ヤマシタ アキヒロ

炎の色を

写し取ることが出来たら

私はもう

死んでもいい


ある画家が言った


暖炉には炎が

あかあかと燃えていた


炎はすでに

そこにあるのに

どうして写し取る

必要があるの?


少年が尋ねた

少年は画家の孫である


画家は黙って

描きつづけた


胸に宿った

炎と見比べながら

太古の昔を

夢みながら

理性のたが

外しながら

熱き血潮を

鎮めながら


しかし

炎の色はついに

画家のキャンバスに

宿ることはなかった


どんな絵の具も

色褪せて見えた


暖炉の炎は

いつしか消えた

画家は天寿を全うした


少年は画家の亡骸を前に

その唇から

発せられた言葉を

思い出した


炎の色を

写し取ることが出来たら

私はもう

死んでもいい……


少年は暖炉に薪をくべ

画家の絵筆を拾った


少年の心に

画家のたましいの

炎が宿った


        (了)

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