第5話 カブ畑の向こうへ

 デリーメは、昔はもっと大きな都市だった。


 戦乱に巻き込まれたり、ダンジョンがあふれたり、あふれかけたり、重要な交易路から外れたり。

 様々な要因により、デリーメの人口は全盛期の3分の1以下になってしまった。


 かつての古い建物は、あるものは焼け、あるものは取り壊され、消えていった。


 そんな中で、過去の栄光のままに器だけが残った街。

 それが死霊街だ。




「ほら、行くわよ。

 暗くなる前にやっておくことがあるんだから」

 アイラが言う。


 秋のやわらかい日差しの中、アイラと俺とヴィオラとジル、4人組はデリーメ郊外のカブ畑を歩く。

 天気も風も心地よいが、向かう先は死霊街だ。



 赤毛の少年は見つかっていない。

 以前は、市場にそれらしき少年が出入りしていたが、ここ一週間ほどは目撃されていない。


 黒いフード付きマントの仮面の魔術師も、もちろん見つからない。


 デリーメの城門は『ちゃんと見張っている』らしい。


 ホントかなあ?



 オリーブさん曰く。

「死霊街に潜伏してる可能性が高い。

 赤毛の少年と死霊術師(ネクロマンサー)、どちらでも良いから死霊街で探してくれ」


 簡単に言ってくれるよな!


 でも、一緒に行くと宣言したのは俺だ。

 つまり目的地は、死霊街なのである。



「おーい、そこの4人!

 そっちには死霊街しかないぞぉ!」

 カブ畑の農夫に呼び止められる。


「私達は、その死霊街に向かっているんです。

 冒険者組合の仕事です」

 アイラは愛想良く答えた。


「そりゃまた。

 冒険者組合もひどいね。

 こんなかわいい女の子にやらせる仕事じゃないよ」


「そうですね、でもお仕事なんで」



 農夫とは挨拶して別れた。


 そのあと二回、農作業中の農夫に呼び止められた。

 一度なんか、冒険者組合の書類を見せるはめになった。



「みんな、やたら俺達に話しかけるよな」

 俺は言った。


「彼らは勝手に死霊街に行くヒトがいれば、通報するのよ。

 ちょっとだけど組合から報奨金が出るの」

 アイラが言う。


 そんな制度があるのか。


「死霊街は危険よ。

 でも時々、面白半分に肝試しとかで行く奴らがいるのよ。

 だから、見張ってるの、安全のためよ」



 俺は幼い頃、両親に絶対にぜったいに死霊街に行ってはいけないと言われた。


 しかし、怖いものに惹かれるのもヒトの性なのだ。

 死霊街に遊びに行って祟られたという話は、怪談のド定番である。


 死霊街に行く。

 悪い霊に取り憑かれる。

 しばらく寝込む、あるいは悪い事が続く。

 

 こんな展開だ。


 ひどい怪談だと、そのまま祟られて死んでしまう!


 そして、師匠は言っていた。

 死霊街の怪談は真実だと。

 ホントにあることなのだと。


 怖いよ!



「そんなに恐ろしくはないよ。

 ボクは死霊街に行ったことがある」

 ジルが突然口を開いた。


「ジルが見た時は、どんな風な場所だった?」

 アイラが質問する。


「街はほとんど廃墟で、ところどころに古い建物が残っている。

 そして、幽霊(ゴースト)がいっぱいいる」

 


 ジルは……、エルフ族の偉い魔術師と一緒だった、とかじゃないのか?

 俺達の参考にして良いのだろうか。



「まあ、その時のボクは、エルフの偉い魔術師といっしょだったんだけどね」

 ジルがまとめた。


 俺とアイラが二人揃って溜息をつく。


「その女もいるし、大丈夫だよ」

 ジルは少し時間をおいて言った。


「その女じゃありません。ヴィオラさんです」


「……ヴィオラさんもいるし、大丈夫だよ」

 ジルは言い直した。



 死霊街への道はなだらかな上り坂だ。

 両脇はカブ畑。

 今のペースで小半時も歩けば、着くだろう。

 道の轍(わだち)を避けながら歩く。


 先頭はアイラ。

 斜め後ろにジルだ。


 俺とヴィオラは少し離れて付いていく。



 でさ、ジルなんだけど、俺が近づくと離れるというか、逃げるんだよ。


 気のせいかな?

 多分、気のせいじゃないよな。


 俺は以前、ジルが怪我をした時に上級治癒(ハイヒール)をかけて治療した。


 嫌われるのは不当だと思う。

 ……思春期の難しい年頃の女の子は、こんなものなのか?



 カブ畑は、途中で森に変わった。


 森の中の道は、白い砂利が敷いてあった。

 夜目にも目立つだろう。


 森の木々は大きく古い。

 木々のゴツゴツした幹は、その成長にかかったかかった時間を感じさせる。

 下草が深く、ヒトの手はほとんど入ってなさそうだ。


 しばらく進むと、地図通り石垣が見えてきた。

 野良(のら)積みの頑丈そうな石垣で、高さは150センチってとこか。


 越えようと思えば、越えられそうだ。


 そして石垣の向こうには、廃墟が見えた。


 左手に石垣を見ながら歩いて行くと、大きな門が見えてくる。



 死霊街の門だ。


「行くわよ」

 アイラが言った。



 さて、今回の探索(クエスト)にあたって、冒険者組合から渡された物がある。

 人数分の護符と鍵の束だ。


 アイラが預かった鍵の一つを、鍵穴に差し込む。


 カチリ。


 鍵が外れる音がする。


「わたしが開けます」


 ギィィィぃ。


 ヴィオラが扉を押すと、重そうな木の扉がやすやすと開いていく。



 オリーブさんからは、くれぐれも正門から入るように注意されている。

 正門から入る者は、死霊街の正式な訪問者となるのだ。


 俺達は門を越え、死者の街へ一歩を踏み出した。




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