転校生とヒーロー
次の日、私はものすごく着替えも登校時間も気を付けていた。
昨日の人、多分私と同い年だと思うし、もしかしたら教室で会うかもしれないし。だから昨日ちょこっとだけ稼いだ好感度を、いきなり下げるような真似はしたくなかった。
髪はハーフアップで髪の手入れのよさとツヤをアピール。制服は埃ひとつないようブラシで綺麗に叩いてきた。そしてレモンの香りのリップクリーム、制汗剤にもレモンの香り。
可愛さアピールしている格好で歩いていると、奈美子ちゃんと「おはよー」と出会った。私が気合いを入れているのに気付いたのか、おずおずと尋ねてきた。
「まさかと思うけど……昨日の人にもうひと目惚れしたから、その人にアピールするために?」
「そう! 切り替え大事! 私は黄昏先輩に相手にしてもらえなかったからと言って、すぐへこむ訳ではありません!」
「……黄昏先輩も昨日の今日で、すぐ次の男子を追いかけているんじゃ、失礼では……」
本当におずおずと言ってくる奈美子ちゃんに、私は首を傾げた。奈美子ちゃんはキューティクルツヤツヤのボブカットで、髪はストレートパーマを当てずとも真っ直ぐな髪をしている。制服もよく似合っているものの、ポイントになるものは付けていない。
その指摘をされつつ、私は「うーん……」と腕を組んだ。
「……そこで私のこと執着する人ではないよ? そもそも失恋って、後生大事に抱えて引きずり続けないといけないものなの? それで自分のこと好きになってもらえる訳でもないし」
「……私はそこで達観している未亜ちゃんが時々羨ましくなるよ」
「そーう?」
そうこう言っている間に学校に到着し、教室に入ると。新しい机が運び込まれて、ちょうど私の真後ろの席になっているのが目に留まった。
「あれ、これって……」
「おはよう、転校生来るってさ」
「男? 女?」
「可愛い子だったらよかったのになあ……男だってさ。しかも、なんか変」
「変って……」
「朝霧が惚れると思う人ー」
何故か続々と手を挙げる人多数。コラコラコラコラ、私の惚れっぽさで遊ぶんじゃないよ君たちは。
「人の恋路で遊んではいけないと思います!」
「朝霧惚れっぽいし。そして多分フラれる」
「クラスメイト同士でギスるのはやめろよー。お前は大丈夫だろうけど」
「ヤンノカコラァ」
「やめて! 未亜ちゃん喧嘩売らないで!」
私はまたしても奈美子ちゃんに羽交い締めにされていたら、予鈴が鳴った。そしてうちの担任がやってくる。
「ええっと、教室に机が増えているので知っているのもいると思うが、転校生が来ました」
既に男子だとわかっているせいか、男子はダウナー気味だ。逆に女子は「カッコイイかな?」「いい人かな?」と騒いでいる。
私は昨日出会った人を思い返し、胸をキュンキュンと高鳴らせていた。
やがて、ドアがガラッと開く。
「頼もーうっっ!!」
うちの制服はブレザーだけれど、見事にネクタイは付けておらず、襟首は緩んでいた。その中更に真新しいジャケットを腕まくりしているのは、たしかに昨日子猫を助けてあげていた人だった。
周りは引いている。今時熱血タイプだから引いている。
私はその流れにものすごく覚えがあったものの、彼を見て頬を火照らせていた。
「俺は
周りは彼の熱い台詞に困惑しているものの、私のボルテージは高まるばかりだ。
あの人なら……あの人なら。私はキュンキュンした胸のまま、螢川くんを見つめていた。私の馬鹿さ加減を受け止めてくれるかもしれない。
自分でも恋をした途端に、全くブレーキが利かなくって困っていた。周りはあれだけ忠告してくれても全く耳を貸さないのはよくないとわかっていた。でも、本当に好きになったら好きしか頭に入らなくなる。
自分でも馬鹿だ馬鹿だとわかっているけれど、螢川くんだったら、私の気持ちを受け止めてくれるかもしれない。
教室の困惑の空気を一切無視した担任は「それじゃあ、席はあっちの……」と新しく置かれた私の後ろの席を指差す。螢川くんはこちらにスタスタと歩きながら、私のほうに視線を寄越してきた。
「あれ、君は……」
「わっ、わっ……」
周りの空気が生ぬるい。「お前昨日フラれたばっかりじゃん」という視線もちらほらあるような気がする。
よく誤解されるけど、私は恋愛体質だけど、顔だけでひと目惚れしたことは、一度もないよ。人のいいところを見たら、すぐに好きになっちゃうだけだ。
「お久し振り! よろしく!」
私がロックオンしたのを、これまた周りは生ぬるい目で見つめていた。
「次フラれるまで何週間?」
「一週間」
「半分」
「それもう数日だろ」
だから人の恋路を賭けの対象にするのはやめたまえ。
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