第4話 冷たい死体

 死体の胸元にはナイフが刺さっていた。

 死体の周りには大きな血溜まりがある。

 おそらく心臓一突き。

 出血量を考えても死因はこれだ。


 これはつまり。

 俺の心に光が差した。


「……俺はこの人を殺していない。

 俺は死体の上に落っこただけだ」


 そうだ。

 俺が殺したんじゃない。

 この女性は誰かに心臓を刺され殺された。

 俺は運悪く死体の上に落っこちた。

 それだけだ。



「あなたが落っこちたショックで胸をナイフで突いたかもしれないわよ」


 地図屋マッパーアイラ、その発想は強引過ぎるよ。



「思い出したよ。

 俺が落ちてきた直後、この女性の体はすでに冷たかった。

 彼女は俺が落ちてくる前に死んでいた」


 そうだ、思い出した。

 落ちた直後に確認したが、彼女の手も頬もすでに冷たかった。

 死んだ直後ならまだ温かいはずだ。


「証拠は?」


「証拠はないよ。

 でも嘘はついてない。

 俺は人殺しじゃない」


 俺は堂々と宣言した。

 だれが殺したにしろこの女性は死んでいる。

 それが現実。

 でも生きている俺にとって、だれが殺したかは重要な問題だ。

 俺は人殺しではない。


 



「一層ダンジョンで落とし穴に落ちて、偶然出来立てホヤホヤの死体の上に落ちたっていうの?」


 地図屋マッパーアイラは俺をまだ疑っているようだ。


「偶然でも事実だ」


「証拠はある?」


 でた!証拠水掛け論。

 姉と妹がよくやるヤツ。


 ともかく俺は人殺しじゃない。だいぶ判断力が普通に戻ってきた。



「それならあなたがこの女性を殺してないという証拠はあるのか?」

 俺はアイラの言葉をそのまま返す。

「ナイフで殺してその場を離れて、誰かがその場にあらわれた時点で『人殺し!』ほら、辻褄は合うじゃないか」


「なんですって!

 私は冒険者組合と契約したれっきとした地図屋カタギよ。

 なんで人殺しをしなきゃいけないの!」

 地図屋カタギアイラのこめかみがピクピク動いた。

 割と短気な性格なようだ。


 俺とアイラは睨み合った。

 姉と妹に挟まれてる僕は知ってる。

 ここで怯んではならないことを。



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