🍸 WhiteRum 🍸

Drop.011『 WhiteRum 』

 

 

 

 初夜にしては濃厚すぎる一夜を経た翌朝。

 普段の起床時刻よりもやや遅めに目を覚ました桔流きりゅうは、開眼早々の眼前で、俳優らしい顔立ちの男の微笑みが展開されたため、しばし目を細め、眉間に皺を寄せた。

 

 

― Drop.011『 WhiteRum 』―

 

 

「おはよう」

 そんな男は、次に桔流の聴覚を翻弄した。

 どうやら、桔流よりも早く目を覚まして以降、その男――花厳かざりは、しばらく桔流の寝顔を堪能していたらしい。

 桔流は、その花厳からの眩しい挨拶に、

(ドラマかよ……)

 と思いながら、ゆるりと挨拶を返す。

「ん……。――おはよう……ございます」

 そして、暖かな布団と花厳の体温の心地よさに、思わず枕元に顔を埋めた。

 その中、脳が覚醒してきたせいか、交わった翌朝特有の気怠さをじわりと感じ始めた桔流は、

(うわ……。この感じ久々……。――今日、すぐ起きんの無理かも……)

 と、久々の感覚に懐かしさを感じていた。

 しかし、対する花厳はというと――、平然とした顔で愛おしそうに桔流の髪を撫で、桔流の様子を眺めているだけで、文字通り、平然としていた。

 その様子から、ひとつの仮説が立ったため、桔流は、花厳の名を呼ぶ。

「花厳さん」

 花厳はそれに、笑顔のまま首を傾げるようにして応じた。

「ん?」

 桔流は問う。

「あの、もしかしてなんですけど。――昨日、やっぱり、最後まで加減してました?」

「えっ」

(してたのか……)

 たちまち戸惑いを見せた花厳に、桔流は半目がちに思った。

 花厳は、眉尻を下げながら微笑み、紡ぐ。

「いや、……してない――」

「してたんですね……」

 そんな花厳の取り繕いを、桔流は断ち切る。

 すると、花厳は、苦笑しながら言った。

「い、いやぁ。ほら。やっぱり最初だからね。――でも、少しだけだよ? ――俺も、しっかり加減できるほどの余裕はなかったし」

「“少し”……? ――本当に“少しですか?」

「う、うんうん」

「そうですか……」

(――嘘だな)

 そして、その一通りのやりとりで、やはり花厳は大いに加減していたらしい事を確信した桔流は、小さく溜め息を吐いた。

(――でも。――かなり加減してアレって事は……)

 そうなのである。

 桔流は、昨晩。

 大いに加減していたらしい花厳に、“起床しても当分は起き上がれなくなるほどに”は、可愛がられた。

(つまり、花厳さんがガチで理性きかなくなったら……もっとスゴいって事か……)

 そんな桔流は、ひとつ思うと、ふと、花厳を見やる。

 すると、花厳はまた微笑んで首を傾げる。

 桔流は、その微笑みを見つめ返すと、心躍る感覚を胸に、思った。

(理性とんだ花厳さん……見たい……)

 そして、未だ微笑む花厳に邪な欲望を抱いた桔流は、花厳に言う。

「花厳さん」

「ん?」

「花厳さんって、――どうしたら理性なくなりますか?」

「………………え?」

 濃厚すぎる初夜を経た翌朝。

 愛する桔流からの予想だにしない問いに、なぜだかしばしの悪寒を感じた花厳は――、今後、己の理性をできる限り鍛えてゆこうと誓った。

 

 

 

 

 

Next → Drop.012『 WhiteCuracao〈Ⅰ〉』

 

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