第9話 姉妹でお買い物


 不健全だと分かりながらも奈央ちゃんに流されるまま『ご主人さま』と『奴隷』の関係をこっそり続けてから1か月ほど経った、とある日曜日。


 その日はたまたま新体操部もバスケ部もお休みの日だった。午前中、リビングでわたしが百合漫画を読んでいる時だった。


「お姉ちゃん、ちょっと買い物に付き合ってくれない?」


 休みの日にしては珍しく早起きした奈央ちゃんに誘われて、わたしは二つ返事でオーケーした。



 それから1時間後。外着に着替えたわたしと奈央ちゃんは近所にあるショッピングセンターを並んで歩いていた。


「それにしても二人でお出かけも久しぶりだね。中学に入ってから、なかなか部活のお休みが合わなかったから」


 隣を歩く奈央ちゃんを振り返りながらわたしはそう話しかける。


 今日のわたしのコーデはお気に入りの猫のイラストがプリントされたパーカーにジーンズ。そして奈央ちゃんのコーデは淡い桃色のワンピースに白のプリーツスカート。デートとかじゃなくて気心の知れた姉妹同士だから、コーデにもあまり気を遣わないでいいから気楽。まあ別にデートする相手もいないし、デートする相手ができる予定も残念ながらないんだけどね。


 そんなことを想いながら歩いていると。


「うん。……それにしてもお姉ちゃん、前に出かけた時と見事に服装が変わらないよね。ちんちくりんのあたしと違ってお姉ちゃんは背が高くてスタイルがいいのに、そのクソダサパーカーだとお姉ちゃんの魅力が半減だよ」


 どこか不満げな表情で奈央ちゃんはわたしのことを見てくる。


「クソダサって……」


 お気に入りのパーカーを奈央ちゃんに一蹴されてわたしが絶句していると。


「決めた。予定変更して、予定していた買い物よりも先にお姉ちゃんの服を見に行こう。このままだとお姉ちゃんにいつか恋人ができた時、安心してお姉ちゃんをデートに送り出せないもん」


「べ、別に大丈夫だよ? わたしは今のところ誰かとお付き合いする予定はないし」


「あんまりへんな格好でデートされると、妹のあたしが恥ずかしいの! ほんと、お姉ちゃんは人の事には敏感なのに自分のことになると無頓着なんだから」


 そう言ってわたしの手を引いてくる奈央ちゃん。奈央ちゃんと出かける時はいつもこんな感じだったと思う。いつも奈央ちゃんがわたしの手を引っ張ってくれる。それを懐かしく感じながら、わたしは奈央ちゃんに手をひかれるまま服を見て回った。




 そして何店舗かショッピングセンターを回って奈央ちゃんに着せ替え人形にされること14回目……。


「うん。わたしの見立て通り、お姉ちゃんにすっごく似合ってるよ」


「奈央ちゃん……これ、地雷系じゃん!」


 思わずわたしは叫んじゃった。


 そう、奈央ちゃんがわたしに選んでくれた服は、左右にひらひらとしたレースが付いていて袖口には黒のレースで装飾のある、鮮やかなシクラメンピンクのブラウスに、ブラックのひらひらしたスカート。このピンクと黒を基調とした、ひらひらレースばかりのファッションは、イメージ通りの地雷系ファッションそのものだった。


「こんな恰好したらわたし、重めのヤンデレ女子に見えちゃうじゃん……」


「まあ確かにヤンデレと言えばお姉ちゃんっていうよりもどちらかというとあたしだよね。でもお姉ちゃんも異常なほど尽くしたがりでちょっとドMの気質があるから、お付き合いすると面倒くさいことになりそうだし、お姉ちゃんも地雷系でいいんじゃない?」


「よくないよ! それにわたし、別にマゾじゃないし! いっつも奈央ちゃんがへんなことしてくるからでしょ。——って奈央ちゃん、自分でヤンデレ気質なこと認めちゃっていいの?」


 必死に抗議するけれど、奈央ちゃんは動じた様子もなく涼しい表情をしている。


「それにしてもお姉ちゃん、改めて考えるとダメ男にひっかかりそうな性格してるよね。自分は仕事をしないでDVばかりするような男をヒモになんてしないでね。ちょっと不安になってきちゃったよ」


「そんな予定もないから!」


 肩で息をしながらつっこむわたし。


 ――奈央ちゃんのいじりの全てに反応してたら身が持たない気がしてきた。


 そんなことを思った時だった。


 何を思ったのか奈央ちゃんがいたずらっぽい笑みを浮かべて、わたしの耳元に向かって囁いてくる。


「でも今のお姉ちゃん、本当にかわいいよ。やっぱり素材はいいんだから、ちゃんとお洒落しなくちゃ」


 奈央ちゃんからのたったそれだけの誉め言葉に嬉しくなってしまうわたしがいた。



 そして結局。奈央ちゃんが選んでくれた服をわたしは購入し、着たまま奈央ちゃんとのお買い物を続けることになったのでした。


 わたしを見て奈央ちゃんは


「想定外にアレが似合いそうな服装にお姉ちゃんがなっちゃったけど……まあそれでもいっか」


と、意味ありげに何かを呟いていたけれど、声が小さすぎて私にはよく聞こえなかった。

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