2話『エルフのマリクス/日本に住んでるエルフ』

「…よし、これでノルマ達成だ」


本日最後となる、10匹目のコカトリスの頭を弓で撃ち抜き、死体を回収した後にそんな事を呟く。


「おお~、そっちは終わったかぁ!」

「流石エルフだべなぁ。あ、終わったなら今日はもう上がってもらっていいべよ」

「俺等もすぐ戻るからなぁ」

「分かりました、ではお言葉に甘えさせて頂きます」


そんなような話をご近所に住む権蔵さん、茂吉さんとしながらも、私はダンジョンの入口まで戻ることとする。

数百年前、ダンジョンの一部が異世界…ニホンと繋がってからは、私の日常はこんな感じだ。


(しかしながら…まさか私が人間と、しかも異世界の人と一緒に過ごす日々が来るとは想像もしていなかったな)


ウィルネスト王国(ニホンの人々はこちらの世界のことを異世界と呼ぶ人も多いようだが)、神樹の森で生まれ育ち、これから先数百…数千年は森で生きていくのだろうとあの頃は思っていたものだが、人生とは分からないものだ。


「お疲れ様プニ~!今日の探索はどうだったプニか~?」

「うわぁっ!?」


…なんて考え事をしながらダンジョン入口の受付まで戻ると、いつものようにスライムの化け物に声をかけられる。

いや、実際の所はスライムをモチーフにしたゆるキャラ?というものらしく、スライムの化け物というと語弊があるのだが…

やたらボディがデカい上に何故か手足まで生えているため私はいつもスライムの化け物と思っている。

しかもその図体で毎回こちらに近づいてきて声をかけられるものだから…


(圧が!圧が凄い!)

「いつも探索お疲れ様プニ~、モンスターの素材はいつものように受付に持って行くプニよ!」

「あ、ああ…」


これだけはいつになっても慣れない。

というか、他の冒険者もまあまあビビってる人は少なくない気はするが…少なくとも悪意がある訳ではないし、何よりこれがここのギルドの方針なのだろう。

そんな事を考えながら、今日の成果を受付に提出する。


「…はい!コカトリス10匹ですね!確かに納品を確認しました!」

「ああ」

「いつもありがとうございます!それでは、こちらが本日の報酬となります!」

「ああ、ありがとう」


元気の良い受付嬢から今日の報酬を受け取り、私はダンジョンを後にする。

外に出てみれば、空はまだ昼下がりの明るさで照らしていた。


(ふむ、この時間であれば…買い物をしていっても良さそうだな)


そうして私の足は、自然と近所のスーパーへと向かっていたのだ。


――――――――――――――――――――


(うん、ニホンにやって来て一番良かった事と言えばやはりこれだな)


行きつけのスーパー、ドンドン・ホーテ。

正確にはスーパーと言うよりはディスカウントストアなので食料品だけでなく日用品から冒険道具まで何でも揃う店なのだが…ともかく、この店は私のお気に入りだ。

なにせこれだけの品揃えだ、森の中は当然として、王都ですらここまでの商店は無いだろう。

自分が生きている内にここにある商品にどれだけ縁があるのだろうか…などと考えると、自然と心が踊ってしまう。

ドンドン・ホーテの存在だけでも、私はニホンに移住して良かったと心から思ってしまう。


(何っ!?プライベートブランドだとこんなにも安いのか!?むぅ…情熱価格…侮れん…)


これなら本当に誰でもそれなりの装備を整えてダンジョンに潜れてしまうな…流石だ…

などと考えていると、不意に後ろから声をかけられる。


「おぉ~マリクスじゃないか~、お疲れぃ!」

「ああ、権蔵さん、茂吉さん、そちらももう上がりですか」

「んだ、俺らぁこれから一杯飲みに行く所だけど、アンタもどうだぁ?」

「ふむ…」


さて、どうしたものかと考えるが、これもまた一つの縁だろう。

私は彼らに同伴させてもらうことにした。


――――――――――――――――――――


「んでよぉ!こいつがゴブリンに群がられてる所をなぁ~」

「もう…権さん、飲み過ぎですよ」


彼らが行きつけの居酒屋の女将さんに宥められる姿を見つつ、ちびりちびりとお酒を味わう。

ニホンに来てもう一つの良かったことと言えばこれだ。

日本酒と一緒に味わう居酒屋飯…これに勝る飯は早々ないだろう。

特にこの店のもつ煮は絶品だ。

以前美味しさの秘密を訪ねたが…残念ながら企業秘密と言われてしまった。

とは言え、そういった所も含めての美味しさなのだろう。

そして食を取り囲むこの空間…

ニホンの居酒屋には生きるのに必要な全てが存在すると言っても過言ではないだろう。


(…いや、流石に過言だろうか)

「ところで…マリクスさんはどうしてここに?」

「ん?私か?」

「ええ、その、いえ、前々から気になっては居たんだけどもね?」

「まあ、そう大した理由ではないさ」


実際ここに来る前は都会の方で暮らしてみたりもしたのだが…

まあ、どうしてもあの忙しなさは肌に合わなかったようで、かつて暮らしていた環境に近い田舎町を選んだというのはあるのかもしれない。


「そうだな…強いて言うなら、ここの環境が気に入ったってところかな」

「あら、嬉しい。このへんはな~んにもない辺鄙な所だけど、気に入ってくれたのなら何よりだわ」

「はは…どういたしまして」


とは言え、ここの環境が気に入っているというのも嘘ではない。

人の暖かさ…とでも言えば良いだろうか、そういったものがここにはあるのだ。

きっと私がこの先10年…100年と過ごして、人が変わったとしても…この風景は変わらないだろう。

そんな事を考えながら一口、また一口と酒を飲み進める。

そうして、夜は更けていくのだ…

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