短歌と散文 「夏を想う」

よひら

平安の都の空気を深呼吸 胸いっぱいの夏の太陽

京都駅の中の待合室、会社員らしき大人が大勢いる。さすがに日本を代表する観光地だけあって外国人の観光客らしき姿も多い。何けなく視線を泳がせていたら視線の横に動くものがみえた、誰かが小さく手を振っているのだ。

「さっきはどうも」しょうがないので私から声をかけた。

「おつかれさまでした。何時の新幹線ですか?」

「18時15分の博多行です。」

「僕はその前、18時ジャストの上りです。さっきの話、結構大変ですよ、ウチのほうは。」確か彼は東京支社だったはずだ。さきほどの社内研修の続きの話をしている。グループワークは結構心の距離感を縮めてくれる。

話すこともなく、最近の若い男の子は肌がきれいだ、なんて見とれていたら「それ、なにかお土産でも買ったんですか?」「え、うん、はい、551の豚まん、福岡には無いから。京都本社にきたら割と買ってかえるんだ、京都のお土産じゃないけど、まあ関西のお土産だし、家の人も喜ぶし。」と、しどろもどろの答えになってしまった。家の人、なんていい方もおかしい。旦那とは離婚してるし、実家暮らしのシングルマザーです、なんてそんなことは話すのもおかしいし。

「だんなさん、お子さんかな?僕もすきですよ、肉まん。美味しいですよね!俺も好きです。」と彼は一人で納得している。「肉まん」なんて、関東の人は豚まんとは言わないのは本当らしい。

と、ちょうどよい頃合いで駅のアナウンスで上り新幹線のアナウンスが聞こえた。

「あ、じゃ、俺いきます、もう時間ですから。また社内でコンタクトするこちがあったらよろしくお願いします。」と、早口であいさつをして細身のスーツがすくっと立ち上がる。想ったより背が高い。「じゃ、また、おつかれさまでした。」


10分ほどして私も下り新幹線のホームにあがった。

夕方なのにまだ暑い。京都は盆地なので、海辺の街とは異なる暑さがある。と、博多ゆきの新幹線がホームに滑り込んできた。新幹線とともに熱気にさらされる。


何となく名残惜しくて深呼吸した。

肺の中まで真夏の空気がひろがっていくようだった。

「さてと、博多にもどりますか」と心の中で自分に声をかけた。


それから1年、なぜか彼が博多支社に転勤してきた。なんと私の同僚になった。

今年の夏は、なにか起きるかな、なんて少し期待もしたが、すぐに忙しい日々に飲み込まれていった。忙しい夏も真っ盛りだ。




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