第22話 妖精さんは放っておくのが一番いい
今の状況では、高価な黄金を服の下に隠して身につけていたそれが、怪しまれる材料になってしまっていた。
「エルフの里に里帰り旅なんだ、財産を人間の国に残しておいたら、数百年忘れてる間に価値が無くなってるかもしれねぇって言われてな」
正直に伝えても、聞く耳持たず、兵団の埃っぽく暗い牢に入れられる。同室は居ない、一人部屋。ここが王都なら捕まる犯罪者も多く、当たり前に同室はいるのだが、田舎は人口が少ないだけ牢に入れられる犯罪者も少ない。とても静かだ。
ノーカは硬いベッドに横になって、手足を伸ばす。すっかり気を抜いていた。
「今日はツイてるな。宿代が浮いた」
この辺りの治安を守る兵団の駐屯地内にある牢だ、守りは硬い。寝込みに強盗が押し掛ける自体も起きない。安全で安心して眠れる、無料の宿。
ベッドが硬いが、冷たい岩より断然いい。
人狩りだと誤解されて捕まっているのだし、持ち物も財産も没収されたのだけれど、「なんとかなるだろ。人買いにが変わっているらしい領主とグルだったら殺しに来るだろうが」そう軽く考えていた。
野営に慣れているとはいえ、半分起きて警戒して休む日々は流石に疲れが溜まる。休めるときはちゃんと休め、とはリープ草のお茶をノーカに散々飲ませてきた友人の言葉だ。伸びをして大の字になり、「くあ〜っ」と大欠伸を一つ。あっという間に眠りに落ちた。
一方、一人のエルフを牢に入れた兵団では、兵団長が頭を悩ませていた。調べたところ、縄で絆がれていた連中は、賞金の掛かった盗賊だと分かった。その賞金を掛けたのは、この兵団である。賞金首を生かして突き出してきた功労者を、勘違いしてうっかり捕まえてしまった。
「団長、アイツの言ってること本当なんですかね」
「理屈は通る」
「じゃあ、あの黄金も自分で稼いだものですか」
「アイツの持ち物を見たら、王都で買い揃えたんだろうってのは推測できる。食糧保存布に漏れ防止の袋、はさみ網に、火に直接掛けられて持ち手と飲み口が熱くならないスープマグ、品質もデザインも統一されてるものを一式セットで手に入れられるのは王都くらいだ。百五十年の給料がどれほどか知らんが、王都なら田舎で稼げる額とは訳が違うだろう」
「王都で盗みを働いたんでなく?」
「荷物を乗せた牝馬見たろ。あの荷物の乗せ方は、乗って移動するものじゃない。犯罪者なら、早くその場を去ろうと足の早い馬に乗っているだろう」
「どちらかといったら、のんびり徒歩旅って感じの装備でしたね。しかも、身なりも綺麗なもんで。中身は、まあエルフなので綺麗でしたけど、そうじゃなくて、格好が汚れてなかった」
「エルフってのは、魔法が使えるみたいだから魔法だろうな。……『親切な妖精さん』って知ってるか」
「なんですか、急に」
「エルフも妖精だろ」
「まあ、本人が言ってたみたいです「妖精さんだぞ」つって。『親切な妖精さん』って幼児向けの絵本ですよね。昔からあって、俺の子供の頃も親に読んでもらってました」
小さな妖精が人間の家に住み着いて家に住む人間たちに親切をし、親切を受けた人間が妖精にお礼をするのだが、最初は感謝の言葉を、次は自分たちの食事を分け与え、妖精も最初のうちは喜んでいたが、妖精サイズの小さな家をプレゼントされたときは、「ここに住むのを決めたのは誰でもない自分で、人に住む所を強要されたくない」と出て行ってしまう。妖精の親切で繁栄していた家が、妖精が出て行った途端に傾いてしまう。妖精は他の家に住み着き、人間に親切にするが、人間はお礼と言っては毎日しつこく贈り物をしたら妖精が「やりたいからやっているだけだ、こんなにいらない」と、やっぱり出て行ってしまい、妖精のおかげで繁栄していた家が傾く。最後に妖精は王宮に住み、王様が無くしたという国宝を見つけて届け、感激した王様はお姫様を嫁にやると言ったが、妖精は断った。しかし、あまりにしつこくお姫様と結婚しろと迫るものだから、妖精はとうとう国を出ていき、国が傾いてしまった。家に住み着く家事妖精の伝承になぞらえたた、子供向けの絵本だ。
実は、この絵本、妖精さん取り扱い説明書だったりする。親切な妖精さんに礼をするのはいいが、構い過ぎたり、貰ったあとに管理責任が伴うなど、場所や立ち場を縛り付ける贈り物は、妖精にとって迷惑でしかない、といったもの。
そして絵本の発案元は、王宮である。
王宮でパーティーが開かれ、王侯貴族、そして平民でありながら建国の英雄も呼ばれた。そこで、貴族たちが彼に養子になれば貴族席に入る、どの貴族の息子になり、どの貴族の娘を娶るかと、囲まれ、しつこく付き纏われた。王侯貴族なら、建国の歴史を習い、建国の英雄が自ら叙爵を断ったと知っているはずであるにも関わらず。
あんまりしつこいものだから、料理目的で来たのにろくに料理を食べる暇もなく、機嫌を損ねて会場を出て行ってしまった。
王家からの叱責された貴族は翌日すぐに謝罪をしたが、それ以来、王侯貴族主催のパーティーには一切応じなくなってしまった。
このままでは建国の英雄が愛想をつかし出て行ってしまうのではと懸念した当時の王が、幼児向け絵本という大衆に広く浸透させるための、妖精さん取り扱い説明書が発行されたのが経緯だ。
表向きは家事妖精の伝承を元にしたお話だが、その実、特別自由国民ノーカの取り扱い説明書である。
「親切な妖精さんは構い過ぎす、放っておくのが人間にとって一番利益をもたらしてくれるっていうのが、『親切な妖精さん』だろう。あの
領民の失踪問題もあるのに、この兵団の雇い主である領主のきな臭い噂もある。領主の屋敷に、怪しい者が出入りしているだとか、毎晩泣き声が聞こえるだとか、盗賊や魔物から領民の安全を守る為にある兵団を預る団長として頭の痛いことだ。妖精さんどころではない。放っておくのが一番いいなら、こちらとしてもそれがいい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます