第4話 商店街へようこそ
周囲が暗転すると同時に、足元の円盤が薄っすらと光を発していく。
その光量は強いとは言えず、相変わらず周囲は暗いままだったが、円盤が光源となったことで手元や足元と学ラン野郎の姿くらいは確認できるようになった。
身体に纏わりつく浮遊感が、暗闇の中でもこの円盤がゆっくりと降下していることを感じさせた。
それから1分か、あるいは2分か分からないが、暗闇の中で過ごすにはそこそこ長く感じるだけの時間が過ぎて、ふと足元から照らしていた光が消失した。
その間もなく、視界には街灯に照らされて丁度夜の街のような雰囲気を醸し出している街並みが飛び込んできた。
見る限り、3階より高いビルは建てられておらず、外観はそこそこな規模の商店街といった感じだ。
驚くことに、俺たちが暮らす都市の下にはこのような場所が秘密裏に存在していたようだ。
佐倉の奴はこのことを知っていただろうが、それでも話さなかったのは俺を驚かせようと思ったか、口止めをされていたかのどちらかだろうな。
円盤の上から見下ろしていた街並みも次第に近づいていき、真っ直ぐ下降し続けていた円盤はある建物の屋根を通過し、その屋内で、安全に飛び降りることができるくらいの高さまで移動すると、張られていた被膜が円盤に収納された。
そのまま円盤は床面に吸い込まれて、跡形もなかったかのようにその姿を消した。
「着いたのか?」
ついてこいと言われから辿り着いた先がこのような場所であったことへの戸惑いを感じながらも、俺は一先ず学ラン野郎にここが目的地であるのかということを尋ねた。
「どう捉えるかによるだろうが、少なくとも監視の目をくぐって歩き続ける必要はなくなった」
「つまり?」
「予定していた地下都市への誘導は完了した。しかし、君が用事のある場所は隣街のVR専門店だ。今日のところはこの街で一泊し、また明日地下鉄道を利用してそこへ向かうことになるだろう。したがって、今日の目的地には到着したと言える」
「まどろっこしいな!?」
「すまない。俺は少し口が下手なんだ」
学ラン野郎は表情を全く動かさずにそう言った。
「ところで、君はこの街は初めてだな?」
俺は頷いた。
「それなら、色々と説明する必要があるか...」
学ラン野郎はすこし考えこむような仕草で言った。
「では、そうだな。この街を散策しながら、地下街のルールについて説明しようと思うが、よろしいか?」
「説明については問題ないが、それよりも少し腹が減ったよ。歩き疲れたのもあるし、散策はまたの機会にして、どこか飯が食える場所に連れて行って欲しいな」
「ではそうしよう。何か食べたいものは?希望がないならラーメン屋に行くが」
「蕎麦で」
「そうか。では蕎麦屋へ向かうとしよう」
学ランの男はそう言って歩き出し、ドアノブに手をかけると部屋から出ていった。
俺は彼の後に続き、ドアを閉めてから部屋を後にした。
部屋の先にあった階段を降りて一階まで行き、そこにあったエントランスから外に出た。
10数歩歩いた先でビルを振り返ってみたが、地上にある背の低いビルと外観は変わらないようで、このビルに空飛ぶ円盤のようなハイテクが利用されているというのがどうにも不思議だった。
クリティアスには見たこともないような技術が使われた製品が数多くあると耳にしていたが、この地下街にはあの空飛ぶ円盤のような未知のテクノロジーが他にも眠っているのだろうか?
そう思うと、ただ案内人に接触できるかもしれないというVRゲームを買いに来ただけだというのに、憧れのクリティアスに近づいたような気がして胸が騒いだ。
「散策はいいのではなかったのか?」
前方の学ラン野郎が俺に聞こえるように声をかけた。
「悪い、今行く」
俺は急ぎ足で彼を追いかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます