第17話:孤独の昼食
三宅が部室に着くと、予想通り誰もいなかった。
部屋の隅にあったハロゲンヒーターをソファの近くまで引っ張ってきて電源を入れ、ソファに腰かけた。身体が沈みこむ。
ふと思い立って、靴を脱いで美亜子のように寝転がってみた。座面より盛り上がった柔らかい手摺部分が、首を支えてくれるので丁度良い寝心地だった。
ぼおっと天井を見上げていると、様々な出来事が次から次へと浮かんできて、胸が苦しくなった。
千紗都のこと、クラスメイトのこと、美亜子との捜査のこと。
そして、夢に現れる少女、夢子のこと。
どれも、気を張らねばならない。明日からは、どうやって授業を抜け出そうか。もはや教室に行くのも億劫だった。
あれこれ考えていると、腹の虫が鳴った。そういえば、昼間は寝通していたから、弁当を食べていない。
三宅はソファから体を起こして、鞄から弁当を引っ張り出し、食べ始めた。
時間が経っているので冷たいものの、食べ物が胃に入っていくと、それだけで活力が沸いてくるような気がした。
不安で弱気になっていたのは、脳を動かす糖が不足していたからかもしれない。
弁当を食べ終わったころに、美亜子がやってきた。
「随分と遅い昼飯なんだな」
部室に入るや否や彼女はコーヒーを作ると、それを三宅に手渡して言った。
「食べ損ねまして」
三宅は返事をして、美亜子の様子をそれとなく伺う。
美亜子は、不思議なことに自身のコーヒーを作っていなかった。彼女は椅子に座ると、ふっと息を吐いて軽く目を閉じる。
眼鏡の作る陰かと思ったが、よくよく見ると目の下の血色が悪く、酷く眠そうに見えた。
彼女も深夜に目が覚めてから、眠れなかったのだろうか。
「だいじょうぶですか?」
「……ああ。結局、明朝に目が覚めてから起きてるんだが……まだ、眠る訳にはいかないからな。三宅、メモはあるか?」
「あ、はい。これです」
三宅は寝起きに書き殴ったメモを鞄から取り出した。美亜子の目の前にメモを置く。
美亜子は「ありがとう」とメモを受け取ると、ざっと眺めて頷いた。
「うん。昨日夢の中で聞いた通りだな。私の記憶とも一致してるよ。それとFREAMは持ってきたか?」
「はい、鞄に……」
鞄を探ろうとした三宅を、美亜子は制止した。
「あるならいいんだ。しまっておいてくれ」
椅子から立ち上がった美亜子は、本棚に無造作に差し込んであったクリアファイルを取り出して、三宅のメモを挟んだ。
「今は記憶できているが、そのうち忘れるかもしれないからな。ちゃんと保管しておこう」
美亜子は、やけに膨らんだ鞄を円卓の上に置いて、クリアファイルを詰め込んだ。そうして、重そうな瞼で三宅を見た。
「飲み終わったら、病院へ行くぞ。打ち合わせは、歩きながらしよう」
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