らーめん麺少なめ
「もうしばらく進んでいただくと、大きな看板がある信号がありますので、そこを左に曲がってください。その先の右手にらーめん屋さんがありますのでそちらまでお願いします」
工藤さんのナビゲートに無言で従う。
少しだけ冷静になったんだけど、今かららーめん食べるの?まだ朝の8時だよ?重くない?
いや、世間には朝ラーという文化もあるらしいし決して選択肢として間違いではないのかもしれない。
普段朝は食パン1枚しか食べない私の胃袋がらーめんに耐えられる保証はないけど。
食べる前から不安になっている私をよそに工藤さんはひたすらに喋っていた。
よく話題が尽きないなと感心するし、話を聞いているのか聞いてないのか分からない人間相手に懲りずに話しかけるなと関心した。
「ところでなんですけど、凛さんはここら辺の事についてどの程度ご存知ですか?」
「どの程度と言われても······海辺の町ということしか知らないよ。ここに来たのも成り行きみたいなものだし」
「そうですかー。じゃあ先に忠告というか心構えをしていてほしいんですけど、これから行くらーめん屋さんで少しおかしな光景に出くわすことになるんですが、あまり驚かないでくださいね?」
おかしな光景?ラーメン作りながら大道芸するイカれた店主がいるとか?
工藤さんの謎の忠告に頭を悩ませていると、あっという間にらーめん屋に着いていた。車は1台も止まってないがまあ朝ならこんなものなのだろう。
暖簾をくぐり店内に入ると人っ子一人居なかった。ん?人っ子一人?
そう文字通り誰も居ない。店員さんも居ないのだ。もしかしてまだ開店前なのでは?
などと考え戸惑っている私と対照的に、工藤さんは当たり前のようにカウンターに腰掛けていた。
「チャーシュー麺1つと······凛さんは普通のらーめんでよろしいですか?」
「え?あ、じゃあ麺少なめでお願い」
「はーい。追加でらーめん麺少なめでお願いしまーす」
誰もいない厨房に注文がこだまする。
いや意味ないでしょそんなことしても。思わず勢いに釣られて麺少なめとか言っちゃったけど作る人が居ないんじゃらーめんなんて――――
この瞬間、私は工藤さんの忠告の意味を理解した。
誰も居ないはずの厨房でらーめんが調理されている。まるで目に見えない誰かが料理しているかのよう。
これならまだらーめん作りながら大道芸された方が百億倍理解できた。
思わず工藤さんの方を見ると、謎に勝ち誇ったような表情をされた。なんだコノヤロー!
ドン
五分と経たずに出来たてのらーめんが目の前に置かれる。勝手に。ちなみにちゃんと麺は少なめだった。
「いただきます!」
あらまあお行儀の良いことで。
得体のしれないらーめんを食べるかどうか悩んでいる私を尻目に勢いよく麺を啜る工藤さん。うーん······ええいままよ!
味はあっさり醤油でとても美味しかったです。
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