幕間 日差しを帯びて

コハクの彼方


〜幕間〜 日差しを帯びて


※現在軸から1年前の物語です。


カイ♂︰

高2

明るく元気な男子高校生


ラドラ♂︰

高2

物静かで、全てを見通すことが出来る男子高校生


ムートン♂︰

高2

物腰柔らかく、大人しい男子高校生


パーズ♂︰

高2

元気ではっちゃけ気味な男子高校生




本編↓


パーズ︰ここは、とある学園である。

ここは、皆が望む楽園である。

ここは、人々の理想郷である。


ラドラ︰幸せな夢を見た。

長い長い不思議な夢を。

これが現実じゃないことは、誰しもが知っていた。

いや、理解(わか)っていた。


カイ︰夢は見てなんぼ。

友達という偽りに囚われて。

ただ、この偽りも、いつしか情が湧いて本当になっていた。


けど、それは内緒の気持ち。

誰にも知られたくない。

理解されたくない。


ムートン︰さて……

今日も平穏な陽の光が、世界に差し込んだ。


………


カイ「おはよう、世界。

おはよう、学園都市。

おはよう、友よ。

ラドラにムートン!

今日も元気してるぅ? 」


ラドラ「あ、おはよう、カイ。

今日もあいも変わらず、元気だね。

僕も元気だよ。

ムートンは?」


ムートン「俺も元気だ。

朝は、珈琲が一段と美味いな」


ラドラ「わ、水筒に珈琲いれてきて飲んでる!

どこからか、珈琲の匂いがすると思った」


ムートン「はは、美味いぞ。二人も飲むか?」


カイ「や、遠慮しとく。

俺、珈琲苦手なんだよなぁ。

飲み慣れてないのもあるかもだけど、

苦くて」


ムートン「ふむ……砂糖を入れれば多少は飲みやすくなると思うぞ」


ラドラ「そうだね。ミルクを入れても良いかも!

ところで、珈琲片手に新聞?

何見てるの?」


ムートン「うむ。朝から中々興味深い記事を見つけてな、読んでいたんだ」


カイ「お、新聞の記事か。良いな。

なに読んでるんだよ〜俺にも見せろって。

えっと、なになに…」


ラドラ「……

【アリス】について…?」


カイ「【アリス】ってなんだ」


ラドラ「なんだろ、わかんない」


ムートン「ふむ…では、試しに俺が読んでみようか?」


ラドラ「聞く聞く、読んで読んで」


カイ「気になる気になる、教えてくれ」


ムートン「この記事によると、だな。


{【アリス】。

【アリス】とは、【もう一人の自分】。

所謂(いわゆる)別世界の自分。}


別世界とは、あれだな。

異世界論の一つらしい。

それについての資料を、前に図書館で読んだ事がある気がする」


カイ「もう一人の自分…」


ラドラ「確かに、異世界論で習ったけど、異世界には自分に似た存在が居るって言ってたもんね。

それの事かな」


ムートン「嗚呼。そう、らしい」


ラドラ「へ〜面白いね。確か、異世界人の自分を【アリス】って呼ぶんだよね。

異世界論は受けてるけど、ムートンから聞くまで、【アリス】の存在は知らなかったよ」


カイ「確かに〜

本当に【アリス】なんて居るんなら、会ってみたいよなぁ」


ラドラ「ふふ、ちょっと気になるかも、ね」


ムートン「それは面白そうだ。

異世界論は興味深い。

だからこそ、惹かれるものがある」


カイ「そうだな。惹かれるかも、な」


ラドラ「そういえば、カイ。

珍しいね」


カイ「お?

なにが?」


ラドラ「カイが何かに…いや、誰かにが正しいのかな?

興味を持つなんてさ。

普段だったら、【へぇ】で済ますのに。


そんなにアリスに惹かれた?」


カイ「そうかなぁ?

俺だって色んなものに興味持つさ。


まあ、確かに多少は惹かれたかもしんねぇわ」


ムートン「ふは、良いじゃないか。

色々知っていくことも、知識が溜まるのも、なにも悪いことじゃない」


カイ「いやそれにしても〜勉強になるぜ。


はっ!勉強って言ったら、もうすぐテスト期間だっけか。

あ〜勉強しねぇとなぁ」


ラドラ「確かに。僕も勉強しないとだ。

でも、今回の範囲難しくてさ、分からない所結構あるんだよねぇ」


カイ「お、ラドラわかんない所あんの?

俺でよけりゃ全然教えるよ」


ラドラ「えへへ、カイ。ありがとう」


カイ「どういたしまして!それくらい朝飯前だぜ。


そうとなると、勉強会ってことか?」


ラドラ「そうだね。勉強会ありだと思う。

ん〜…どこでしようか。

図書館?食堂?」


ムートン「ふむ…勉強会。

それならば、俺の家にでも来るか?」


カイ「へっ」


ラドラ「へ?

ムートンの家……?」


………


カイ︰ムートン宅。

現在俺たちは、ムートンに招かれ、彼の家にいる。


(間)


ここは学園都市。

学園都市には、【住民制度】がある。

【住民制度】

これは、学園都市に来た生徒、一人一人に住む場所を提供してくれる制度だ。

一人で住める部屋や、大人数で住める家など、 用途に合わせて提供してくれる。

俺たちは学園都市に移住という意味で、住むことが出来るのだ。


ラドラ「わ、大きなお家。

ムートンは、家なんだねぇ。

僕は個室のマンションにしたよ」


ムートン「マンションもいいじゃないか。


まあ、俺は学園都市出身だからな。

生まれた時から、この家に住んでるんだ。


それに、部屋は広い方が良いだろう」


ラドラ「そうかも?」


カイ「ムートンの家で!アルバム〜はっけーん!」


ムートン「お、あるぞ。見るか?」


カイ「いいのか〜?

アルバムなんてなかなか見ることねぇし、新鮮だわ。

しかも、この、年季の入ったアルバム…

これはおもしれぇモンが見れそうだぜ」


ラドラ「確かに。古そうなアルバムだね。

ムートン。これはいつのアルバムかな」


ムートン「これは、創設当時のアルバムだな」


カイ「そ、創設当時ぃ!?」


ラドラ「わぁ、随分と古いんだね」


ムートン「嗚呼、そうだな。

まあ、学園都市出身の人間の家には良くある代物だ。


だから、俺も持ってる」


カイ「へぇ〜そうなのか。

よし、見ようぜラドラ!」


ラドラ「見よ見よ。

(ページをめくる)へぇ、これが学園長か〜

なんか、小さいね」


カイ「へ〜学園長って女性なんだな。

確かに小さいな。小柄だ。

学園長って、なんか、こう…

もっとモフモフに髭の生えたおじいちゃんかと思ったぜ。


って、あれ、隣にいるヤツ…ムートン、お前に似てね?」


ムートン「そうだろうか?」


ラドラ「たしかに、ムートンみたいな、顔してるね」


ムートン「……他人の空似だろう」


カイ「ふぅん。まあ、世の中に似ている人は三人いるって言うもんな」


ラドラ「空似、ねぇ」


ムートン「……


二人とも、テスト勉強しないか?

今回は範囲が広い。

勉強をした方がいいだろう」


ラドラ「まあ、そうだね。

あ、二人とも、僕ここわかんないんだけど…」


カイ「お、どこだどこだ」


ムートン「ふぅ……【わかる】というのは、怖いものだな」


…………


ラドラ「ん〜(背伸び)終わった〜。

学園史は覚えること多くて難しいし、物理演算は計算が多いし、やることが多いよ〜」


カイ「はは、ラドラお疲れさん。

学園史は暗記だし、物理演算は原理を覚えればなんとかなるさ。

大分(だいぶん)出来るようになってるって」


ラドラ「えへへ、そうかな。

二人とも凄いよ。

こんな難しい授業についていけるなんて…頭良すぎだって。

僕は付いてくのにこんなにもヒーヒーしてるよ」


カイ「はは、難しいのは俺たちだって一緒さ。

俺だって、大切なものがあるから頑張れるんだ。

……

まあ、お前たちと一緒に居たいから、留年しないように頑張れてるんだよ」


ムートン「それは有難いな。

ゆっくりでいいさ。時は長いんだ。


焦る必要は無い」


‪ラドラ「焦る必要無いって言ってもさぁ〜

二人に置いてかれるんじゃないかって焦っちゃうよ…」


カイ「はっはっはっ、大丈夫だ。置いてかねぇよ」


ムートン「安心して欲しい。俺達はそう簡単に消えたりしないさ」


ラドラ「カイ…ムートン……

えへへ、ありがとう」


(間)


ラドラ︰この時から、もう僕は知っていた。

いや、わかっていたんだ。

これが全て【偽り】ということを。


ムートン︰【偽り】だからこそ、それを【本物】に俺はしたかった。

【本物】であると証明したかった。


カイ︰守りたいものを守るための【偽り】。

ただ、それが【本物】になりつつある。

それが俺にとって、邪魔で邪魔でたまらなかった。


…………


ムートン︰人気(ひとけ)のない、とある泉の前。


カイ「……」


カイ「…………」


カイ「……………来たか」


パーズ「よぉ!カイ!遅くなっちまった!元気してるぅ!?

俺の渾身のネタでも〜」


カイ「いらねぇよ!!!

久しぶりに会った瞬間それかよ!?

目にわさびでも入れてやろうか!?

てめーの無駄にでけぇ目と伸ばした鼻にわさびぶっこむぞ!!!!!

そこで、泣きわめいてろ!!!!


パーズ「相変わらず辛辣ゥ!!!!」


カイ「っと、パーズ。

すまない。呼び出して」


パーズ「いーよいーよ!俺だって暇だったしぃ?

テスト期間ですることなくて、そこら辺の森ぶらついてただけだからさ、気にすんなって」


カイ「そんなこと言って、そこら辺にいる女の子達誑(たぶら)かしてたんだろ。

知ってるんだぞ、最近お前にファンクラブが出来たってこと」


パーズ「えぇ〜!?

ファ、ファ、ファ、ファンクラブ〜!?

そんなの出来たの!?

俺ってば人気者〜!

さすが顔面国宝級イケメン〜!!!」


カイ「はぁ。

まあ、それは兎に角(とにかく)…接触できたか?」


パーズ「モチのロン!【空(くう)の付き人】にちゃんと接触出来たぜ!」


カイ「流石だ。このまま……頼むぞ」


パーズ「まっかせて〜!

ところで。そっちはどうよ」


カイ「まあ、ぼちぼちだ。

有難いことに、【傀儡(くぐつ)】の家に行けた。

多少の情報は入手出来たと思う」


パーズ「おぉ!よかったよかった!

これで、1歩前進?」


カイ「まあ、な。それに、来月の生徒会選挙は狙えると思う」


パーズ「わぉ!!!ついにカイが生徒会長〜!?

学園牛耳っちゃう〜!?」


カイ「……そのつもりではいる。

後ろ盾。頼んだぞパーズ」


パーズ「アイアイ!まっかせて〜!」


カイ「……じゃあ、また。

次会う時は、例の決行の日だ」


パーズ「おっけぇい!

またな!」


カイ「ああ、また」



…………


ムートン︰夕暮れ時、森の中で。


ラドラ「楽しかったな…

これが偽りだとしても、きっと楽しかったって記憶には、残ると思う。

ただ、それがどれだけ辛いことか…」


パーズ「へぇ、辛いんなら忘れちゃえば?」


ラドラ「っ、だれ!

……君は」


パーズ「おっと、自己紹介前に理解しちゃったか〜

はじめまして、俺はパーズ。

よろしくな、【完全な知恵】」


ラドラ「【完全な知恵】

巷では、僕はそう呼ばれているようだね。

君のことは分かるよ。

カイのお仲間、だろう」


パーズ「ご名答。

カイの【本当】の親友さ。

よろしくぅ」


ラドラ「あまり、宜しくしたくないんだけど」


パーズ「まあまあ、そう言うなよ。

今から、宜しくしてもらうんだから、さ。


『これは、全ての音、全ての波、全ての……』


おっと、抗わないでくれよ。

知られたら困るんだ。

ちゃんと、忘れてくれないと」


ラドラ「まったく、急に能力を使おうとするじゃないか。

そうはいかない。

ネルちゃんの為に忘れる訳には行かないんだ」


パーズ「これだから困るんだ。

だって、キミはこれからの計画だって知ってるんだろう?」


ラドラ「当たり前だ。

だから、止める為に覚えてないといけないんだよ」


パーズ「厄介だなぁ、それ」


ラドラ「誰かさんも、充分厄介だけどね。

人を眠らせて、記憶を消すなんてさ」


パーズ「それはどうも。

まあ、原理はあってるけど、ちょっと違うんだよなぁ。


『これは、全ての音、全ての波、全ての揺れ』」


ラドラ「しまっ、」


パーズ「おやすみ、【完全な知恵】。



俺の【終演】は【音波】。

音の波動。

波で相手の数分の記憶を消し去る事が出来るんだよ。


覚えておきな」


ラドラ「くっ……」


パーズ「さてさて、良い夢を。

いや、夢はもう、見させてもらってるもんな。


素晴らしい悪夢を(笑う)」


ムートン︰ドサ、とラドラがその場へと倒れ込む。

意識が途切れた。


(間)


ラドラ︰夢を見た。

それは暖かく、優しい夢。

友に囲まれた優しい夢。

その夢へと僕は手を伸ばしたんだ。

伸ばした手の行方は…


(間)


何処へやら。


パーズ「……夕暮れが…終わる」


ラドラ「……」


パーズ「……どうやら、日差しが消えたみたいだな。」


ラドラ「……」


パーズ「まあ、日が沈んだだけなんだけどね。


さーて、かーえろう!」


To Be Continued



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