第9話 英雄の証
廃墟の街での戦いから数日が経った。俺たちは引き続き街の復興を手伝いながら、新たな情報を集めていた。だが、それ以上に俺の中では、あの戦いで感じた自分の力のなさが引っかかっていた。
「俺はこの剣にふさわしいのか……」
父・カイゼルが使っていたとされるこの剣――「英雄の剣」。父はこれを手にして数々の魔物を討ち、この世界を救ったとされる。だが、俺が持つそれは未完成のように見える。光を放つこともあれば、何の反応も示さないこともある。それが俺の未熟さを映しているようで、もどかしかった。
そんな中、街の住人から意外な話を聞いた。
「街の北にある廃墟の神殿……あそこには、英雄にまつわる遺物が隠されているという噂がある。もしあんたが本当に“英雄”の名を背負う者なら、そこに答えがあるかもしれない」
俺たちは迷わずその神殿へ向かうことを決めた。
街を出て、北へ向かう道は険しかった。崩れた山道や荒れた森を進む中で、魔物との小競り合いも避けられなかった。だが、アリシアの魔法と俺の剣がその都度道を切り開いてくれた。
「ルシエル、少し休憩しましょう」
アリシアの提案で一息ついた俺たちは、小川のほとりで水を飲みながら息を整えた。
「英雄の遺物、か……本当にそんなものがあるのかな」
「可能性は十分にあるわ。この世界には、英雄の名を冠した伝説や遺物がいくつも残されているもの。でも……」
「でも?」
アリシアは少し考え込んだあと、慎重に言葉を選んだ。
「その遺物が、カイゼルのものだという保証はないわ。それに、遺物があるとしても、それを手にする資格が必要な場合もある。英雄として認められなければね」
「資格、か……」
俺は剣を見つめた。この剣もまた、俺を試しているような気がしてならなかった。
神殿に到着したのは夕方近くだった。薄暗い空の下にそびえるその建物は、かつての栄光を失い、半ば朽ち果てていた。入り口の扉は大きく崩れ、内部へ続く階段がそのまま目の前に広がっている。
「ここか……」
俺たちは慎重に中へ足を踏み入れた。
神殿の中はひんやりとしていて、不気味な静けさに包まれていた。壁には古い紋章や文字が刻まれているが、その多くが摩耗して読めない。
「この神殿……英雄を祀るものだったみたいね」
アリシアが壁を指差しながら呟く。そこには、一部辛うじて読める文字が刻まれていた。
「英雄よ、ここにその証を――」
「証って……まさか、剣のことか?」
「可能性はあるわ。進んでみましょう」
俺たちが奥へ進むと、大きな部屋に出た。その中央には台座があり、その上には黒い布に包まれた何かが置かれている。
「これが……?」
俺が近づこうとした瞬間、部屋の周囲が突然光り始めた。そして、淡い光の中から複数の魔物が現れる。
「試練ってわけか!」
俺は剣を抜き、魔物に立ち向かった。アリシアもすぐさま魔法を唱え、援護してくれる。
魔物の動きは俊敏で、一筋縄ではいかなかったが、俺たちは連携して次々と倒していった。しかし、最後の一体を仕留めたとき、俺は体力を使い果たし、その場に膝をついてしまった。
「ルシエル、大丈夫?」
「……なんとかな。ありがとう、アリシア」
彼女の手を借りて立ち上がると、台座の上の物に再び目を向けた。
布を取ると、その下には欠けた剣の断片があった。それは、俺の持つ英雄の剣と同じ形状をしている。
「これは……?」
断片に触れた瞬間、俺の頭の中に映像が流れ込んできた。それは、父・カイゼルの姿だった。
彼はこの剣を振るいながら、魔王と戦っていた。その姿は壮絶で、圧倒的な力と共に、彼が背負う運命の重さが伝わってきた。だが、その戦いの中で剣が折れ、彼はその破片をこの神殿に残したのだ。
「父さん……」
映像が消えると同時に、俺は剣の断片をしっかりと握りしめた。それはまるで、父が俺に託した何かのようだった。
「ルシエル……それはきっと、あなたが進むべき道を示すものよ」
アリシアが優しく言う。その言葉に俺は力強く頷いた。
神殿を後にする頃には、夜がすっかり訪れていた。星空の下で俺は剣の断片を見つめながら、心の中で誓った。
「俺はこの剣を完成させる。そして、父が果たせなかったものを……俺が背負う」
新たな覚悟を胸に、俺たちは再び旅を続けることを決めた。この剣の断片が示す未来が、どんな運命を俺にもたらすのか。それはまだ、誰にも分からない――
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