魔鬼の契约

「苜蓿村は、とても素晴らしい場所です。」

　ハープは苜蓿村の高い穀物の山の上にしゃがみ、この静かで穏やかな僻村を見下ろしていた。彼らは完璧な人々の最も敬虔な信者であり、彼らが苜蓿村に引っ越してくる前からそうであった。

　ハープはこのような純粋さを愛している。それは鮮やかな絵の具のようで、常に巴托九獄から来た彼の魂の本能を刺激している——彼は創作したいのだ。

　ハープはバトル九獄から来た初等の巴特祖で、あるいは世俗的な呼び方で言うなら、地獄から来た小魔鬼だ。彼は宇宙を網羅する壮大な抱負と諸界を謀る深遠な知恵を持っている……今現在、彼の力は極限まで弱まっており、使っている姿は銀灰色のチンチラだ。

　しかし、問題ない。この小さな村で、彼は自身が望むものを手に入れることができ、一部の力を回復させ、そして形態を昇格させ、地獄に戻り、再び幕を開ける……

　ハープの小さな目が輝き、八歳の茶色の髪の男の子がこっそりと走ってきた。

　彼の絵の具が来た。

「ハープ閣下！おいでになりますか？ハープ閣下！」

　男の子は穀物の山の周りを回り、声を押さえて、頭を上げて呼びかけた。

　茶色の髪の男の子は農家の息子のアデンで、善良で、活発で、何よりも愚かである。

　ハープは頭を出し、鈴のように心地良い音を出しました。

「はい、私はここにいるよ。祝福されてるアデン。」

　アデンは興奮して言った。

「私はあなたがくれた精霊のラズベリーを弟のミルク粥に入れてやったんだ。弟は食べてから、本当に泣かなくなったよ。母は三日間で初めて寝れたんだ！あなたって本当に精霊の仙女だ！」

　アデンの母親は第二子を産んだんだけど、生まれつき心臓に問題のある子で、痛みで昼夜泣き叫んでたんだ。アデンの両親はその泣き声にもう耐えられなくなった。そんなとき、ハープ閣下は歌謡の中で勇者に報酬を与える仙女みたいに、突然アデンの家の裏庭に現れた。アデンは昔からの礼儀に従って、そのハープに牛乳をあげて、ハープも彼に報酬をくれた。

　1 つの真っ赤で小さくて精巧なラズベリーで、中に魔鬼の血の 1 滴が入っていて、それだけでハープが遠隔で幼児を眠りに誘導できる。

　ハープはリスみたいな笑顔を浮かべて、地面に降りてきて。

「祝福されたアデン、諸神はあなたの苦難と善良さを見ているので、私はあなたの前に来て、あなたの願いを叶えます。話してください、あなたの二つ目の願いは何ですか？」

　アデンはしゃがみ込み、「

「私、私は騎士になりたい！村に毎回税を徴収に来るパント騎士のように、銀色の鎧を着て、大きな馬に乗って、鞭を振ると、誰も彼を見上げる勇気がない！どんなに威風堂々で、どんなにすごいことだ！」

　ハプは大きな尻尾を抱きしめ、毛布を抱いているようで、舌で毛を整えています。

「私の子供よ、よく考えて。たくさん考えて。それは本当に今あなたが叶えたい願いなのか？あなたの父は毎日何を心配してるのか？あなたの母はなぜため息をつくのか？」

　アデンは急に童話の世界から出てきたみたいで、少しぼーっとして、

「な、なぜって……パント騎士が明日税金を取りに来るんだ。隣のおじさんたちは麦を半分隠そうって言ってるんだけど、お父さんはそれを嫌って、見つかるのが怖くて、彼らと口げんかしたんだけど、どうやら負けちゃったみたいなんだ……」

　ハプは男の子のひざの上に跳び乗り、やさしい声で言いました。私があなたにお話をしましょう。

「昔、新しい服が好きな王様がいたんだ。ある日、裁縫師が王様の服を切っちゃって、お尻がめっちゃ出てしまったんだけど、王様は気づかなかったんだ。威勢よく町を歩き回って、人々は王様の大きなお尻を見てたんだけど、誰も言う勇気がなかったんだ。」

　たった一人の男の子が立ち上がって叫んだ。

「陛下、お尻が出てる！」

　アデンは追って聞いた。

「その後どうなったの？王様はどうやってその男の子を罰したの？」

「王様はめっちゃ怒って、見てたのに本当のこと言わなかった人たちを罰するつもりだったけど、男の子は唯一誠実な人だって思って、何のご褒美が欲しいかって聞いた。男の子は王様に他の人たちを許してほしいってお願いした。王様はすごく喜んで、男の子を騎士の従者にして、将来は騎士と大臣になるだろう。」

　アデンは当惑しながら目をパチパチさせて、

「ハプ閣下、あなたは私に……」

「私は何も求めてないよ。ただあなたがずっと誠実で、善良であることを望んでるだけだよ。あなたのお父さん、お母さん、そして弟のために。」

「私……なんとなく分かった気がするけど、でもあんまり分からない。これと私の願い……」

「帰っておいで、祝福されてるアデン。チャンスは目の前にあるよ。あなたの願いは叶うだろう。」

　茶色の髪の少年は一歩ごとに三度も振り返って、ためらいながら歩いて行きました。ハプは彼の後ろ姿を見て、目にはただ純粋な魂しか映っていなかったんです。こんな魂はめっちゃ珍しくて、木くずが入った黒パンの中に混ざってるチーズケーキみたいです。

　しかし彼は誇り高きバトズであり、深淵にいる頭の悪い悪魔ではない。ただバカな豚みたいに目に入る全ての生きている人間を殺して食べ尽くすだけじゃないんだ。

　魔鬼って、秩序と知恵の代名詞なんだよ。ハプは心から信じてるんだ、この世界は精密なルールに沿って動いてるから、このルールに合ってこそ、彼は一歩一歩階段を上れるんだ。それにハプは芸術的な品位を持ってる魔鬼なんだ。

　翌日の午後、ハプは村で一番高い茅葺き屋根の上に立ってて、家畜と人間の臭いに耐えてるんだけど、一人の騎士が一隊の税務兵を連れて村に押し込んでくるのを見てた。

　すべての村民は小さな広場に立ってて、それぞれの前には今年のライ麦と豆が積んであった。アデン一家もその中にいた。注目すべきなのは、数人の逞しい男性村民が、ぼんやりとアデン一家を挟んでおり、この誠実で臆病な男が、何か怪しいことをして、税務官の注意を引かないようにしていることです。

　ハプは遠くから先頭の騎士を観察していた。彼こそ、少年たちに恐れられ、敬慕されているパントだ。彼は一揃いのきらきらと光る銀メッキの鎧を身にまとっており、凡人には見えない崇善の霊光が彼の体から輝いていた。

　忠誠の神トムを信奉する聖騎士である。

　聖騎士が税を徴収するって、おかしくない。なぜって、領民が領主に対する忠誠を確保することが、このばかげた教会の普段の教義の中心だからさ。

　ハプは皮肉な笑みを浮かべてた。もし昔だったら、こんな低ランクの聖騎士なら、彼の邪悪な睨みひとつで精神崩壊させられただろう。でも今は、自分が彼の銀メッキの鎧に近づくだけでもやけどを負っちゃう。

「大丈夫、大丈夫、私は時間たっぷりあるんだ」と彼は独り言を言っていた。

　パント騎士は愚かじゃないんだ。彼はライ麦の数を一目で見渡したら、何か問題があるってすぐ分かって、怒りは雷みたいに蓄積してた。

　彼は馬に乗り、大声で述べた。

「私の主はこうおっしゃいます。領民は領主に奉仕し、領主は領民を守る。これは永遠に変わることのない真理です。あなたたちが安全で、邪教徒や異形の襲撃を心配せず、鬼婆や悪魔があなたたちの子供や女を盗むことを恐れずに済むのは、すべて真理のおかげなのです」

　彼は剣を抜き、カチンという音がして、数十人の村民の肩がぶるっと震えた。

「今、私はあなた方にチャンスを与えます。最初に脱税のことを自白して出てくる者に対して、私は領主に代わり、その者の一家を赦免いたします。」

　静まり返り、村民たちは頭を下げ、お互いにさらに寄り添った。

　パントは待っており、ハプも待っている。彼はアデンの誠実で臆病な父親を目にした。その父親の背後には、眠っている赤ん坊を抱いている不細工で黒い母親が立っている。しかし、アデンはいない。

　しばらくして、パントは剣を下へ振り下ろして、兵士たちに家屋を捜索するように命じた。村民たちは恐れて叫んでいて、ハーデンの父親は母親をしっかり抱き締めた。

　ハプはため息をついた。その少年は彼をがっかりさせた。

「騎士閣下、パント閣下！」

　鋭い声が隊列の後ろから響いて、男の子が一袋の麦を引きずって、一つの地下室から這い出てきた。

「麦はここに隠されてるんだけど、私たちの家とは関係ない、全然関係ない！」

　みんな立ち止まった。アデンは顔を上げて、たくさんの表情を見た。

　パント騎士は得意げに口をへの字に歪めて、村民たちは怒りで顔が真っ赤

　になって、彼の両親は恐れで顔が歪んでる。ハプはほんのり笑った。

　本当にいい子だね。

　日が暮れそうな時、茶色の髪の少年は足を引きずりながらもう一度穀物の山のところへやってきた。彼の顔には真っ赤な平手の跡があって、半分の顔が腫れていて、体にも何度も蹴られた跡があった。

　彼は泣き声を帯びて言った。

「ハプ閣下、いらっしゃいますか？」

「はい、私はここにいるよ。祝福されてるアデン。」

「ハプ様、違うんです。私が思ってたのと全然違うんです。私は正直な子

　供になったのに、父は私をめっちゃ殴っちゃったんです。こんなに力を入れて殴られたことない！隣の家の子供たちも私と話してくれないし、私に唾を吐くんた。」

　リスの声は依然として優しく、風鈴のように美しかった。

「あの騎士は？」

「彼は私の家の税を免除してくれたんだけど、村の他のみんなは麦と豆を二倍納めなきゃいけないんだ！父は怖がってて、騎士が去ったら、私たちは殴られて殺されるって言ってるんだ。これって本当なの？なんでこうなっちゃうの？私はあなたの言った話の通りにやったのに？あなたは私の願いを叶えに来た精霊じゃないの？」

　ハプはため息をついて、「だから、あんたは私っていう精霊を責めてるの？そうなら、私は行っちゃうよ。これからはあんたの幸運を祈るよ、子供。」

　アデンは飛び上がって、途方に暮れて、「いや！行かないで、行かないで！私はそういう意味じゃない……私、私……私はどうすればいいのか全然分からない！ハプ様、助けてください！」

「アデン、アデン、私はあんたにただの指針を与えるだけで、指揮なんかしないよ。あんた自身でどうすべきか考えてくれ。あの騎士はあんたにどんな態度だった？」

　男の子は心配そうで、腫れた頬を撫でながら、「彼は私に笑って、私の名前を聞いて、そして私を雑用に残したんだ。麦の数えるのが夜までなんだから、私と私の母親に彼らのために肉スープとジャガイモを作らせたんだ。私たちの家族だけにさせたんだ。」

　ハプは冷笑して、「聖騎士は策略を使わないなんて言ったのは誰だ。このハプ一家を孤立させる手段はすごく悪辣だな。」

「それって悪いことじゃないでしょ。あなたは信頼をもらったんだよ。これからは聖騎士にあなたたちをもっと信じてもらって、あなたを城に連れて行って従者にしてもらえば、あなたは安全だよ。近所の人はあなたの両親に手出しできないよ。」

　アデンは困っています。「もっと信じてもらうには……どうすればいいの？」

「考えてみて、昨日の夜、あなたのお母さんはなぜあなたに感謝したの？」

「だって、だって私はあなたがくれた精霊のラズベリーを弟にあげて、弟

　は泣かなくなったんだから……」

　男の子は話してる途中で急に止まって、臆病そうに聞きました。

「ハプ様、精霊のラズベリーって、人をぐっすり眠らせること以外に、人を楽しくさせることもできるの？」

「もちろんだよ。暗い気分の人が食べたら笑顔になるし、厳しい人が食べたら優しくなるよ。それは精霊が林間で踊って、魔力が凝縮してできた果実なんだ。中には幸せと安らぎの力があるんだ。」

「じゃあ……私はもっとラズベリーを手に入れられるの？」

　ハプは首を振って、「子供よ、そんなに簡単じゃないんだ。私みたいな精

　霊でも、こういうラズベリーはたった五つしかないんだ。あなたが私を牛乳でもてなしてくれたから、私はあなたに一つあげたんだよ。」

「私、私はもっとたくさんの牛乳を持ってこれる！」

「足りない、足りない。もっとたくさんの精霊のラズベリーを手に入れたいなら、一つの約束を守る必要があるんだ。」

　男の子はどんどん慎重になって、「どんな約束なんですか。」

　ハプは気にしない感じで言った。

「別に大したことないよ。あなたの魂は私と一緒に来て、私の故郷に帰るんだ。でもそれはあなたが死んだ後のことで、まだずっと先のことだからね。」

「あなたの故郷って、精霊の世界ですか？」

　リスは笑って答えなくて、目つきがどんどん深くなった。

　男の子は頭を下げ、つま先で地面を掻き、長い間黙っていた。

　ハプはそっと言った。「もし騎士がラズベリーを食べて、あなたのことをもっと好きになったら、あなたを連れて帰ってくれるだろう。そしてあなたは従者になれて、その後騎士になれるかもしれない。そしてこれからは苜蓿村村の税収を担当し、もう誰もあなたの家をいじめることはできなくなり、あなたの弟はもっと安全になる……」

　リスの言葉はねばねばした砂糖蜜のようで、男の子の耳元に流れていた。

　アデンは顔を上げ、目つきには違うものが増えていた。それは欲望の色だった。

「私はあなたの言うことに応じます、ハプ様。」

「よし、指切りげんまん！」

　リスは毛深い尻尾を伸ばして、男の子の小指を引っ掛けた。細かい呪文の糸が毛に沿って男の子の手の甲に流れていった。もしよく見たら、それは全部微縮された煉獄の文字だったよ。

　ハプは穀物の山に潜って入り、数口の粘っこい暗い血を吐き出した。血液は蠢いて、ラズベリーの形に固まった。彼はラズベリーをアデンに渡したあと、男の子が去っていくのを見ていた。

　キャンバスはもう揃っていて、線ももう描かれていて、色が自動的に調和するのを待つだけなんだ。

　ハプは跳ねながら谷倉にやって来た。ここはもうすっかり空になってて、騎士が占拠した家の近くに積み上げられて、運び出されるのを待っていた。村民の恨みのほかに、たくさんの卑しい命が文句を言っていた。

　リスの両目は赤い光を放ち、彼の魔力は衰えて人間を直接コントロールするには足りないが、いくつかの低等生物を操ることなら、余裕でできる。

　一匹のネズミが草むらから出てきて、続いて二匹、三匹、四匹……百匹以上のネズミの目の底には細かな赤い光があり、盛大な隊列を形成している。

　ハプは遠くを見て、彼は炊事の煙の匂いを嗅ぎ、今は、ただ待つだけでいい。

　最初の怒号が村の上空に響き渡るや否や、ハプは直ちに鼠の群れを率いて突撃した。

　騎士と税務兵のいる家の近くは大混乱となっており、何人かの兵士は必死に嘔吐していて、他の何人かは地面に寝転んで引っ掻いている。村民たちは遠くに避け、指差して言っているが、近づこうとはしない。

　鼠の群れが突入した際、大きな悲鳴が上がり、税務兵は叫んでいるが、噛み付かれているのはすべて破れた口で、しかし武器を抜いて乱れ撃ちし、一瞬で三四匹を殺してしまった。

　ハプは口をパクパクさせながら、こんな時に彼は逆に悪魔を羨ましく思った。彼らは生まれつき備えている法術で、最も簡単に乱れを引き起こすことができて、頭を使う必要さえない。悪魔はずっと大変な苦労をしている。

　そこで彼はかまどの下に行き、一つの陰燃している薪を抱き上げて、麦の山に投げ入れた。

　火の光が輝き始めた時、村民たちも落ち着いていられなくなった。徴収されたけれども、それは彼らが育てた麦だったので、燃え尽きるのを見ていることはできなかった。

　数人の村民が火消しに突っ込もうとして、ついでに自宅の食糧を何袋か引きずり出して、その後はもうどうにもならなくなった。

　税務兵たちは怒鳴りながら、村民が意図的に火を放って略奪したと思い込み、短刀を振り回して村民に切りかかり、村民は身を守るために、草叉と鋤を手にした。

　最初の血痕が噴き出してから、もう何も止めることができなくなった。

　ハプは村民に腹を刺された一人の兵士に目を付けた。彼は自分の血が、自分の胸と腹の中で自分を呼んでいるのを感じられた。そこで彼は兵士の前に跳び出し、ただ一瞬の視線の交わりで、兵士の体の中の悪魔の血が沸き立ち、彼の胸と腹と首の辺りに暗赤色の瘀血の筋が現れた。

　リスは松の木を掘り起こすみたいに、小さな爪で兵士の腹を引き裂いて、悲鳴の中に潜り込んだんだ。兵士の胸と腹はふくらんで動き回り、四肢は狂ったように痙攣して、しばらくしたら、リスは兵士の口を大きく開けて、顎がガバッと脱臼するまで、そこから出てきたんだ。

　魔鬼の血を回収して、ついでに兵士の魂も飲み込んで、リスの体は一回り大きくなって、銀灰色の毛は暗く赤い色になったんだ。

　悪魔のごっつい食べ方とは違って、魔鬼たちは直接魂を飲み込むのが好きじゃないんだ。こうすると、一時的に力は手に入るけど、すぐになくなっちゃって、ただ腹の欲求をしばらく満たすだけで、本当の力の上限を上げることはできないんだ。

　でも今は、どうでもいいさ。

　ハプは悪魔の血を飲んだ兵士を三人続けて飲み込んで、彼の体はもう猫と同じくらいの大きさになってたよ。そして、この炎と叫び声と奪い合いに包まれためちゃくちゃな中で、誰も彼に気づかなかったんだ。

　突然、遠くの方で「バン」って音がして、火がついた扉が鉄の靴で蹴り破られて、パントは実際に光って血に染まった長剣を持って、顔色が青ざめて出てきたんだ。

　ハプは彼の腹部が血を流してるのを見て、なんと剣で自分の胃に刺して、悪魔の血を体外に引き出してたんだ。

　パント騎士の周囲を見渡す視線がぐるっと回って、青筋がぴくぴく動いて、その後ハプに目が止まった。ハプはちょうど一人の兵士の顔の上に立って、体の血痕をなめてた。

「魔鬼！！！」

　パント騎士は大きな声で叫んだ。長剣は燃えてるみたいで、上に付着してた魔鬼の血が蒸発してなくなった。

　ハプは「残念だ」って心の中で叫んだ。この力を回収できなくなった。彼は突然飛び上がって、振りかざされてくる激しい剣光を避けた。剣光は兵士の死体を空中で真っ二つに切った。

　ハプは振り向いてすぐ逃げちゃった。今はこの鉄の缶と無理に戦うタイミングじゃないんだ、そんなのあんまり格好悪い。

　火勢が広がって、燃えてる茅の草が一軒一軒の家を燃やし始めて、村民たちは泣き叫びながら叩いて、自分の家財を救おうとしてる。黒煙が村を分断して、あちこちから泣き叫び声がして、人々は狂ったみたいに走り回ってる。

　ハプはあちこち探してる。絵の具の調合は大体できて、今は目を描いて仕上げる必要があるんだ。

　彼はすぐにアデンを見つけた。

　男の子は全身真っ黒だったし、服は半分破れてて、少し口を開けて、目がぼんやりしてて、燃えている村を見てた。

　ハプは彼の前に跳んで、彼を目覚めさせた。

「子供、子供、君はまだぼんやりして何をしているの。早く家族を探して、家族を守れ！」

　男の子は三倍大きくなったリスにびっくりして足を滑らせて、彼の血の付いた爪と尖った歯を見る勇気もなくて、家の方へ走った。ハプは慌てずに後ろについてて、そして彼の後ろには怒り狂った聖騎士が追ってた。

　アデンは猛スピードで走っており、何度も転びながらも起き上がり、自分の家に突っ込んできた。彼の家の茅葺きの家はまだ数えるほどの火星しか付いておらず、燃え上がっていなかった。そして、アデンの両親は燃えている麦を救うために出て行っており、赤ん坊の弟だけが残されていた。

　男の子は赤ん坊の包みが無事に家の中に横たわっているのを見て、ほっと一息を吐いた途端、包みを抱き上げて家を出た。火の光で照らしてみると、突然息ができなくなった。

　赤ん坊は全身に暗赤色の淤血が浮き出ており、血の泡は煮え立つスープのように顔で弾け、四肢はすでに血水に溶けて、包みに沿って流れていた。

　悲鳴が響いてきて、アデンの両親はいつの間にか帰ってきて、この一幕を目にして、母親は手を振りほどいて包みを奪い取り、続けてヒステリックな悲鳴を上げた。

　アデンは口を開けて、喉から声が出ないまま、続けて父親からひっぱたかれて吹き飛ばされた。

「お前のせいだ！お前のせいだ！」

　彼はボールのように、父親に連続して蹴り飛ばされ、口の端から血が流れた。

　父親は草の穂を手に取り、アデンの頭に向けて突き刺そうとして、半分で止まり、全身が震えていて、この誠実で真面目な男は、すでに涙で顔を濡らしていた。

「消えろ！ここから離れろ、できるだけ遠くへ、二度と帰ってくるな！」

　アデンはよろめきながら立ち上がって、茫然と数歩歩いて、振り返って父親を見た。

　そして、一筋の剣の光が、父親を腰のところで断ち切った。

　パント騎士は全身に殺気が満ち溢れ、両目は血のように真っ赤だ。

「魔鬼の眷属だ！」

　彼は剣を挙げてアデンに刺そうとしたところ、突然一匹の大きなリスが飛び出してきて、彼の顔をひっかき攻撃し、そして鉄拳の手袋で一撃で吹き飛ばされた。その後、数十匹のネズミが鎧に這い上がり、隙間に入り込んだ。

　聖騎士がネズミに巻き込まれている間に、ハプは足を引きずりながら、木彫りの石像のようなアデンのそばに歩いてきた。

「アデン、君の父親の言うとおり、行こ。」

「行く……どこへ……」男の子の両目は空洞で何もなく、まるで死体のようだった。

　魔鬼が近寄り、男の子の耳元で囁いた。

「行こ、精霊の故郷へ。」

　男の子は足を踏み出し、両目を大きく見開いている父親の死体を通り過ぎ、包みを抱いて泣き叫びて狂っている母親を通り過ぎ、彼が生まれ育った茅葺きの家に入り、ドアを閉めた。

　次の瞬間、燃えている梁が倒れた。

　ハプは深く息を吐き、ちょうど聖騎士と目が合い、後者は腹部の傷口に入り込んだ一匹のネズミを引っ張り出して、生きたまま握り潰していた。

「諸神があなたを裁く、下界の屑、私があなたを裁く、魔鬼！」聖騎士は血を吐きそうに怒鳴った。

　ハプはコロコロと笑い出し、彼の体はここにあっても、魂は既にバトルの九獄と共鳴して響いていた。

　どの凡人も目にすることのできない世界で、無辜で純真な魂が、つい先ほど物質世界から離脱し、死の奔流に押し流されて冥河に入り込み、過去の記憶が洗い流され、生前の悔恨と苦痛だけが残っていた。

　そしてこの魂の塊は骸骨の冥舟を操る倒钩魔によって掬い上げられ、魂に輝く光は、すべての魔鬼を垂涎させた。

　でも、どの魔鬼も魂を横領しようとする勇気はないんだ。なぜなら、魂の上には煉獄の呪文が縈っていて、それはハプの印なんだ。まるでパン屋さんがパンに名前を焼き付けるみたいに、それは彼だけの手柄なんだ。

　魂は九獄に流れ込んで、多元宇宙の邪悪な帰着点に合流する。彼の魂の中の力は搾取されて、魂の本質は再構築されて、最低なミミズとして再生して、時間が経てば、ハプと同じ小魔鬼になるだろう。

　しかし今この時、九獄の力を増やすこの手柄は、多重の位相の隔たりを越えて、ハプの身に伝わってきた。

　契約、成立。

　松鼠の体が急に膨らんで、毛皮が割れて、一対の青黒いコウモリの翼がぱっと広がった。

　聖騎士は怒鳴りながら剣を振り下ろしてきたけど、しなやかで、尾の先に刺のある長い尾に押し戻された。

　ハプは半空中に飛び上がって、彼は小さなフクロウ人みたいで、半人ぐらいの大きさで、翼を大きく広げて、尾は空中で揺れていて、額には後ろに向かって伸びる二本の角が突き出ていた。彼はぱっと通り過ぎて、聖騎士の怒号の中で、彼の片目をぐいっと抉り取った。

　ハプは気楽に眼球を捨てて、燃えている村から飛び出した。彼は振り返ってみると、燃えている火の光を背景に、殺し合いと絶望が明暗を作って、悲鳴と泣き叫びが彩りになっていた。夜空の遥かの方から悪魔を呪う怒号が伝ってきた。

　地獄のような光景

「まあまあかな。」

　自分の完全な形態を取り戻した小魔鬼はそう言って、遠くへ飛んで行った。

「苜蓿村は、とても素晴らしい場所です。」

　作者：北冥 翻訳者：袁さん