第19話 ついに本番! お芝居「聖女と竜」

 ついに本番を迎えた、ステラとブルー。そして生徒たち。彼女たちは、みごとお芝居を成功させることが出来るのか……。


 本番をひかえ、ブルーは舞台のはじ衣装いしょうに着替えていた。トレードマークの赤いマントから、黒いローブに変えると、不気味な笑い声をひびかせた。


「うひひひひ……」

「どうしたのですか、ブルー。緊張しているのですか?」

「おいら優秀だから、緊張なんてしない!」


 そういいながら、歩き方がカチコチのブルーはガチガチに緊張していた。右手と右足が同時に前に出たり、何もないところでつまづいてしまっていた。


「ブルー」

「なんだい」


 ステラはブルーを呼ぶと、しゃがみ込んで言った。


「命令じゃないけれど……。ブルーはブルーで、竜さんは竜さん。自然にいこうね。セリフを間違えても大丈夫ですよ」

「ステラ……。セリフ間違えたら、ロジャーのやつに怒られるんじゃないか?」

「大丈夫です。全てうまくいけばいいのですから。アドリブってわかります?」

「あどりぶ?」


 ステラはブルーの小耳に、ささやいていった。


 ◇◇◇


 開演にともない、多くのお客さんが会場につめかけていた。妖精型召喚獣で主役の聖女を演じるランは、聖女の衣装いしょうを着たままボーっとしていた。


「ラン、大丈夫?」

「セレーネ様。大丈夫です。セリフすべて覚えてあります」

「ねえ、ラン。お芝居は、うまくいけばそれでいいのよ」

「はい」

「だから、もし、セリフが出てこなくなったら、アドリブをきかせたらいいの」

「あどりぶ……ですか?」

「そう。例えば……」


 セレーネもまた、ランの小耳にささやいていった。



 ◇◇◇


 開演のブザーがなりひびいた。ナレーション(お話の語り手)役の生徒たちが、代わる代わるセリフを言っていった。


「むかしむかし、そのまたむかしのおはなしです」 

「ある国のはずれに、とても恐ろしい竜が住んでいました」

「その竜は毎晩、人が住む村へと姿を現しました」

「竜は、『ブレス』と呼ばれる炎を吹いては、村々を灰に変えてしまいました」


 ブルーが登場した。黒いローブをなびかせながら、文字通りの『ブレス』をはいた。ブレスは力を抑えられており、生徒たちが作った村のイラストだけが燃え広がった。これも、練習の成果だ。

 ブルーはぶきみに笑うと、羽を羽ばたかせて舞台のはじっこへ消えていった。


「村人たちは夜も眠れず、王様にすがりました」 

「どうか、この竜を退治してください!」

「王様はすぐに討伐令を出しました」

「しかし、どんなに勇敢な騎士や魔法使いも、ブレスの炎の力の前には無力でした」


 再びブルーが登場した。『ブレス』で用意されたイラストを燃やしていった。今度は力強く、『ブレス』をはいたのだ。用意されたイラストは燃えて、灰になっていった。その迫力に、会場のお客さんたちは息を飲んだ。

 ナレーション(お話の語り手)の生徒の声が更にひびいた。


「竜は強大で、誰も倒すことができなかったのです」


 ブルーは嬉しそうに『ブレス』をはくと、舞台の空へと飛んでいった。


 ブルーを舞台のはじで待っていたステラは、ブルーを出迎えた。ブルーは嬉しそうに飛び跳ねながら、後ろに一回転回った。


「見てくれたか、ステラ! 練習通り上手くいったぜ!」

「見てました! 凄くカッコよかったです!」

「へへん! 当然だい。おいら、優秀だからね!」


 ブルーが胸を張ったとき、舞台には聖女役のランがゆっくりと歩いていった。自慢の羽根は衣装で隠れている。


 そんな時、ナレーションの一人、セレーネの声がひびいた。


「そんなある日、一人の少女が静かに手を挙げました」


 ランは小さな手を高らかに振り上げると、大きな声を上げた。


「王様!」


 ナレーションのセレーネは、胸を張っていった。


「少女の名はリリ、森の小さな村に暮らしています。彼女は言いました」

 

 ランは王様へ向かって、会場のお客さんに向かって言った。瞳が輝き、妖精としてのきらめきを放ち、ライトが当たっていないのに光りかがやいて見えた。


「私が行きます。どうか、信じてください」

「王様も村人も驚きましたが、リリの強い眼差しに心を打たれ、ついに彼女を竜のもとへ送り出すことにしました」


 セレーネはランへウインクした。ランは嬉しそうに微笑むと、生徒たちのつくった熱そうな火山のイラストの前を歩いていった。


「リリは一人、火山のふもとへと足を運びました」

「そこには言い伝えにある、炎と煙をまとう巨大な竜が待ち受けていました」


 ブルーが再び、黒いローブを着て現れた。ブルーは翼をひろげると、体を大きくして見せた。ランはゆっくりと一歩ずつ近づき、恐れることなく言った。

 

「あなたは、どうして村を焼いてしまうのですか?」


 すると、ブルーは低い声で答えました。


「僕は昔から、孤独だった……。悲しみを忘れるために、人里に出向いていた。人は僕を怖がるからな」


 ランはそっと手を差し伸べ、言いました。

 

「あなたは悪い子じゃない。むしろ、優しい心を持っているはず。さみしかっただけなんでしょ? 私は、あなたを信じていますよ」


 ブルーは黒いローブを被ると、こっそりと目薬をさした。そして、ローブから顔をだすと、目から涙をこぼしました。

 

「おいら、いい子になる!」


 ハッとしたブルーは、自分が『僕』ではなく、『おいら』と思わず言ってしまったことに気付いた。ところが、ランは嬉しそうに微笑むとこういった。


「うん! おいらはいい子!」


 会場から、ワッと笑い声がひびいた。感動したお客さんのなかには、涙を流しながら笑っている人もいた。ウインクを決めるランに対し、ブルーは大きくうなづいた。


 最後のナレーションの声がした。


「それから不思議なことに、竜は人里へ火を吹かなくなりました」

「村を焼くどころか、リリと一緒に夜明けの街道をパトロールし、 山の獣が村を狙わないよう見守るようになったのです」


 ブルーは黒いローブをひっくり返すと、白いローブを被りなおした。そして、聖女であるランを背中に乗せ、村の上をパトロールしはじめたのだ。


「村人たちは驚きましたが、少しずつ竜を恐れなくなりました」

「そして、リリを『聖女さま』と呼び、優しい大きな竜を村の『守護者』として、心から歓迎したのでした」



「めでたし、めでたし」


 会場からは大きな拍手がわきおこった。得意げのブルーと、恥ずかしそうなランを前に、監督であるロジャーは苦笑いを浮かべていた。

 こうして、ローザファルベン召喚魔法祭はあっという間に終わってしまった。


―無事に終わってよかったね! めでたしめでたし! ブルーとラン、そして生徒たちに召喚獣のみんな、お疲れ様です! つづく―

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