幕間 少女の記憶①
目が覚める······ああ、覚めてしまった。
「また失敗しちゃった」
え?また?
自分の発言に思わず疑問が浮かぶ。またとは一体なんのことなの?思い出す······いや、思い出せない。
逃げるように家を飛び出してなんとかこの町までたどり着いた。そこでこの民宿に泊めさせてもらってそれから······
駄目だ、まるで記憶にモヤがかかっているように肝心な所が思い出せない。
もしかして、これは夢なのでは?
無理矢理に体を起こして壁掛けの鏡を凝視する。
首にはクッキリと痕が残っているし触ると僅かに痛みが走った。うん、やっぱりこれは夢じゃない。
嫌な確認の仕方だが今の私にはこれが一番分かりやすかった。
とりあえず痕を隠すために急いでストールを首に巻く。誰かに見られでもしたら面倒だしね。
さてどうしたものか。目的もなくたどり着いたけど······まずはご主人と女将さんにお礼の挨拶をしなくちゃか。昨日は確か突然訪れちゃったわけだし。
入り口付近のカウンターに来てみたけど誰も居ない。
というか他の部屋にも誰も居ない。
時刻は朝の8時。少なくとも誰か1人は居てもおかしくない時間のはずなんだけど······
途方に暮れていると、ふとカウンターの方に気配を感じた(関係ない話だけど私は人の気配にはとても敏感なんです。だからなんだよって話ですねすみません)
慌ててカウンターに向かう。
あれ?誰も居ないんだけど。
············いや違う。居る。カウンターに誰か居る。見えないけど。
正直、普段なら叫びまくってしまいそうな恐怖体験なんだけど恐怖が通り過ぎたと言いますか、逆に怖くないって感じです。
私はなんとなくその人がご主人なのだろうと思い、お礼と宿代を払い外に出ました。
目の前にはどこまでも広がる青い海。昨日は暗くて見えないしなによりそれどころじゃなかったから、こうして落ち着いて海を見れる今がとても嬉しい。
お腹が空いてしまいました。
腹が減っては戦はできぬ。別に戦をするつもりはありませんが、何をするにもお腹は満たされている状態じゃないと頑張れません。
周りを見渡してみても近くにご飯屋さんがある雰囲気ではありません。
私はグーグーなるお腹を押さえながらとりあえず道なりに歩いてみることにしました。ただ歩くだけでは空腹に耐えられそうにないので、先程の透明人間さん(私が勝手に命名しました)について考えることにします。
考えられる可能性は3つ
①本当に透明人間さんがいた
②ただの気のせいで透明人間さんなんていない
③私の頭がおかしくなって透明人間さんがいるという錯覚を覚えただけ
あ、これじゃあ実質2つです。
正直私の頭がおかしくなってしまった説のほうが可能性として高いですよね。普通に考えて透明人間がいるわけがありません。
それにさっきから度々感じるのですよ。
人の気配を。誰も居ないのに。
駄目ですね。これだから死に損ないはいけません。
自虐的な事ばかり考えてしまいあの海のようなブルーな気持ちになってしまいましたが、天はまだ私を見捨てては居なかったようです。
らーめん屋さんです。らーめん屋さんがありました。朝食がらーめんは少々厳しいなんて考えも一瞬頭をよぎりましたが、限界をとうに超えている胃袋が全力でGOサインを出しています。体は正直ですね。
暖簾が掛かっているのでおそらく営業中ではあると思います。
意を決して店内にお邪魔します。
いやまあ予想はしていました。けれどハズレてほしいなあと思っていました。心の底から。
案の定というかなんというか、店内は無人です。けれど感じます。気配を。
「ら、らーめんを1つお願いします」
カウンター席におっかなびっくり座った私はらーめんを注文します。
駄目で元々。無人の店内で勝手にカウンターに座りらーめんを注文する変な女の子が爆誕してしまいました。
恥ずかしくなって店を出ようとしました。
「え、ええ!?」
夢でも見てるのでしょうか。やはりこれは全部夢なのでしょうか。
らーめんが作られています。誰も居ないのに勝手に。
もう訳が分かりません。全部夢なのか頭が狂ったのかそれとも両方か。
私はただただ勝手に作られていくらーめんを眺めることしか出来ませんでした。
ここで味の感想を書く必要があるのかは分かりませんが、美味しかったです。
また明日も食べに来ることを心に誓うくらいには美味しかったです。
お腹が満たされたお陰でしょうか。
少しまともな思考が出来るようになりました。
ここは元の世界ではないと思います。そうだと決めつけます。そうでないと私の頭がおかしいことになってしまうので。
とにもかくにも状況が理解できてなさすぎるのが今の一番の問題です。
世界がおかしい私がおかしいどちらにしてもです。足りない頭ではちんぷんかんぷんです。
頼れる人はいません。全て自分でどうにかしないといけません。
困りました。これまでずっと父親の言いなりになっていた私にはあまりにも荷が重いです。
自分の意志というものがありません。
やりたいこともありません。
何をすればいいかも分かりません。
やはり、あの時にすんなりと死んでいれば良かったのでしょうか。それすらも分かりません。
······すみません泣いてしまいました。
泣いても誰も助けてくれないのに涙が止まりません。恐怖とか後悔とか怒りとか悲しみとか色々な感情がぐちゃぐちゃに混ざった涙が零れ落ちます。もう少し泣きます。
決めました。私は初めて自分の意志で決心しました。
私は生まれ変わります。
今までの内気で人見知りで泣き虫で無駄な身体しか取り柄のない大嫌いな自分から、明るくて元気で優しい私に生まれ変わってみせます。
自信はありません。気持ち悪くて吐いてしまうかもしれません。
けれどやります。こんな状況ですが、いやこんな状況だからこそです。
『前に進み続ければいずれ必ずゴールに辿り着く』
こんな事を昔言われた気がします。
もしかしたら気のせいかもしれませんがどうでもいいです。
ゴールが一体何かは分かりませんがきっと何か良いことがあるはずです。
新生工藤桜16歳。今から精一杯に生きることを誓います。
とりあえず泣いたらお腹が空いたので腹ごしらえですね。
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