第25話 Sisters' Howl Ⅲ
奈央ちゃんが女の子だとわかってから。わたしと奈央ちゃんはお互いのより踏み込んだ話もするようになっていった。
特にわたしが奈央ちゃんよりも1歳だけだけど年上だと気づいた時には奈央ちゃんもわたしも盛大に驚いた。
「シオリってこんなちんちくりんなのに、ボクよりお姉さんなの?」
「えっ、奈央ちゃんの方がわたしよりおっきくてしっかりしてるのに、わたしより年下だったの?」
ほぼ同時にそう言っちゃって、次の瞬間、顔を見せあって二人で笑っちゃった。
「ボクの場合は10歳年上の姉ちゃんがいるから年上のお姉さんって、みんなボクより背が高くて、大人びてて、堂々としてると思い込んでた」
「もうっ、さすがに10歳も年上のお姉さんと比べないでよ。それにわたしの誕生日は早生まれの2月19日で奈央ちゃんの誕生日は5月だから、わたし達の誕生日は3か月くらいしか離れてないし」
「なんだかシオリはボクより小っちゃいし、いっつもおどおどしてボクの後ろについてくるし、お姉さんっていうより妹の方が似合ってるな」
「ま、わたしもお姉ちゃんより、そっちの方がいいかな。奈央ちゃんはいつもわたしの手をひいてわたしに知らない世界を見せてくれる、お姉さんみたいな存在だもん。わたしの方がちょっと先に生まれてるからって、今時妹みたいには思えないって」
そんなことを話しながら、わたし達は夕陽に照らされた公園で笑いあった。
ある時はなんで奈央ちゃんが男の子みたいな恰好をしているのかの話もした。
「あー、これ? 姉ちゃんに対するちょっとした抵抗だよ」
「お姉さん? 前に言ってた、10歳年上の?」
「うん。ボクのお姉ちゃんはボクのことが大好きで、ボクのことをすごく大切にしてくるんだけれど――ボクのことはいつもかわいくしてこようとするんだよ」
くたびれたように溜息を吐く奈央ちゃん。その溜息から、既に日ごろの苦労が偲ばれた。
「いっつもフリフリのお姫様みたいな服を着せられて、ボール遊びとかゲームとかは男の子みたいだからしちゃダメ、って。なんでそんなに禁止するの? って聞いたら、ボクは将来、お姉ちゃんのお嫁さんになるからだって。そして、自分のお嫁さんには誰よりもかわいくいてほしいんだって」
お嫁さん。その言葉に、わたしは胸がぎゅっと締め付けられたような気持ちになった。視線と瞼に大粒の涙が浮かんでくる。
「お、お嫁さんって……奈央ちゃんは、お姉さんと結婚しちゃうの……?」
今にも泣きそうなのを必死に堪えながらわたしが尋ねると、奈央ちゃんは驚いたように目を丸くしてくる。それから、わたしをあやすようにぽんぽん、と頭を軽く叩いてくる。
「しないよ。少なくとも、ボクはしないつもり。だって実の姉ちゃんと妹だぜ? さすがにありえないし、想像できない。そもそも、自分の結婚相手は自分で決めたい」
「……奈央ちゃんは、どんな人と結婚したいの?」
わたしの質問に奈央ちゃんは『うーん』と首を捻る。
「なんだかんだ言ってボクも女の子だから白馬の王子様とかは憧れるよな」
「……わたしは別に憧れないよ? わたしは、スーツ姿の奈央ちゃんも、ウエディングドレスの奈央ちゃんも、どっちでも嬉しい。というか、どっちも見たいから2回結婚式やりたい」
「あー、シオリはそういうやつだったな。まあそれも個性だと思うし、その……そういうところはかわいいと思うぞ。……って、そんなことはどうでもよくて!」
なぜか奈央ちゃんに逆ギレされちゃった。ひぃん……。
「ボクの結婚したいタイプか。まあ姉ちゃんみたいなのは論外として――やっぱオレと対等でいてくれて、オレの意見を尊重してくれて、『かっこいい』人、かな」
「かっこいい……?」
「ああ、かっこよさって一口に言っても、どういうかっこよさでもいいんだ。顔じゃなくっても、信念を貫きとおすとか、そういうのでも。そんなかっこいい人なら、男の子でも、女の子でも、好きになっちゃう……かもな」
物思いに耽るように奈央ちゃんが言う。言ってから恥ずかしくなったのか、奈央ちゃんは「話が脱線しまくったけど!」と大きな声を出す。
「とにかく、家だと姉ちゃんの重圧が強すぎるから、こうして外では反発して、むしろ男の子っぽい恰好をして姉ちゃんに反発するようにしてるんだ! 姉ちゃんの前では怖くてできないけどな!」
ジャングルジムのてっぺんの部分に立ち上がって奈央ちゃんがそう宣言した時だった。
「奈央ちゃ~ん、どこにいるの?」
どこか奈央ちゃんに似ている、けれど聞き覚えのないお姉さんの声に、奈央ちゃんはジャングルジムから転げ落ちそうになるところをわたしはなんとか捕まえる。そして無事に地上まで降りてきた時。
「奈央ちゃん! なんてことしてるの!」
薬品らしきもので汚れた白衣に身を包んだ、奈央ちゃんの面影がどこかある女子高生が血相を変えてわたし達のところに駆け寄ってきた。状況を察するに、彼女が奈央ちゃんのお姉さんらしかった。
「それにその格好! 一体どうしちゃったの、お家にはお姉ちゃんが用意してあげたふりふりのかわいい服があるでしょ。なのにそんな男の子みたいな格好して! 私は奈央ちゃんをそんな子に育てた覚えはないわよ」
奈央ちゃんのお姉さんのヒステリックな声が、夕暮れの児童公園に響き渡る。そんなお姉さんに奈央ちゃんは俯いて
「その……ごめんなさい」
としおらしく謝る。そんな奈央ちゃんは、わたしがこれまで接してきた奈央ちゃんと別人のようだった。
「公園なんか危ないところで遊んじゃダメって言ったでしょう? 女の子はお家でおままごととかお人形遊びをしていた方がいいわよ。誰、こんな危ない遊びをうちの奈央ちゃんに教えたのは……そこにいるあなたね!」
わたしと目が合った途端。奈央ちゃんのお姉さんはわたしのことをきつく睨みつけてくる。そんな風に睨みつけられたことははじめてで、わたしは恐怖で足が竦んでしまった。と、その時。
「お、お姉ちゃんやめて! その子はあたしのお友達で、むしろあたしがしたい遊びにいろいろ付き合わせちゃってたの。だから、シオリを責めないで!」
悲痛な叫び声を上げてわたしを庇おうとしてくれる奈央ちゃん。奈央ちゃんの言葉だとさすがにお姉さんも無視できないのか、もう一度ぎろり、とわたしのことをきつく睨みつけてきたかと思うと。
「私の奈央ちゃんがそこまで言うのならば、わかったわ。でも――もう二度と私の奈央ちゃんに近づかないで。奈央ちゃんは私のかわいいかわいいお嫁さんになるの」
と吐き捨てて、奈央ちゃんの手を掴んでいってしまった。お姉さんに奈央ちゃんは完全に怯え切っているようだった。
それが雲雀ヶ丘茉奈——奈央ちゃんにとっての血縁上の本当の姉にして、異常なほど妹を溺愛するシスコン女子大生だった。
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