「未来」か「現在」か。それが問題だ。

 イーロン・マスクはSpaceXで「火星移民計画」を推進するというが、本当だろうか?


 いまSpaceXは2024年10月時点で総計260回宇宙空間にロケットを打ち上げている。2023年には年間91回(98回とも)の打ち上げすべてに成功した。今年2024年は11月20日時点で110回もロケットを打ち上げたと言う。


 民間企業が並みいる先進国を押しのけて、宇宙開発分野のトップに立っている。信じられないような偉業であるが、マスクははじめから達成可能だと思っていたようだ。


 その根幹にあるのは工業生産という活動に関する徹底した理解だ。


 累積生産量を増やせば、品質は上がり、コストは必ず下がる。これは動かしがたい事実であり、エンジニアリングの鉄則である。


 ならば、累積生産量を誰よりも増やせば、誰よりも高品質なロケットを誰よりも低コストで打ち上げることができる。マスクはその確信からスタートしたに違いない。


 では、累積生産量を増やすのに必要な条件とは何か? 資金である。金だ。

 ロケット開発~打ち上げには途方もない資金が必要だが、それを惜しまず投入すれば確実に「世界一」の立場に立つことができるのだ。


 実に簡単なことだった。


 マスクほど宇宙産業に資金投入する個人、団体、国家は存在しない。「やる!」と決めた段階でマスクの勝利は確定するのだ。


 たとえてみるなら巨額の博打のようなものだ。ギャンブルに必勝法はないというが、実はある。

 それは「カジノを買い取る」ことだ。


 すべての賭博は、基本的に胴元しか儲からないように設計されている。だったら、胴元になってしまえばいいのだ。


 なぜ、マスク以外の勢力は宇宙産業にマスク以上の資金を投入しないのか?

 それは「リスク」があるからだ。言葉を変えれば儲からないからだ。少なくとも数年に渡って。


 日本ではホリエモンがファウンダーを務めるインターステラテクノロジズ(IST)が民間でのロケット打ち上げに挑戦を続けている。

 ISTは2013年に事業開始し、2019年に小型ロケットMOMO3号機で初めて宇宙空間に到達した。現在は商業化ロケットであるZEROタイプの実用化を目指しているところだ。


 つまり10年間開発を続けているが、まだ1円も稼げていないということになる。商業化に成功するという保証はどこにも存在しないのだ。


 そこにマスクと堀江の差がある。才能の差ではない。資金力の差だ。


 ギャンブルの必勝法は、実はもう1つある。これは事業での成功法と共通しているのだが、「勝つまでやめない」ことである。

 Forbesやプレジデントという経営誌に登場する「経営の神様」と言われる人たちのほとんどは「あきらめずにやり続けた人」なのだ。


 もちろん成功者の中には天才も人格者もいるだろうが、「途中でやめる人」は成功者になれない。これは間違いようのない事実だ。


 やり続けるために必要なのは、やはり金だ。その金は人から借りてもいいし、国から補助金を引っ張ってきてもいい。自分の財布に入っていれば、最も確実だ。


 ここでもイーロン・マスクという人間が世界最強なのである。


 ツイートするだけで、数千億の相場を動かせるのだよ? マスクが事業を起こすとなれば、世界中の金持ちが競って出資する。

 だって、負けないのだから。


 カジノを買い取る話を思い出してほしい。マスクはTwitterを買収してしまったではないか?

 マスクが買収した後、Xの株価が暴落したことがある。決算状況が振るわないこともあった。しかし、そんなことはマスクにとって大した問題ではない。


 マスクが買ったのは「影響力」だからだ。X社を保有することで、マスクは世界一発言力の強い男となった。

 事実、彼が応援するトランプは圧倒的に不利と言われた大統領選で勝利を収めた。


 マスクは「カジノを買う」ことを躊躇しない男なのだ。


 だから、である。宇宙ビジネスは儲かるのだ。軌道に乗りさえすれば(文字通り)。


 マスクは「火星移民計画」を究極の目標として掲げるが、多分あれは単なる「看板」である。マスクの本意はそこにない。

 なぜなら火星移民が実現するまでには、少なく見積もっても数十年単位の時間が必要だからだ。成功する頃にマスクは死んでいる。


 マスクは徹底的な合理主義者だ。自分が死んだ後にしか実を結ばない成果に対して、何兆円もの金を費やすはずがない。本当の狙いはもっと目先のビジネスであるはずだ。

 スターリンク(衛星通信インターネット事業)はその手始めだ。


 何千という数の衛生を軌道上に打ち上げ、マスクはつもりに違いない。その視線は火星に向いてはいない。衛星が目を向けるのは「地球」だ。

 地球にこそビジネス機会があり、金の生る木が生えているのだ。


 英雄は宇宙という大海原を旅して、金の羊毛を持ち帰ろうとしているのだ。

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