第36話 魔王の後継者

俺はエクリプスを振り上げ、黒い影たちに向かって突進した。渦から飛び出してきた影たちは、まるで一体となって動くように整列し、俺を取り囲んだ。だが、俺は一歩も引かず、目の前の敵に全力をぶつける覚悟を決めた。


「来い!」俺は叫びながら、エクリプスを振るった。


刃が振り下ろされると、目の前の影が瞬時にそれをかわし、俺に向かって飛び込んでくる。鋭い爪が目の前で閃くが、俺はギリギリでそれをかわし、間髪入れずに反撃を仕掛ける。エクリプスの刃が、影の身体に突き刺さると、その部分が崩れ、黒い煙のように消えていった。


だが、その消えた部分から新たな影が湧き出し、次々と再生していく。まるで何度斬っても終わらないかのようだった。


「くっ、こいつら……!」俺は息を呑みながら、必死に戦い続ける。


アリシアも遠くから魔法を放ちながら、影の群れを削ろうと必死だった。しかし、影たちが再生し続ける限り、どれだけ攻撃しても意味がないように感じた。


そのとき、グラントが叫んだ。


「ルシエル、気をつけろ! あの影、ただのモンスターじゃない!」


その言葉の瞬間、俺は何かを感じ取った。影の動きが、どこか不自然に変わったのだ。まるで、単なる物理的な存在としてではなく、何か大きな意思が働いているかのように。その瞬間、全ての影が一斉に動きを止め、同時に一つの形をとり始めた。


「これは……」俺は思わず呟いた。


影たちが集まり、渦の中心へと収束していく。その中心には、まだ見ぬ巨大な影の姿が現れようとしていた。まるで新たな存在が、この世界に誕生しようとしているかのようだった。


「やばい、あれは……!」グラントが焦ったように言った。


影が形を作り終えると、それは魔王そのものに似た、巨大な影の姿をしていた。その目は赤く光り、闇の力を集約したかのような圧倒的な存在感を放っていた。


「魔王の力……再生したのか?」俺の胸が締め付けられる。


その巨大な影は、まるで俺たちの存在を無視するかのように、ひとたび動き出すと、圧倒的な力で俺たちを蹴散らし始めた。アリシアの魔法がほとんど効かず、グラントの剣もまるで通用しない。影が一振りするたびに、周囲の空間が歪み、風圧に圧倒される。


「くそ……こんな……!」俺は必死に立ち上がる。


だが、俺の力ではその巨大な影に立ち向かうことができなかった。エクリプスが何度も斬り込むが、まるで無駄のようだった。


その瞬間、影が一気に俺に迫り、巨大な手で俺を押し潰そうとしてきた。俺は必死に身をかわすが、間に合わない。影の手が俺を捕らえ、重く押しつぶされるような感覚に襲われた。


「ルシエル!」アリシアが叫ぶ。その声が届くが、俺の身体はすでに影の力に押し潰されていく。


そのとき、衝撃的な展開が起こった。塔の床が突然、激しく震え、何かが大きく破壊される音が響き渡った。そして、巨大な影が突然、痙攣するように一瞬止まった。


「な、なんだ?」俺はその動きに驚く。


すると、目の前に現れたのは、あの影の中から生まれたもう一つの存在だった。それは、まるで人間の姿に近い、だが非常に異様な形をしていた。顔にかかる黒いベールのようなものを外すと、そこには、魔王に似た人物が現れた。しかし、目の中に宿る光は、もはや人間ではない、何か恐ろしい存在そのものであった。


「お前は……魔王の最後の意志か?」俺は息を呑んで言った。


その人物は冷徹な目で俺を見つめ、そして微笑んだ。


「違う……私は、この世界を再生させるために生まれた存在。魔王が失敗した世界の管理者――新たな支配者だ」


その言葉に、俺は衝撃を受けた。まさか、魔王の死が新たな支配者を生むことになるなんて――!

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