メイク講座と女子トーク
こうして私は先輩……東雲先輩に化粧のレクチャーをしてもらうべく、スーパーのファーストフードコーナーでソフトクリームをおごると、それを食べてもらいながら話を聞くことにした。
先輩はなぜかプリプリと怒っていた。
「というか、あなたが使ってる化粧品。どんなのか言いなさい」
「私あんまりお小遣いありませんし、お年玉とかも全部親に渡してるんで、季節限バイト分くらいしか余裕のあるお金ありませんよ?」
「プチプラはプチプラでいいものはあるけどね。はっきり言って大は小を兼ねるというか、高いものはそれひとつで充分使い回せるよさがあるのよ。はい言う」
「ええっと……」
私がそれぞれ名前を挙げていくと、東雲先輩はソフトクリームをもりもり食べつつ、目を細めた。この睫毛自前か盛ってるのか聞いてないなと思いながら睫毛を凝視していたら、思いっきり睨まれた。
「人のこと、ジロジロ見るのは行儀悪いって習わなかった?」
「ああ……すいません。睫毛長くていいなと思って見てました」
「……睫毛は一生懸命美容液で育てたのよ」
「すごい! 睫毛専門の美容液があるのは知ってましたけど、育つもんなんですねえ!」
「……リンスとシャンプーをどれだけいいもの使ったって、お風呂から出たらドライヤーを当てないと髪の毛のツヤなんてキープできないじゃない。それとおんなじ。毎日使うべきタイミングで使えばどれもそれなりになるもんよ」
「なるほどぉ……!」
自前で睫毛が長くなるならいいなあと、先輩から睫毛用美容液の使い方と使うタイミング……寝る前にどれだけきちんと基礎化粧品するかの話をスマホのメモ帳でメモっていたら、先輩に溜息をつかれた。
「あなた、それだけ一生懸命でお節介なのに、どうして彼氏できないの?」
「えー……どうしてでしょうねえ? そんなの私が聞きたいですよ。だいたいの人が口を揃えて言うんですよ。『友達にするのはいいけど、付き合うのは無理』『嫌いじゃないけど彼女にはしたくない』って。私、そんなに駄目なんですかねえ?」
「駄目かどうかは知らないけど、その恩着せがましさがあったら、もうちょっと彼氏できそうねと思っただけ」
……東雲先輩、口は本当に無茶苦茶悪いけど、もしかしなくっても私のこと褒めてくれてる? 私は目を瞬かせた。
「先輩って、その優しさを普通に黄昏先輩に向けたらよかったのでは?」
「……黄昏くんは、本当に皆で眺めていればいいの。抜け駆けなんて許されないのに。それをあなたが勝手にいろいろやったから……」
「うーんと。黄昏先輩は会いに行けるアイドルではなくって、人間ですよ?」
「知ってるけど!?」
「ええっと……うちの友達も、黄昏先輩好きなんですけどね、私が玉砕したのを見て、怖がって告白しないみたいです。なんと言いますかね」
これはいっつも不思議なんだ。
人のことを噂しまくり批評しまくる人は、自分がやれること本当にやってるのかなあと。私が怒られる必要、どこにあるんだろうなあと。
だって私、別に彼氏だったら誰でもいいって訳じゃなく、好きになった人にモーションかけているだけだ。好きになりましたってアピールもしないで、どうして好きになってもらえると思うんだろう。だってさ、待ってたって恋はどうにもならないじゃない。どうして都合よく自分が好きな人が実は自分のことが好きでしたってなると思っているの。
「……好きになるって、もう自然現象でどうしようもありませんから、さっさと告白かなんかして、現状変えたほうがいいと思います。黄昏先輩、勝手にあがめ奉られても困ると思いますから。私のこと今でも適当にしゃべってくれているのは、単純に私が人間扱いしたからだけだと思いますから。恋愛的なものは一ミクロンもありませんから、先輩たちにいちいちビッチ扱いされて怒られることじゃありません」
「……あなたのそういうとこ、ほんっとうに嫌」
なんか嫌われた。
ソフトクリームおごったじゃん。私がブスくれている中、努力の才能開花しまくっている東雲先輩は唇を尖らせてそっぽを向いた。私のおごったソフトクリームはとっくの昔になくなった。
「まあ、あなたの言うことも一理あるから、考えとく。というか、あなた。友達の応援はしなくていいの? そういうデリカシーの欠けているところが気に食わないのよね」
「そう言われましても。友達に相談されたら応じますけど、余計なお世話と言われたら悲しいですし。それに黄昏先輩に厄介ファンが付きまくっているのはうちの学年も知ってますから、そりゃ怖がって近付けないとかもあるでしょうよ」
「ほんっとうに嫌」
私以外の恋愛論聞くのはあんまりないけど、本当に難しいなあと思ってしまった。
私は私で、螢川くんをどうすればいいのかさっぱりわからんから、人に余計なお世話している場合ではないんだけど。
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