうど真ん中辺りのため、皆の自己紹介の様子を伺う。基本的には出身中学や所属予定の部活、少しお調子者は加えて一言くらいで自己紹介をしていた。
(出身中学は言っても誰もわからないだろうしな……)
遥はそんなことを思いながら自己紹介で何を話すべきか思案していた。そしてついに遥の番である。
「……七海遥です。出身中学は坂之内中です。サッカー部に入ろうと思っています。これからよろしくお願いします」
遥は無難に自己紹介を終わらせた。すると斜め後ろのほうから視線を感じた気がした。遥はそちらを振り向くと教室の一番廊下よりの席に座っている男子生徒と目が合った。
(……なんだろう?)
遥はそんなことを思いながら視線を前に戻し、ほかの人の自己紹介に再び耳を傾けた。そして最後の1人――先ほど視線の合った彼の番となった。
「――
黒髪の短髪で少し悪い目つきが特徴的な彼――凌はぶっきらぼうにそう言うと席に座った。
こうしてクラス全員の自己紹介が終わり、本日は解散となった。遥は楓と一緒に帰宅しようかと考え、荷物をまとめていると凌がやってきて声をかけてきた。
「お前、サッカー部の入部希望ってさっき言ってたよな?」
「うん――君もだよね?」
「ああ――まぁ、俺は希望っていうかもう春休みのうちから参加してるけどな」
凌のその言葉を聞き、遥はそんなことができたのかと驚いたと同時に自身の意識の低さを痛感した。
「そんなことができたんだ――まだ仮入部すら始まっていないからこれからだと思ってた」
「俺以外にも何人か春休みから参加してたぞ。そいつらにはクラスにサッカー部希望のやつがいたら連れてこいって言ってある――ちなみに今日もこの後練習があるけどどうする?シューズとかウェア持ってきてるなら――」
「もちろんいくよ!」
遥は即答した。それを見た凌はニヤリと笑う。
「そうこなくっちゃな――練習は昼飯の後からだ。俺は食堂で食べてくけどどうする?」
「ご一緒してもいい?」
「ああ、さっき話してた春休みからサッカー部に来ていたやつらと一緒だから、紹介するよ」
「ありがとう!」
◇
「そういえば、中学はどこでやってたんだ?部活?クラブ?」
凌は遥と連れ立って食堂へ向かう道中で問いかけた。
「……一応部活だけど……人数足りなくて試合とかはできてなかったんだよね」
「……サッカー部で人数が足らないってどこの中学――いや、そういえば自己紹介の時に聞いたことないような中学校だったな」
「山田くんはどこでやってたの?」
今度は逆に遥が凌に問いかける。
「呼び方は凌でいい……一応、Jリーグの下部組織――名古屋FCのジュニアユースでやってた。今から一緒に飯食うやつらも同じ出身だ」
「……あのさ、全然知らなくて申し訳ないんだけど――そこって強かったの?」
「――はぁ?」
凌は信じられないものを見るような目で遥を見る。普通にサッカーをやっていた人間であれば名古屋FCの下部組織のレベルなんて知っていて当たり前だ。だが、遥はある意味情報と隔絶された村に住んでいたため、そのあたりの情報に全く無知なのだった。
凌が気を悪くしたと思い、遥は慌てて自身の境遇を説明し無知に対する弁明をした。一通り話を聞いた凌は納得したようだった。
「なるほどな……それじゃ、大垣高校を選んだのもたまたまか?」
「うん――公立で、サッカー部があって、寮がある。この3つの条件を満たしているのがここだけだったから。え、待って、その口ぶりだとこの高校のサッカー部ってなにかあるの?」
「……まぁ、いずれわかることだから教えてやるよ――」
そこから、凌は大垣高校サッカー部について話してくれた。
大垣高校サッカー部は一昨年までどこにでもあるレベルのサッカー部だった。予選は1、2回戦敗退が常で、県のリーグ戦であるGリーグでも2部と3部を行ったり来たりするレベルだった。
しかし、一昨年に赴任した新人教師が顧問兼監督を務めるようになってからこれまでの評価から少し変わった。というのもインターハイや選手権の予選は相変わらず1、2回戦で敗退しているのだが、Gリーグでは確実に勝ち点を積み重ね、昨年ついに1部リーグであるG1に昇格したのである。
つまり今年は大垣高校史上初めてG1リーグを戦うことになるのだ。
「――その監督さんってどんな人なの?」
遥は気になって凌に質問する。
「これも後でわかることだが――監督本人はサッカー未経験だ。なんでも大学と大学院でサッカーにおけるデータの利活用について研究していた人らしい。だから練習も、戦術も全部ロジカルだ――効率重視といってもいい。俺たち進学校の学生と相性がいい監督だと思う」
遥は凌の説明を一通り聞いて、たまたまではあるがよい高校を選択できたのではないかと思えてきた。そして俄然、練習にやる気が出てきた。
「それで話を最初に戻すと、そんな注目株の高校だから――俺たちみたいなクラブ上がりや強豪中学からも何人か入ってくるって聞いている。生半可な実力だと、3年間ベンチどころかスタンドかもな……」
その言葉を聞いて、盛り上がっていた気持ちが萎んでいった。遥はこれまで同年代のプレイヤーと自信のプレーを比較したことがなかったため、自身がどこまでやっていけるのか、不安が募っていったのだ。
「まぁ、何はともあれ――今日の練習は春休み組以外にも来るだろうから、そこを楽しみにって感じだな」
凌がそう締めくくると、ちょうど食堂へ到着し、未来のチームメイトたちと昼食を共にしたのだった。
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