第15話 宣戦布告

 アンジェリカの『KISS―キッス―』への復帰とジュリエッタの紹介を終え、ミーティングをした後、各々が配置についてガールズバー『KISS―キッス―』は開店し、次々に訪れる男性客の中に混じってエヴァは一人カウンター席へと腰を落とした。


「わりぃな、一人なんだけどここで飲んでもいいかな?」


「いらっしゃいませ。もちろんよ。楽しんでね。」


 ニコっと笑みを見せ挨拶をする店員にエヴァはウイスキーをロックで頼み、タバコ(電子タバコ)を咥えた。


「あら? あなたは確かエヴァ・サンダースさんだったかしら?」


「あん?」


 そんな一人飲みを楽しもうとしていたエヴァに話しかける美女がいた。


「あんたはこの間の美人な姉ちゃんか。……あれ? なんかこの前よりも綺麗、というかなんか若くなってねーか?」


「ウフフッ、嬉しいわ。ありがとう。私の名前はルージュよ、よろしくね。ねぇ、お隣いいかしら?」


「別に構わねーけど、私と一緒に飲むのか?」


「ええ、お願いするわ。この前は失礼なこと言ってごめんなさいね。あっ、エリー、私にはいつものワインをちょうだい。」


「かしこまりました、ルージュ姉さん。」


 賑わう店内の中、エヴァとアンジェリカはカウンター席でグラスを交わした。


「今日は来てくれてありがとう。あなたとはゆっくり話してみたかったわ。」


「私と?」


「ええ。この前はあんな強面の人達の中に居たんだもの、一体エヴァさんってどんな人なんだろうって気になっていたわ。」


「おいおい、初めに言っとくけど、私に『さん』付けなんていらねぇーよ、エヴァでいい。私もルージュって呼ぶからよ。」


「ウフフッ、わかったわエヴァ。それで、今日は怖い人達の付き添いじゃなくてただお酒を飲みにお店に来てくれたの?」


「あぁ、まぁな。最近は色んな事が起きてよ、なんか飲みに行きたくなってな。この国に来て他に酒場を知らねぇものあるけど、前に来たときにここの雰囲気がなんか良くてな。私は母国でも色んな酒場で飲んだが、女が元気なのはいい店の証拠だと思ってる。それに、ここで飲んだ代金は第三次世界大戦サード・ウォーで被害にあった戦災小児や犯罪で親を亡くした子供を保護している『フトゥーロ』っていう施設の支援金になってるって聞いてな。こんな私でも飲み代がそんな子供達の支援に使われるっていうなら喜んで飲むぜ。『フトゥーロ』ってこの国じゃ『平和』って意味なんだろ? 最高にクールで素敵な名前じゃねーか。」


「嬉しいわ。ここを選んでくれてありがとう。施設のことまで知ってるのね。そうよ、だからたくさん飲んでね。ウフフッ。ねぇ、エヴァ、色んな事って、もしかして『剣星狩り』を倒した事とかかしら?」


「知ってたのか……まぁ、あんたもファンだって言ってたし、悪い事をしたと思っている。けど、私には私なりの信念があってやったとこだ。後悔はねぇ。」


「大丈夫よ。『剣星狩り』は確かにあなたに負けた。でも、死んじゃいないわ。実は今日エヴェとこうやって話しているのは伝言を頼まれていたのもあるのよ『剣星狩り』に。」


「『スカーレット』がっ!? 生きてやがったのか!?」


「ええ、生きているわ。流石に機体はボロボロでもうダメになってしまったけれど、新しい機体であなたにリベンジを申し込みたいそうよ。受けてくれるかしら?」


「ヘッ! 上等だっ! また倒してやるぜって伝えくれよっ!」


「ウフフッ、伝えておくわ。あと、この前お詫びに一つ教えてあげるわ。エヴァは今『レッド・ファントム』を追っているわよね? 『レッド・ファントム』の正体……あれは貴方が倒した『剣星狩り』の新しい機体よ。今はまだ新しい機体の試運転中で慣らしついでに盗賊団のアジトを潰しているわ。」


「なっ!? ……あのとんでもねぇ速さで慣らし運転のついでだとっ!?」


「そうよ。何やら『レッド・ファントム』を倒すために色々と機体に改良を加えてるみたいだけど、あれが新しい『剣星狩り』の機体と知って勝てるかしら?」


 エヴァは愕然とした。


新たに見つけた目標『レッド・ファントム』が『スカーレット』の新しい機体で、あれだけの戦闘をして慣らし運転のついでだったという事実。


そして、あの速さが慣らしだとしたら時速六百キロよりもさらに速いかもしれないと思った。


「…………。一ヶ月だ。一ヶ月後にこの前やり合った場所でお前を待つと伝えてくれ。そんぐらいあれば慣らしも終わるだろうし、私の機体の準備も出来る。お互い真剣勝負だ、勝っても負けても後腐れはねぇ。」


「一ヶ月後ね。了解よ。確かに伝えるわ。」


 二週間では間に合わないとエヴァは判断したと同時に新しい『剣星狩り』の機体と同等の速さで闘うには自分も新しい機体に替えてなおかつ自分も機体に慣れて改良も加えないと勝てないと思った。


下を向き考えこんでいたエヴァを見てアンジェリカは気分を変えようと他愛ない話しを続け、エヴァもアンジェリカの笑顔で話しかけてくる雰囲気に今だけは考えるのを止めてアンジェリカの他愛ない話しに付き合い、気付けば酒の量も増え酔いが回り泥酔しかけていたがアンジェリカはそっとエヴァの手に飲み薬を渡した。


「大丈夫、エヴァ。これ、よかったら飲んでみて。飲んだ後でもすぐ効く、酔い過ぎない秘密の薬よ。今夜はこれくらいにしてまた来てね。」


 可愛くウインクをして酔い止めの薬を渡してくるアンジェリカにエヴァは女性ながらもドキッと胸を射たれたような感覚になった。


水と一緒に酔い止めを飲み、少しの間アンジェリカと話した後エヴァは帰っていった。


「あーあ、全く、ルージュってば優しいのね。敵に塩を送るなんて。私ならガンガン飲ませて酔い潰してるわよ。」


「ミラったら怖いわよ。私、話してみてわかった、彼女は悪い人ではないわ。根が真っ直ぐで正義感が強いのよ。……あと私と同じで負けず嫌いな性格ね。」


「残念だわ。また一つ、エヴァ・サンダースのすっぽんぽんコレクションを手に入れるチャンスだと思ったのに。」


「そうよそうよ。またアンジェに酷いことしたときの脅しにのネタを無くすなんて勿体ないことをしたわ。」


「はぁ……、今はあなた達の方が悪党に見えるわ……。」


 アンジェリカはエヴァの酒癖の悪さを知ってしまったため、これ以上ミラとジュリエッタにネタを提供するのはあまりにも可愛そうに思い酔い止めを渡したのだったがミラとジュリエッタは不服そうだった。


「一ヶ月後か……。エッタ、エヴァはどうくると思う?」


「愚問ね。彼女は試運転とは言え私達の愛機の速さを肌で感じたのよ。迷わず新型のトランス・ギアに乗り替えてスピードに特化型にフルチューンして勝負しにくると思うわ。」


「私もそう思うわ。フフッ、面白くなってきた。……なんだか不思議な気分よ。私、もしかしたらエヴァみたいな人を待っていたのかも知れないわ。私、いや、私達と本気で闘ってくれる好敵手ライバルって存在を……。」


 その頃、帰り道を歩いていたエヴァはアンジェリカにもらった薬のおかげで酔いはすっかり覚めてイザベラに電話をかけていた。


「わりぃな、ベリータ。先に謝っておく。例の加速ブースターを八百キロは出るようにしてくれねぇか? あと、新型のレボエイトを送ってくれ。出来るだけ早くな。」


「はぁっ!? 夜中に電話をかけてきたと思ったらいきなり何言ってるのよ!?」


「事情が変わってな……。簡単に言うと、『レッド・ファントム』の正体が『スカーレット』の新しい機体で、しかもまだ試運転段階で時速六百キロの化け物だそうだ。」


「なっ!! ……そ、それじゃ、本気を出したらもっと速いってこと!?」


「あぁ、間違いなく速ぇし、とんでもなく強ぇだろうな。ただ、アイツにだけは負けたくねぇ。私のプライドを全部ぶつけて闘いてぇんだ。頼む、力を貸してくれ。」


「はぁー、今度の敵は手強いわね。わかったわ。エヴァがプライドをかけるなら私だってプライドをかけて挑戦するわ。任せて。新型のレボエイトをエヴァに合わせてフルチューンして加速ブースターも最大限に改良して八百キロどころか九百キロは出るようにしてあげる。そして約束通り二週間で仕上げてエヴァの元に送ってあげるわ。」


「アハハッ! そいつぁ、ご機嫌だなっ! そんなの『スカーレット』の新型よりも化け物じゃねーか! 最高にイカしてるぜっ!」


 アンジェリカとジュリエッタの予想通り、エヴァは新型のトランス・ギアで決闘に挑もうとしていた。


それから歩きながらエヴァはイザベラと機体のどこを改良するかなどを話している内に雑談になり元々の話からは脱線して話し込んでいた。


「ベリータ、なんかさぁ、私、変なんだ。」


「何を今さら言ってるのよ? エヴァが変なのは昔からでしょ。」


「いや、そうじゃねーよ! 何て言うのかな……、一度は私が勝った相手なんだけどさ、そいつが私に勝つために新しい機体でリベンジしにきてよ、今度も絶対負けなくねぇんだけど、なんか嬉しいっていうか、ワクワクしてるっていうか……なんか変な気持ちなんだ。」


「アハハッ、なんかさぁ、私達もう今年で二十五歳になるのに、エヴァってば昔も今も青春してるわよね。」


「青春? 私が?」


「エヴァってさ、私と出会った頃から『伝説のスカーレットをぶっ倒す!』って言ってたじゃん。あいつを倒すためには強くならなきゃならねーって言って沢山練習してさ、腕試しだって言って世界大会まで行って優勝しちゃうんだもん、本当にすごいわ。そして実際に目標にしてた『スカーレット』を倒したと思ったら今度は相手が強くなってリベンジ挑まれて絶対負けたくないとか言って燃えちゃってさ。『スカーレット』ってもうエヴァにとっては永遠の好敵手ライバルみたいよね。」


「ハハッ、そうか、私は今青春してんのか。……好敵手ライバルかぁ。相手が『スカーレット』なら不足はねーぜ。」


 それからエヴァはまたしばらくイザベラと話し込んだ後に電話を切り、帰り道の途中にある公園に立ちよって自販機でコーヒーを買い、ベンチに座りタバコを吹かし夜空を見上げた時にふと赤く光る星に目がいった。


「あれは確か……。」


 エヴァが見つめていた星。


それは偶然にもアンジェリカの新しい機体の名前の由来でもある蠍座の一等星『アンタレス』だった。







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