第5話
米山源蔵96歳と、サラリーマン、近藤和彦45歳は、夜の公園のベンチに、並んで座っていた。
「今日は、寒いですよね」
「あーあーあー」
「ええ。ぼくも、そう思いますよ」
「あーあーあー」
***
(俺は学生の頃に、公園に呼び出されて、全裸にされ、四つん這いになれと命令され、ケツに、鉄パイプを突っ込まれたことがある。それで、3か月入院していた。直腸の破裂だ。)
***
(クリスマスにはしゃいでるカップルを、全員、刺殺することは、社会正義だ。)
***
米山源蔵96歳の頭の中には、様々な想念が、渦巻いている。
しかし、彼は、それを言語化し、口にすることが、できない。
「あーあーあー」
ただ、奇声を発するだけである。
***
公園にも、クリスマス仕様のイルミネーションが、光っていた。
カップルも、まばらだが、歩いていた。
***
近藤和彦45歳は、ホット缶コーヒーを啜る。
「今日は、本当に寒くて・・・」
「あーあーあー」
「ええ。そうなんですよ」
***
「変態パンダマン参上ですよ!」
甲高い男性の叫び声がし、公園内に、かなり太った男性が、走って来る。
彼は、黒い全身タイツ姿で、顔には、パンダのマスクをしている。
彼は、変態パンダマンこと岩井島雄57歳である。
全身から、腐った卵のような臭いを、発している。
***
米山源蔵96歳は、いつのまにか、ベンチからいなくなっていた。
近藤和彦45歳だけが、残っていて、変態パンダマンの様子を、じっと、見ていた。
***
「変態パンダマン参上ですよ!」
再び叫ぶが、まばらにいるカップルたちは、お互いに夢中であり、
変態パンダマンこと岩井島雄57歳のことなど、眼中にもないのだ。
どんなに奇抜なかっこうをしても、どんなに奇抜な発言をしても、今、カップルたちの目には、耳には、変態パンダマンの存在は、届かないのである。
***
いつのまにか、ベンチには、誰もいなくなっていた。
近藤和彦45歳も、消えていた。
(6話に続く・・・)
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