第8話 カフェ『TAKATSUKI』
「――今日もありがとうございます、
それから、暫く経て。
夕さり頃、若い男女のお客さんを笑顔で見送る
ちなみに、先ほど戸波くんは名前を呼んでいたけれど――今の2人が、以前からの彼の知り合いというわけではなく。ただ、誰に対してもそうなだけ。なんと、彼は来店する全てのお客さんから名前を聞き、お客さまではなく
とは言っても、当然ながら誰に対しても強制することはない。実際、そういうのが苦手で迷惑そうにする人もいるし、それも当然。だけど、大半の人は喜んでくれているのが傍目にもはっきりと伝わって……ほんと、私には到底できない芸当ね。
「ところで、ほんと良いとこっすよねここ。働いてるから言うわけじゃないっすけど、他のどのカフェよりここが好きっす。こっから見える自然も最高ですし、店の中も幻想的で……すみません、語彙力なくて、俺」
「……いえ、とても嬉しいわ。ありがとう……と言うのも少し変ね。私だけのお店じゃないのだし」
その後、ほどなくして。
営業を終え閉店作業の
さて、ちょうどその話が出たので軽く当カフェの説明を――ここ『TAKATSUKI』は地元の小さな山の中腹辺りに立ち、
「――でも、やっぱ一番は
「……っ!! ……全く、調子のいいことを……」
すると、パッと咲くような笑顔でそんなことを言う戸波くん。……全く、私なんかのどこがそんなに良いんだか。
「……ねえ、戸波くん。随分と野暮なことを聞くようだけど……貴方、今までに交際していた人はいたの?」
「ええ。一応、高校時代に一人だけ。まあ、すぐに振られちゃいましたけどね……俺のせいで」
「……そう、申し訳ないことを聞いたわね」
「いえ、気にしないでください!」
それから、ほどなくして。
黄昏に染まる帰り道にて、少し躊躇いつつそんなことを尋ねてみる。すると、嫌な
ただ、それはそうと……まあ、思った通りと言うか、交際経験はほとんど無かったようで。と言うのも、中々に衝撃ではあったけど……彼にとって、ああいう行為は昨夜が初めてだったそうなので。
そして、それは紛れもなく事実だろう。尤も、元より彼の言葉を疑うつもりなどないし、そもそもその必要もないのだけど……彼にそういう経験がないことは、昨夜のあの
「……そもそも、ないですから」
「……へっ?」
すると、ふとそう口にする戸波くん。そして、柔らかな眼差しでふっと微笑み告げる。私の良く知る――されど、胸がぎゅっとなるような哀しい
「……そもそも、ないんです――俺に、誰かを愛する資格なんて」
「…………ふぅ」
それから、数時間後。
夕食や入浴、そして読書を終え毛布へとうつ伏せになる私。……ふぅ、今日は色々と忙しない日々だった……主に、心が。まあ、そういう意味では今日も仕事でむしろ良かったけど。
ただ、それにしても……随分、冷めた女なのだと我ながら改めて痛感する。まあ、それはお互い様なのかもしれないけど……裏切られた形になったとは言え、3年以上も付き合ってきたはずのあの人が、昨日の今日だというのにほぼ脳裏にすら過らない。少なくとも、今日1日彼のことで何かしらの感情が動いた記憶がない。そういう意味でも、やはり昨日の
ぎゅっと、毛布を手繰り寄せる。……戸波くんの、匂いがする。刹那、ハッと蘇る。感触、温度、眼差し、笑顔――あの夜の全てが、ハッと脳裏に蘇る。それは、この上もなく心地好く――
『……そもそも、ないんです――俺に、誰かを愛する資格なんて』
刹那、ぎゅっと胸が痛む。……何が、あったの? 貴方の過去に……いったい、何が――
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