第25話 朝市、村ブラ

 朝市の出店から威勢のいい呼び込みが響く。朝食を終えたノーカは、跡をつけてくる人の気配を感じつつ、手紙を出したのち、買い物メモを持って朝市をブラブラしていた。

 跡をつけてきているのは、領主の関係者だろう。捕まえた盗賊が領主が人身売買に関わっているとほのめかしていたから、ノーカが何か知って行動を起こすのではと懸念し見張っているのだ。こっちが、領主と盗賊との関係を知っている確証がなく見張っているだけだ。この国でエルフは珍しく、ホワイトパールの髪に青い瞳のエルフの男を調べれば、すぐに元第二騎士団所属のノーカ・アーポルテだとわかるだろうが。仕掛けてくるなら問答無用で叩きのめすが、何もしてこないなら放っておけばいい。

 しかし、ここまでしてくるなんて、盗賊の処分の早さといい、自ら限りなく黒だと言っているようなもの、つい笑いそうになる。しかも、ノーカが領主が人身売買に関わっている情報を知っているかどうか確証がないのは、盗賊連中をちゃんと取り調べせずとっとと処分してしまったそっちのせいだのに。歩きながら、『わかりやすすぎる! 馬鹿なのか?』と胸中で叫んで口元がニヨニヨしてしまうのは仕方ない。


 野営に特化した品ものを扱う店は、冒険者ギルドの周辺が多い。

 冒険者ギルドというのは、依頼に応じて魔物の退治や素材採取、商人の護衛、清掃活動といったボランティアみたいなものから、傭兵のように戦闘を想定した仕事もある。旅人の小遣い稼ぎみたいなところだ。

 旅人が冒険者ギルドで冒険者として登録し、依頼という単発的に稼げる仕事があるのは、路銀が尽きて背に腹は変えられず追い剥ぎ紛いなことをする事態を未然に防げぐ対策でもある。流れ者の身元を確かなものにし、治安維持に、地域貢献をしてもらう、理にかなったシステムだ。


 第三騎士団時代に、騎士団で魔物を倒したとき、貴重な素材や過食可能な魔物肉の一部は王族に献上し、残った肉は第三騎士団の食堂で消費していた。騎士たちの栄養を考えられた食事は、魔物肉をメインにバランスよく野菜が使われていたから、毎日毎食肉の油で屈強な胃も流石にお疲れ気味、とはならなかった。

 魔物素材の方は、冒険者ギルドに買い取りをしてもらっていた。売るさい、身元保証として冒険者登録が必要で、第三騎士団だったノーカも登録してある。熟成魔物肉を冒険者ギルドで売ったとき、七十年前の金属のプレート状の登録証を出したら、シワもシミもないつるつるスベスベ肌の顔と、古ぼけて艶を失った登録証を、三十代半ばくらいの人間の受付嬢に六回往復され、なかなか手続きが進まないので「二百年生きたエルフだ」と告げたら納得したようなしてないような顔をされながら買い取ってもらえた。

 そのとき、古すぎるからと登録証も一新して、顔と登録証を何度も見比べられることはなくなった。


 冒険者ギルドへ向かうついでに、朝市を回る。地元農家が新鮮な地元野菜を売っていたり、鶏や豚などの家畜が売られていたり、捕れたばかりの川魚が売られていたり、地元特化と思いきや、旅商人が商売をしている区画もあった。

 品揃えのいい、出店を見つける。揃えている商品の中に、王都から持ってきたものが三分の一を占めていた。

 荷馬車を運ぶ馬は、客の関心を惹く為に化粧が施され、体にカラフルな花が描かれている。

「派手な馬だな」

 化粧をした馬よりも素顔で目立つエルフが、そこの店の商人に声を掛ける。商人はにこやかに対応した。

「人が集まるところですので、お馬もおめかしでさ」

「なら、白い小花よりもっと派手な花の方が目立つんじゃねぇか? 王都で見た、鼻水ずるずるみてぇな名前の花……」

「ハナミズキですか?」

「紫がかったピンク色で、小さな花が木に群れて咲く……」

「ハナズオウですかね」

「それだ。馬はいいとして。携帯食料は扱っているか。王都の店でもあった、芋系のヤツ」

「ありますが、ちょっと待っててください。王都からの商品はあっちのヤツの担当なもので、今呼んで参ります」

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