エピローグ
爆発四散。
見事私の意識ごと身体は吹き飛んだのだろう。
私はただ浮かんでいた。
勝てない
無理だ
とても敵う相手ではない
あまりにも強大過ぎる。
命を掛けても相打ち止まり。
どこまでも追い掛けて来て必ず私を追い詰める。
爆発の中、飛び散った兜の下、それでも私を睨みつける目を思い出していた。
――逃げなければ
朝を迎えてはならない。
いつもの朝ではもう生きることは出来ない。
この地、この時、この屋敷は奴の絶対の殺意に包囲されてしまっている。
――逃げなければここではないどこかへ
心からの叫びに私の魂は応える。応えるべきだ。
いや、応えたからこそのこの力。
時を遡り、やり直せる力を手に入れた。
ならば今こそ飛躍の時。
別にやり直すのはここ、この時でなくともいい。
やり直すのだ。
奴の追って来れない時に、場所に。
そう考えてながら、私の意識は漂った。
茫漠とした、果てのない、月明りもない海のような、極夜の雪景色のような、暗く広い場所をただただ漂流していた。
寂しくて誰もいない場所を。
どこか落ち着く、奴の追って来れない場所。
――それがここ?
そう、ここには誰も来ない。
誰も追っては来れない。
そう、ならばここで――一人――寂しく――
――なんて許せない! 許せるものか。
まだ終わりには出来ない
まだ終わりにするのは許されない。
まだ何もなしてはいない。
まだ何も満足はしていない。
私を追い出した王も
私の名誉を汚したあの女にも
私のすべてを否定したこの世界にも
私を認めさせてはいない!
怒りだった。
沸いた激情が私を私たらしめる感情。
そうイライザ・グラティアリスともあろうものが落ち着いていいわけもない。
応えて貰わねば困る。
応えて見せてくれなければ私ではない。
私の魂は私の形を取り戻した。
白く輝く肌を
銀にたなびく髪を
切れた長い目と濡れたように淡く輝く薄い藍の瞳を
向かうべきはあの場所、あの時に。
見定めた先。開けた視線が捉えたのは――
色とりどりのタイルの、青い屋根。
都でもっとも絢爛豪華な建物。
『聖女と勇者のための学院』
目を開くとそこは煌びやかに光り輝く世界。
足を置く絨毯の柄の細かなことだけみても、内装もぬかりなく。
意匠に金を取り入れた壁面と調和させるセンスを見ても、大陸一といっていい。
ガラスから取り入れた光と燭台の灯りとで眩む目が慣れた頃。
私に刺さる視線があった。
私に向ける沢山の瞳があった。
青、黒、茶、緑の色とりどりの目の色の六人の、正装した若き学院の貴公子たち。
そして彼らが守るようにしている中央の女。
芋っぽい薄紅の、下品にも足を出したドレスを来た。
まるで土に汚れたようなブルネットの髪と、同じ色の目を向けてくる。
”あの女”の前に私は立っていた。
元聖女様の生存戦略 ~絶対死のループの中、それでも生き抜きたいようです~ 玉部×字 @tama_x
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