御年玉

「御年玉……」


 思わず反唱し、亮介はその言葉を口に出した。もう何年も会っていないので、比奈子に御年玉を渡すことは随分としていなかった。していなかったが、数年振りの再会理由が、まさか御年玉の無心だったとは。

 男女に関係なく、年頃になれば何かと物入りではあろう。

 けれども、まだ十二月の中旬で、御年玉を渡す時期としては少々早い。

 亮介は手前にあるコーヒーカップの取っ手を摘まんで持ち上げるも、口をつけずにそのまま置き、今度は両腕を組んで唸り始める。


「うーん……あぁ……そうかぁ……」


 可愛い姪っ子の金銭目的の訪問に、最低の叔父は動揺を隠せない。

 それから、ほんの数秒間だけ固まってしまったが、気を取り直した亮介は、穿いているチノパンのうしろポケットから財布を取り出す。

 すると比奈子はそれに素早く反応し、


「あの……今までの貰ってない分、まとめて全部ください!」


顔を真っ赤にして、声を大きく張った。


「ええっ?! 全部って……」


 数年分まとめての御年玉となっては少なく見積もってもそれなりの金額になる。理由を知らない訳にはいかない。たずねようとする亮介よりも早く、比奈子は両手を合わせると、〝何も聞かないで〟と言わんばかりに、眉根まではっきりと八の字に寄せた困り顔で拝み続けた。


 結局、長年接してこなかったうしろめたさもあり、今までと来年の分の御年玉を合算して比奈子に手渡した。


「亮ちゃん……本当にありがとう! これからはもう、御年玉は要らないからね!」


 エレベーター前で去り際にそう言い残しながら乗り込んだ比奈子は、小さく手を振りながら笑顔もつくってみせる。

 苦笑いで同じように手を振り返す亮介は、こうして姪っ子との短時間の再会を終えた。


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