盗賊と王様

夕日ゆうや

第1話 出会い

 王都の過密な居住スペースは僕にとって、有利な世界だった。

 盗むものはたくさんあるし、隠れるなら人混みの中。

 僕一人を捕らえるのも一苦労しそうな人の波。

「失礼」

 肩と肩がぶつかった瞬間、懐の財布を盗む。

「ははは。今日も大量大量」

 王都だとみんなの稼ぎも良い。

 つまり僕の収入が増えるってもんだ。

「さて。次はどうするか」


 砲撃の音がなる。

「なんだろう?」

 この王都は戦争なんてしていない。

 南の国境侵犯なら話は別だが。

 外をみて理解する。

 祝砲だ。

 パレードが開始された。

 王が今年の豊作を祝うために最大限のパレードが行われている。

「行ってみるか」

 僕は迷うことなく外套を手にし、中央広場に向かう。


 広場には金の飾りがついた白い馬車が練りはしっている。

 僕はなにも知らない子供を演じる。

 馬車の前には王国貴族の近衛兵がいる。

 あいつから盗むか。

 僕は手癖が悪い。

 バーミヤやトットなら知っているだろう。

「ごめんなさい」

 僕はパレードを横切った。

 近衛兵にぶつかるとその財布を盗む。

「大丈夫か? 坊主」

 パレードが止まる。

 転んだ僕は慌てて立ち上がる。

「ごめんなさい」

 そう言い立ち去ろうとする。

 が、腕を捕まれる。

「ずいぶんだな」

「どうした?」

 近衛兵の後ろに王様のレイクが立っていた。

 慇懃無礼でいかにも気難しそうな青年だ。

「この坊主が盗みを」

「なぜそんなことをした?」

「……」

「黙っていても分からんぞ?」

「この国は……この国は終わっている! 僕は盗まなきゃ食っていけない! 王様が馬鹿だから」

「貴様! 不敬だぞ!」

 王様は目を瞬く。

 どうやら不敬な態度が珍しいらしい。

「く、ははは! いいぞ。気に入った。お主名前は?」

「僕はアヤメだ」

「アヤメ、兵団に入れ。ジオ部下にしてやれ」

「は? なんで!?」

「弟子が欲しいと言っていたじゃないか」

「それは、そうだけど……」

「鍛えてやれば、役立つだろうて」

「はい。分かりました」

 大人しく引き下がる近衛兵。

「僕は」

「お主に道はない。まともに生きたいなら、従え」

「金が貰えるのか?」

「ああ。くれてやる」

 レイクはニヤリと笑う。

「……なら行く」

 これまでの悲惨な暮らしから脱出できるなら、是非もない。


 僕はレイクと一緒に行くことを決めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る