第13話 赤い亡霊

 アンジェリカがエヴァに倒されてから二週間が過ぎた頃、裏社会の間で妙な噂が出回っていた。


最近、盗賊団のアジトが次々に襲われ逮捕者が続出しているという。


逮捕されずに逃げて生き残った者によると襲ってきたのは赤い機体であり、倒し方の特徴からどうやら倒されたはずの『剣星狩り』が復活したらしい。


だが、おかしなことにその機体はレーダーから忽然と姿を消すことから亡霊という噂もあり、さらにはとんでもなく速いという――――。


「……でっ? 私に何の用だ? 目的は果たしからもう用済みだって手切れ金渡してクビにしてきたのはそっちだろうがこのファッキン野郎共。」


 早朝から玄関を叩かれて起こされたエヴァはえらく不機嫌だった。


寝起きでボサボサの髪のまま部屋着姿で玄関をあけると黒い服を着た複数の男達がエヴァの元へと訪ね、その中には盗賊団組織『ダグラス・ファミリー』のボス、ジョーダン・ダグラスの姿があった。


『剣星狩り』を倒したことで一躍裏社会で有名になったエヴァだったが、悪事に手を貸すつもりはないとキッパリと言い張ったためダグラス・ファミリーからは用心棒をクビにされていた。


『スカーレットを倒す』という目的を果たし母国のアメリヤに帰ろうと思っていたエヴァだったが、遥々海を越えてスバル連合王国にやって来たということもあり、しばらく滞在し観光を楽しもうと思っていたので都市から離れた田舎の小さな村にトランス・ギアが格納出来るガレージ付きのアパートを借りてのんびりと日々を過ごしていた。


「まぁ、まぁ、そう邪険にしないでくれよエヴァ。またちょっと手を貸してもらいたくてね。」


「フンッ、まさか組織のボスが直々に願いに来るとはねぇ。言ったはずだ。私は『剣星狩り』を倒すことには手を貸すが悪事には手を貸さねーってよ。」


「それがまた『剣星狩り』が現れたとしたらどうだ?」


「アアッ? 喧嘩売ってんのか? そんなわけねーだろ。あんな谷底に落ちて助かるわけがねー。」


「まぁ、話しだけでも聞いてくれ。我々も君から倒した証拠として提供された映像を観ているから奴は死んだと断定している。『剣星狩り』と言っても正確には奴と同じでやり方で我々のアジトを襲っている何者かが最近暴れているということだ。そしておかしなことにレーダーに反応がなく気づかない内に次々とやられてしまっていてね。『剣星狩り』もしくはその意思を継ぐ何者かと我々は睨んでいるんだ。」


「何? レーダーに映らない? なんだそれは? ステルス機能を持ったトランス・ギアなんて聞いたことねーぞ?」


「分からない。我々はコードネームとして『レッド・ファントム(赤い亡霊)』と呼んでいる。興味が湧かないか? 君が倒した『剣星狩り』もしくはそれ以上の手練れの存在に。」


「なるほどねぇ~、そんな奴がまだこの国にはいるのか。……いいぜ、手を貸すつもりはねーが退屈しのぎにやってやろうじゃねーか。」


「ありがとうエヴァ。奴は順番に我々のアジトを潰している。次の場所はおそらく……」


 話している途中ジョーダンの携帯端末が鳴り、電話を受け取ると顔色が変わった。


「エヴァ、すまないが今すぐに準備をしてくれ。『レッド・ファントム』が現れた。」


「おいおい、早速お出ましかよ! ヘッ、面白れぇ、ぶっ倒してやるぜっ!」


 それからすぐに準備を整え、襲われているアジトへとエヴァは走り出した。


アジトには『レッド・ファントム』が来ると予想されていたため、ダグラス・ファミリーは各支部からトランス・ギアをかき集め総勢百機を越える大群で待ち構えていた。


しかし、エヴァが到着するまでのほんの一時間程の間に全機が戦闘不能になり、トランス・ギアの残骸が山になってあちこちに煙が立っていた。


「なっ……。おいおい、なんだよこれ。へっ……、化け物かよ……。どうやったらこんな数の相手をここまで倒せるんだ。これが『レッド・ファントム』か……。クソッたれ、……ワンマン・アーミーなんて映画だけのファンタジーだぜ…………。」


 あまりの損害の多さにエヴァは冷や汗を流し戦慄した。


頭部は吹き飛び、椀部、脚部の関節がやられ行動不能。


しかし、死者は無し。


情報通り『剣星狩り』のやり方と一緒だった。


「なんて野郎だ……。これが『レッド・ファントム』か……。ヘッ!! 上等だよ!! ぜってぇ倒してやる!」


 エヴァが到着する頃にはもう騎士団が駆け付けダグラス・ファミリーの部下達を捕まえおり、もうこの場には用がないと判断し立ち去ろうとしたその時、レーダーに微かな反応があり警戒アラームが鳴った。


「なんだっ!? ……速い……、ハァッ!?六百キロだとっ!? んなバカなっ!?」


 時速にして推定六百キロ。


とんでもない速さの何かがエヴァに接近してくる。


すぐさま人型形態になり、武器を構えていた次の瞬間、レーダーから姿は消えた。


「何っ!? 故障か? ……いや、来るっ!!」


 直感で感じた気配。


エヴァは咄嗟にレーダーを熱源式に切り替えた。


熱源式に切り替えモニターの前方に熱源体が迫ってきていると確認したとほぼ同時に機体のメインモニターにとてつもなく速い車両形態の深紅のトランス・ギアがエヴァを横切りあっという間にその場から姿を消した。


「なっ!?……。」


 エヴァは全く反応出来なかった。


元とはいえ、つい数週間前まで世界最強を誇るアメリヤ帝国の精鋭部隊で構成された特殊騎兵隊『トップ・ギア』のエースパイロットとして数々の戦場を駆け巡ってきた自分が反応すら出来ない存在『レッド・ファントム』。


「野郎……、わざと何もせずにただすれ違いやがったな……。クソッ、舐めやがって……。」


 屈辱だった。


まるでいつでも倒せると言われているようだった。


「……上等だ。受けて立つぜ、ファック・ユー。」


 それからエヴァはすぐさまアパートに戻り携帯端末を取り出し電話をかけた。


「あぁ、私だ。久々だなベリータ。」


 イザベラ・グラール。


エヴァが以前所属していた『トップ・ギア』の開発部門の主任でトランス・ギアの武器や装備の開発と研究をしていおり、エヴァの昔からの友人で愛称でベリータと呼んでいる。


「全く、久々じゃないわよ。いつになったら帰ってくるの? もう伝説の『スカーレット』は倒したんだし、早く帰って来なさいよ。みんなあなたの帰りを待ってるわ。居場所なら安心してよ。また部隊に復帰出来るように話しはつけてあるから。」


「……悪い、まだ帰れそうにねぇ。『スカーレット』の他にも倒さなきゃならねぇ奴が出来た。すまねぇけど前に私が頼んで造ってもらった加速ブースターを送ってくれねぇか?」


「あー、あれね。でも、あれはスピードに特化し過ぎてバックウェポンも付けられなくなるし実戦じゃ使い物にならないってことで造ってみたけどボツになったじゃない。まぁ、保管はしているけど、まさかあれが必要なの?」


「あぁ、今度の敵はバカみてぇに速くてな。時速六百キロで走り回る化け物だ。」


「えっ!? 時速六百キロ!? あり得ないわ! そんな速いトランス・ギアなんて聞いたことない!」


「居たんだよ、そんな化け物がな。なぁ、加速ブースターを付けたら私の機体で何キロ出ると思う?」


「まぁ、あれは試作段階だけどエヴァの今の機体なら五百キロ台は出ると思うわ。」


「クソッ、まだあいつには届かねぇか……。すまねぇ、あと百キロは出せるように改良してくれねぇか?」


「はぁ、全く、エヴァったら無茶苦茶なこと言って何回私を悩ませるのよ。……だだ、時速六百キロの謎のトランス・ギアにはとても興味があるわね。いいわ、やってみる。」


「アハハッ、いつもすまねぇぜベリータ。いつ頃出来てこっちに送れそうだ?」


「やってみないと分からないけど、そうねぇ、ベースは出来てるから後は出力を調整して改良するだけだから……二週間ってところかしらね。」


「二週間かぁ。オーケー、頼むぜ。私もその間に機体を出来るだけ軽くしとくからよ。」


 謎の存在『レッド・ファントム』を倒すためにエヴァは友人のイザベラの協力を得て愛機であるレボリューション・セブンの改良に動き出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る