第24話 気配

「おはようございます、高月たかつき先輩! 今日が俺が淹れますよ。何が良いっすか?」

「……おはよう、戸波となみくん。そうね……それなら、紅茶をお願いしても良いかしら?」

「畏まりました!」



 それから、1週間ほど経た朝のこと。

 目を覚まし、夢現の意識にて徐に身体を起こす。すると、ほどなくそっと鼓膜を揺らす柔らかな声。その方向へ視線を移すと、声音に違わぬ柔らかな微笑を浮かべる美男子の姿。……あれ、起きてるよね? 実は、まだ夢の中なんてオチで……いや、よそう。とぼけてみても仕方がないし。


 さて、この状況に関して説明を。本件――ストーカーの件が解決するまで、ひとまずここ高月海織みおりの部屋で一緒に暮らしてほしいとの旨を昨夜お願いしたわけで……うん、説明するまでもなかったね。




「――それにしても、1週間も経つのに未だに信じられないっす。こうして、高月先輩とルームシェアをしているなんて」

「……いや、ルームシェアって……まあ、間違ってはいないのかもしれないけど……こう、もっと適切な表現がある気がするのだけど。……こう、どう、どうせ……いえ、何でもないわ」


 それから、数十分経て。

 軽い朝食を取りつつ、そんな他愛もない応酬を交わす私達。……いや、ルームシェアって。まあ、確かにルームはシェアしているけども……こう、なにか違う。


 まあ、それはさて措き……今はさて措き、その気持ちは理解できる。私だって、自分でお願いしておきながら未だに信じられない。随分な矛盾だと我ながら思うけれど……それでも、こんな日々がずっと続けばなんて思ってしまう自分がいて。





「……いやー今日は特に忙しかったすね先輩。でも、それがなんか楽しくもあったり」

「ええ、そうね戸波くん。流石に少し疲れたけれど、それがむしろ充実感に繋がっていたように思う」

「そう、そうなんすよ! 流石先輩!」



 それから、およそ半日ほど経て。

 すっかり夜の帷が下りた帰り道を、未だ残る昂揚感と共に歩いていく私達。この会話が示すように、今日は本当に忙しかった。それで、仕込みなどの時間も後にずれ込んでしまい、結果として閉店作業も平時より遅くなってしまい……まあ、良いんだけどね。彼の言うように楽しかったし、お客さんがたくさん来てくれるのはありがたいし嬉しいから。……ただ、それはそれとして――



「――ところで、いつまで付いてくるつもりっすか?」


 すると、ふと振り返りそう問い掛ける戸波くん。それは、私に対して……ではなく。そもそも私は隣にいるのだし。それでは、誰に対してかと言うと――


「…………あっ、えっと、その……」



 少し後方、電柱の陰でオロオロする華やかな顔立ちの女性――カフェ『TAKATSUKI』の大事な戦力たる大学生スタッフ、藤巻ふじまきさんに対してで。



 ――ここ数日、何度か気配は感じていた。そして、彼女である可能性もあるとは思っていた。だからこそ、通報することは避けたわけだし。


「……あっ、えっと、その……ごめんなさい!」

「あっ、ちょっと待っ――すみません、先に帰っててください先輩!」

「……へっ? あっ、ちょっと待っ――」



 すると、困惑の様子でそう言い残し脱兎の如く去っていく藤巻さん。そして、そんな彼女を一心不乱に追っていく戸波くん。……まあ、そうなるよね。流石にこのまま逃がすわけにもいかないし。



 ともあれ、このまま佇んでいても仕方がないのでそのまま帰路を進むことに。……それにしても、可能性は考慮していたものの……正直、違っててほしかったという思いはあって。尤も、理由はおおかた察せられるけ――



「――――っ!!」


 刹那、背筋が凍る。どうしてか、去ったはずの……いや、違う。これは、もっと異質べつの――


 ……そもそも、どうして気付かなかった。あの日――戸波くんに来てもらった日に感じた視線は……恐怖は、ここ数日の――さっきの比なんかじゃなかった。……つまりは、彼女とは別の――



「――――っ!!」



 瞬間、口が何かに覆われる。そして、ほどなく意識が途絶え――




 




 


 

 

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