第4話 餌付けされたエルフ

「油はよくねぇが、味付けもハーブで肉の臭みをよく消していて、二度揚げしてザクザクな衣の食感がいい。塩味が薄いが」

「仕方ないだろ、塩は高いんだ」

「まあ、料理の腕は悪くねぇ」

「俺が作った」

 得意気に胸を反らすオーバン。

「調子に乗んじゃねぇ。親父に比べりゃまだまだ。味見程度に通ってやってもいい」

「いや、この店はもう駄目だ。まともな食材すら手に入らない。魔王からこの国を奪還したとき、良い揚げ油と良い鶏肉で最高のフライドチキンを食べさせてやるぞ」

「三食美味い飯が食えるんだろうな」

「暫くは魔物だけどな」


 飯に釣られてなんとなく義勇軍に加わったのだった。この男、エルフというより、野良犬の性質に似ていた。つまり、餌付けされたのだ。


 ここでいう魔王とは、魔物の王ではなく、圧政を敷く国王を批判しての呼び名駄目だ。体力馬鹿の化け物エルフこと、ノーカが入ったことにより義勇軍はその悲願を達成、を倒し、オーバンを勇者王として新たな国を興したのだった。


 ノーカは魔王に倒した勇者パーティーの一人――建国の英雄である。本人としては美味いフライドチキンが食べたかっただけで、自覚は皆無。『レイフ』といえば飯処の店名だったのに、今や『レイフ王国』なんて、おもしれぇ、くらいにしか思っていない。


 建国の英雄なので当然、ノーカに叙爵を、という話になった。

「そんなものはいらん、面倒だ。自由が保証されるのなら、レイフ王国メシ屋国民常連になってやってもいい」

 ノーカの性格を熟知していたオーバンは、想像に違わない答えに大笑いし、この自由なエルフに『特別自由国民』という権利を与えた。これは、国王が貴族、平民といった階級に縛られない権利だった。ただ、貴族でもなんでもないの一般市民で、平民と同じ身分でありながら、王や貴族の命に従うかどうかは本人の自由。


 建国から百五十年が経った今では、「妖精さんだから仕方ない。人間とは違うのだ」という、人間たちの認識だった。堅苦しくなくてわかりやすい。野生児ノーカに対するレイフ王国王侯貴族の諦めというか、ヤンチャな孫を見守る祖父母の境地。ノーカの方が遥かに年上なのだが、このエルフ、あまり成長というものをしていない、永遠の少年の精神の持ち主だった。


 魔王を倒したあとパーティーをしたが、あんとき食ったフライドチキンは最高だった。王城にしこたま良い食材を貯め込んでたから、揚げ油がよかったんだろう。――今日の晩飯はフライドチキンだな。ザクザク衣か、薄付きふっくらジューシーか、サクふわフリッターも捨てがたい。


 大人しくなったマルチーヌ嬢を担ぎ、屋根の上を飛んで行く。口はすっかりフライドチキン、晩飯のメニューしか頭にない。

 第三騎士団の基地、訓練舎の屋根から、騎士たちが訓練中のそこへドスンと飛び降りる。


 グッタリと気を失った少女を担いで、エルフが突然降ってきたのだから、場は騒然とした。

 騎士たちに訓練をつけていた騎士団長は、目を白黒させ戸惑う連中の中で、真っ先に動く。有事の際に素早く判断が出来なければ、隊長は務まらない。


 スゥッと一呼吸。動揺を抑え、努めて冷静に声をかける。

「……。……あのなぁ、ノーカ。うちの娘をもうちょっと丁寧に扱ってくれないか」

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