デートですか ただの初遊園地です
ヒーローショー午前の部が終わったら、そのタイミングはちょうどお昼なため、遊園地内の椅子もベンチもどこもかしこも満杯だ。
その上お昼ご飯を売っている店はどこもかしこも混雑していて、なかなか買えなさそうだった。
その中でも螢川くんは興奮していた。
「すごかったなあ、ヒーローショー! あんなに臨場感があるものとは思ってなかった! ヤングキングもナイト仮面も格好良かったし、テレビで流れていても遜色ない展開だったのはさすがだった!」
「そうだったんだねえ。話がするっと飲み込めるのはいいことだと思うし、実際に初めて見た私でも話はわかりやすかったよ」
「そうかそうか! 朝霧さんも面白かったんだったらよかった! ……俺のワガママで一緒に来てもらったもんだからなあ」
そう言って笑う。
そういえば。私は思ったことを聞いてみた。
「螢川くんは割と友達と一緒に遊んでいるけれど、一緒にヒーローショー見に行く人はいなかったの?」
「いなかったなあ。特撮は子供のものだって信じて疑ってないから。でも親御さんたちが一緒に行くってのは、親も興味がなかったら厳しいと思うんだけどなあ。だって、ベルトやヒーローアイテムをサンタさんに頼んでくれるのは親御さんだろう? どこの特撮をつくっている会社だって、親御さんのことは念頭に入れているはずだけどな」
「そういうもんだったんだあ……でも、螢川くんが喜んでくれたんだったらよかったよ」
それにしても。今日は本当にお弁当持ってきたほうがよかったなあというくらいに、人が多過ぎてご飯食べられる場所がない。
「どうしよう……遊園地の外に行ったらファーストフードショップとかあると思うけど、ここだったら食べられなさそうだねえ……」
「でもここから出たら、もう遊園地にチケット買わないと入れないよなあ?」
「そりゃまあ、そうだけど」
螢川くんはチラリと見てから指を差す。
「俺、今だったら乗り物も人が空いていると思うから、屋台が空くまで乗り物に乗ろうかと思っているけど、朝霧さんはどうだ?」
そう言われて、私はハッとする。遊園地にほとんど行ったことがない人だから、乗り物だって乗りたがるんじゃ。それにお腹に物入ってたら気持ち悪くなる乗り物だってあるし、ここは一緒に乗ったほうがいいかも。
「うん、一緒に乗ろう!」
「そっか、ありがとう! 俺もどれがどうなのかとか、全然知らないんだよなあ」
そう言いながら、ふたりで乗り物を乗りに出かける。
ジェットコースターは子供が乗れるようにと最優先に考えた結果、スピードはあっても高さはない絶妙なバランスになったものとか。空飛ぶブランコとか。サイクロンドラムとか、大きな遊園地だとあまり見なくなったようなアトラクションが今も残っている。
私たちはひとまずサイクロンドラムに乗り込むと、係員さんにベルトを着けてもらって、起動させられる。グルングルンとドラムが動きはじめると、私は歓声を上げはじめた。螢川くんはどうだろうと思ったら、彼は目を輝かせていた。
「すごい! これが遊園地か!?」
「コーヒーカップとか、メリーゴーランドとか、おばけ屋敷やミラーハウスもあるけど、絶叫マシーン系は人が混雑するから、乗るなら今の内かなと思ったの!」
「そうか! すごいな!」
ふたりでグルングルンと回るのに任せて歓声を上げる。声を上げているとかなり気持ちがいい。降りたときは、ふたり揃って目を回しながら歩いて行った。
「ふう……最初の乗り物は結構くるものがあったなあ」
「大丈夫? 結構目が回るよねえ……」
「でも楽しかった。あー……俺たちが乗り物乗っている間に、ホットドッグだったら食べられそうだけどどう?」
そう指差した先には、ホットドッグとドリンクを売っている屋台が出ていた。さっきまで結構並んでいたはずなのに、今はちょうど人が引いている。
それに気付いたらキュルリとお腹が鳴って、思わず顔を伏せる。すると螢川くんはにっこりと笑った。
「普段お弁当つくってもらってばっかりだもんな。今日は俺がおごる。すみませーん、ホットドッグふたつとコーラひとつ……朝霧さんは飲み物どうする?」
「ええっと……ホットコーヒーミルク付きで」
「ホットコーヒーミルク付けて」
「かしこまりましたー」
出来たて熱々のホットドッグをふたつに、コーラ。ホットコーヒー。私たちはちょうど空いたベンチに座って食べはじめた。
ホットドッグはひと口食べるとケチャップとソーセージのジューシーさに加え、パンの柔らかさと一緒にピリッとした味がする。これ、普通だったらマスタードなんだけど、マスタードはもっと酸っぱい感じなのになあ。
食べてみたらカレーソースが仕込まれているのに気付いた。
「おいしいー」
「うん、美味い! ホットドッグもたまにものすごーく食べたくなるな」
「そうだよねえ。おいしい」
「食べ終わったら、次はなに乗ろうか」
「今食べたばっかりなのに、体がシェイクされるようなのに乗ったら吐いちゃうよ。もうちょっとゆったりした乗り物乗ろうよ」
「そうだなあ……だとしたら、あれか!」
そうして指差したのは、コーヒーカップだった。たしかにあれは、むやみに回さなかったらのんびり乗れるけど。
ふたりで向き合って乗るのかあ。ちょっとだけデートみたいだなあと嬉しくなった。
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