第10話 超巨大白蛇
後を追いかけ、丘の縁に立ってみると、超巨大白蛇が斜面を這って来るのが見えた。
強い魔力に導かれたのか真直ぐ、タカオウに向かっている。戦闘態勢で結界を張っている。
上空から、タカオウが、旋回しながら狙っている。急降下に移ると羽槍を放った。パッリーンと大きな音があたりに響いた。
巨大白蛇の胴体に10本余りの羽槍が刺さっている。
結界を貫く羽槍の攻撃は予測できなかったようだ。予測したとしても避ける術はない。自分も転移と言う魔術がなければほぼ死んでいた。
巨大白蛇はまだ蠢いている。
この時を待っていたように、与平は、巨大白蛇に近づき、結界で包んだ。
攻撃をうけて弱っていたのか、抵抗なく魔力を吸収できる。
体中に力が漲る感覚がある。
画面を呼び出してみると、
名前 ヨヘイ(光の精霊)
性別 男
年齢 20歳
レベル 上限達成
全魔力量 上限なし
残魔力量 60,000
属性 全属性
加護 なし
スキル 万能
質問
魔力量が転移再生の翌日に見た数値の10倍以上になっている。大丈夫だろうか。体の調子は頗る良いのだが、不安になってくる。
タカオウと巨大白蛇の魔力を吸収すれば、これくらいにはなるのかもしれないが。それにしても凄まじい。
これだけの魔力があれば、前世に転移できるのではないかと思い、質問に聞いてみた。
- 恐らく、転移可能だと思いますが、与平殿が暮らしていた時代に行けるかどうかは疑問です。転移時に特定の時代の特定の時間に転移を設定することが不可能だからです。この世界と前世の時間軸が同期していないのが理由です-
与平は前世に未練があるわけではないが、妹の弥生が見つかった場合、日本に帰したいと考えていた。質問の話を聞いて、愕然とした。もう、あの時代には帰れないのだと腹を括らなければならない。
タカオウは急降下して頭を掴むと、上空高く舞い上がり、落とした。
落ちて行く間に、急降下しながら、鉤爪で数回胴体を切り裂く。
固い大白蛇の胴体に赤い傷が幾つも増えて行く。硬い鱗を切り裂き、肉が露出した。完全に息絶えた。
羽の付いた矢が胴体に、10本刺さっている。
1本1本の羽槍が、日本の長柄槍と同じ太さと長さである。こんな攻撃を頭上から浴びて生き延びられる気がしない。自分は転移して逃れたが、転移できる魔獣などいるのだろうか。
タカオウの力ありきではあったが、この島の最大の脅威だった相手を倒すことが出来た。命を狙われてから島一番の強敵を討伐した。変化が激しすぎる。
タカオウの羽槍が1本丘の中腹に刺さっているのに気づいた。近づいて見ると頭に1本の角を持つ男が倒れており、その胸に槍が刺さっている。だが、直ぐに霧となって消えた。
「これは。」
- 異空間から覗いていた男がいたので倒したそうです-
「これは魔族か。」
- 違います。悪魔です-
「拙者は島に来てから何度か魔獣に襲われた。その時決まって声がした。この者達だったのか。」
- 悪魔は異世界から来ますが、精霊王が常に倒します-
「復讐なのか。」
- 判りません。でも当分は大丈夫でしょう-
「タカオウと話せないか。」
- 念話で意思疎通しているではありませんか-
タカオウは、与平の顔を一瞥すると、巨大白蛇の頭と胴体を掴み、飛び去った。
全長50mにもなろうかという超巨大白蛇もタカオウと比べると、普通の蛇の大きさに見える。
タカオウは、この世界でも最強の魔獣ではないだろうか。
後に知ったのだが、ギガントイーグルはSS級魔獣で、鳥の魔獣の中でも最強で、竜とも互角に戦える怪鳥だそうだ。知っていたら、使役しようなどとは思いもせず、思ったとしても行動には移せなかっただろう。
『質問』の提案は怖い。
タカオウに乗ればこの島からの脱出も可能になる。だが、急がない。今は、この世界で生き延びられただけでも十分。
家、野菜、果物、水、温泉それに家がある。ここで暮らして行ける。
贅沢を言うと、米や味噌、醤油があると嬉しい。
だが、今は食っていけるだけで十分だ。
食べたいと思えば、出すことは出来るかもしれないが、せっかく異世界に来たのだから。
温泉に飛び込んでやっと一息つけた。島最強の敵を葬り、世界最強の友を得た。
疲れた体を温泉で癒し、洞穴に戻りベッドに倒れ込んだ。
翌日、目を覚ますと洞窟を出て、島の高台に飛ぶ。
島の周囲を回る。魔力が大量に増えたためか、思う通りに飛べる。落ちる恐怖はもうない。空中にとどまったり、速度を上げたり、高度を上げたり。楽しんだ。これなら、他の大陸にも飛んで行けそうだ。
タカオウを呼び出して、一緒に飛ぶ。
タカオウが海に急降下して魚を咥えて戻って来た。
真似をして、海の中に飛び込んだ。海の中も飛ぶように進める。結界の中では呼吸も出来る。何という自由、何という高揚。感激している自分を感じる。楽しい。異世界に来て本当に良かった。
タカオウと別れて、洞窟に帰る。
以前から前の住民が何か調味料を使っていたはずだと、家中を探したが、見つからなかった。念のため、部屋を探知してみた。すると、床下に空洞がある。
床板が外れるようになっていて、地下に降りる梯子があった。
3畳ほどの部屋に明かりを灯すと、甕が3つ並んでいる。樹の葉を何枚かかけて、蔓紐で縛ってある。魚の腐敗した匂いがする。
一つを開けてみると、ドロッとした黒い液体が入っている。魚醤を作っていたのだ。濾せば、使える気がする。
次の甕も同じだったが、最後の甕には、まさに魚醤が入っていた。指を入れて、舐めてみた。しょっぱいが、旨い。
つい、顔が綻んだ。
小さな壺があったので、覗いてみると油のようだ。舐めてみると、菜種油とは違うコクがあり、色も濃い黄色をしている。
夕刻、温泉に入り、寛いでいるとカニが岩の上を歩いている。カニと言っても、大きい。越前ガニの2,3倍はありそうだ。
風呂を出て、今晩の夕食を捕まえようとしたが、逃げられた。追いかけたが、海の中に消えた。
夕食に逃げられ、がっかりして、目を海岸線に向けると、岩の上に座礁している船を見つけた。
難破船だろうか。破損しており、損傷が激しい。大型の商船だったのか、積み荷が散乱している。
使える物がないだろうか。岩場を伝って船に近づく。船の甲板に上がろうとして、掴んだ船の縁が砕けて岩の間に落ちそうになった。乗り込むのは危険だ。
洞穴の住人はこの難破船で辿り着いたのだろう。
余りに、生活道具が整い過ぎていた。この難破船から持ち出したとすれば、納得だ。
この難破船の救命船を持ち帰って、修理して脱出したに違いない。何故一人だけ生き残ったのか疑問が残るが、知りようがない。
しかし、同じ住人があの洞窟内の岸壁を作ったとは思えない。まるで、秘密基地のようだ。かなりの年月と人手をかけて作られている。
しかし、岸壁が出来た後に住人が住み始めたとしたら、長い間、放置されていたことになる。
丘に沈む夕日を見ながら、帰った。
翌朝、果樹園に行く。
果樹園の果樹は、枝が伸び放題だったので下枝を切り取り、下草を刈った。
黄色い実のなった小ぶりの樹を見つけ、捥いで、齧ってみると酸っぱい。
柑橘系のフルーツのようだ。酢の代わりになるかと、幾つか捥いだ。
果物が特別好きというわけではないが、食卓を華やかになる。
緑色の小さな実をつける樹が数本あったので、ちぎって口に入れた。少し渋みはあるが、コクがある。少し油分を感じる。地下にあった壺の油に似た味がする。
この実を絞って作ったのではないか。探知すると、オリーブの樹と出た。
質問する。
「オリーブから油は作れるのか。」
- 種を取った実を潰して混ぜ、揉んで、上澄みを拾ったものが、オリーブ油になります-
やっぱり、地下にあった油は、この実から作られていた。
油がなくなったら、作ってみようと思う。ただ、油を使った料理が思い浮かばない。せいぜいランプの燃料に使うぐらいだろうか。
だが、どんな物でも手に入るのだから、拘る必要はないのかもしれないが、極力周りで手に入る物だけで生活しようと思う。折角異世界に住むのだから。
ある日、オリーブの実を収穫している時、黒い塊が動いているのが目に入った。殺気は感じない。巨大黒蛇と戦っていたあの黒熊だ。
幕末の剣豪、金山与平 ー異世界再生して精霊王の後を継いだのだがどうしようー 美瑠華麗 @mirukarei
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