コハクの彼方【小説ver.】

第4話


目が覚めるとそこは、ふかふかのソファの上。

薔薇の様に紅いソファは綿が引き詰められているからか、指先で押すとへこむくらいにめちゃくちゃ柔らかかった。

これは、まるでベッド。

このまま眠れそうだ。

いや、眠っていたが、正しいのか。

ふと、身体を起き上がらせると、蛍光ピンクのクリクリとした瞳と目が合う。

まるで小動物かのように小柄な少女。

そんな少女が腕を組み、向かい合う椅子の上にちょこんって座っている。

「えっと…ここは…」

そして、俺が起きたことが分かると、彼女は一枚の紙を取り出した。

彼女が、息を吸う。

そして。

「『ふっふっふっ!ようこそ!【アリス】 !』」

元気な弾むような可愛らしい声。

その声とは裏腹に、言い方はどこかぎこちなく、表情は少し引き摺っていた。

「『こ、ここは理想郷!学園都市!

お願い、君には、この学園を!世界を!救って欲しいの…』って、さっきサフィちゃんに貰ったカンペに書いてあること読んだけど、この挨拶って必要ある…?」

「え、必要あるとかそんな事、俺に言われても…

内容からして、そうだな。理想郷…?ってなんだ。

てか、さっきから【アリス】ってなんだよ。

いや、そもそも!ここはどこだ!?

俺はベットで気持ちよく、寝てたはずなんだけど。

宿題だってしようと思って、珍しくやる気出して、机にノート出してたってのに」

「えっと、待って。まだカンペ続いてるから読むね。」

「カンペだったのかよ」

思わず落ちそうになる溜め息を呑み込んだ。

カンペって。

要るか普通。いや、ある意味、自己紹介するには居るのか。

「えっと、うんうん。なになに…はいはい。

『よく聞いてくれたね、【アリス】。

それでは!この学園都市を統べる生徒会役員!その、副会長の私がお応えしよう!』」

「………」

「………」

「………」

沈黙が走る。

彼女は恥ずかしかったのか、顔を赤く染め、くしゃりと手に持ったカンペを握り締めた。

「おぉう…えっと、なんというか、

サフィちゃんには悪いけど、

なんか、ひとつひとつ、台詞が恥ずかしいかもぉ。

【アリス】ってなに?私も分からないんだけど」

俺に言われてもわかんねぇよ。

って、分からなかったのか。

この世界での単語の一部かと思ってたぜ。

「………ま、まあ、カンペはいいや。

ねぇ、君の名前教えてくれない?あ、ごめんごめん。名前を名乗る時は自分からが礼儀だよね。

私はルディ。よろしくねぇ」

えへへ、と声を零す彼女。

照れくさそうに微笑む彼女を少しかわいいと俺は思ってしまった。

「お、おう。よろしく。まあ、【アリス】って呼ばれる俺も、なんか恥ずかしかったからさ、アクア。アクアって呼んでくれると嬉しい」

彼女へと手を差し出す。

その延ばした手をルディが取った。

嬉しそうに彼女が笑う。

「そか、アクアって言うのね。よろしくね、アクア。

改めて、この世界に来てくれてありがとう」

「この世界…?」

矢張り、ここは異世界なのだろうか。

「そう、ここは君の住む世界とは違う世界。

さっきも何回か言ったかもだけど、私たちはここを【学園都市】と呼んでいるわ」

「【学園都市】…?」

「そう。【学園都市】。

ん〜分かりやすく言うなら、なんだろ…

様々な想いが集う場所?能力者達の集う理想郷?

それが正しいかな」

ルディが頑張って説明をしてくれる。

イマイチピンとはきていない。

ただ、ここが【学園都市】という名の異世界であることは理解した。

「まあ、そんな場所に何故俺を?って思うでしょ。

そうね、この世界に君を呼んだのは他でもないの」

彼女が口を噤む。

そして、真っ直ぐな眼差しを俺に向けた。

ゆっくりと開く。

「君に、この世界を救って欲しいんだ」

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