第10話
「うお!暗い…てか何か変に巻きつく感覚が!?」
俺はいきなりの事でビックリするが周りがいきなり暗くなり、更に何かが身体中に巻きつく感覚があり困惑して叫び声をあげる。しかし、ある程度その感覚を感じていると不意に頭にある言葉が響いた。
《本物と偽物は表裏一体、たとえ偽物であろうが本物になれる可能性は必ずある。故に諦めるな、それがお前の強さになる》
「はい?…って、うわ!?」
まるで老人が語りかけてくる様な声に不意に反応したが、その声が終わり次第洋服タンスが開き、外に排出される。しかし結構勢いが良かったので俺はそのまま地面に倒れてしまった。
「いた…くない?」
俺はすぐに起き上がるが、何故か倒れた際の痛みを感じない事に違和感を感じる。しかしすぐにモンスターの事を思い出して周りを見ると、丁度洋服タンスが消えてその後ろで半壊の姫騎士みたいな装備を着た女性がメタルリザードに押し倒されていて、今にも食われそうになっている光景が目に入る。
俺はそれを見た瞬間に急いで走り、効くか分からないが気を引くために勢いよくドロップキックをモンスターの背中にお見舞いした。
「何やってんだ、この発じょ…
『ガバス!?』
って、ええ!?」
俺は確かにドロップキックをお見舞いした。しかし本来なら多分鉄板入り軍用ブーツと接触して甲高い金属音が鳴るだけだと思ったのだが…何故かメタルリザードはダンプカーに轢かれた人間みたいに吹っ飛んで壁に激突、そのまま大量に血を周囲に撒き散らしながら光の粒子になり消えたのだ。
「は?…何で??」
流石に理解できない状況に目を白黒させる俺、だって流石に俺でもボーパルラビットならともかくメタルリザードをドロップキックで吹き飛ばす脚力はない。だが奴は見事に吹っ飛んでそのまま壁にトマトを投げつけたみたいに絶命した。そんな摩訶不思議な事を考えていると女性がビックリした顔で起き上がりつつ俺を見る。
「…あの、先程の男性で合ってますよね?」
「…あ、はい。先程の男性で合ってます」
俺は何かを確かめる様な声色で質問してくる彼女に不思議な心境で返事を返す。
「え、なら何で先程タンスに入ったんですか?…しかも、何で着ぐるみパジャマを着ているです?」
「…あ、そっか。まだ俺のスキルを説明してなかったな」
俺は彼女の言葉で今の自分の姿が変わっている事を確認した。だから体を触りつつどう説明したら良いか考える。
まず今の俺の姿は黒布に赤色の螺旋が入った上下一体型のパジャマにパキケファロサウルスとトリケラトプスとティラノサウルスを足した様な骨が俺の全体を包み込んでいる。この骨は柔らかく、一見すると防御力皆無に見えるが…多分違う。
(これ、もしかしてただのパジャマとかじゃなくてパワードスーツみたいな物なのか?だったらさっきのドロップキックの威力も説明がつくんだが…要検証かな?)
今着ている服を見つつそう考えていると、女性の俺を見る目線に気づいたので急いで弁明する事にした。
「…すまん、返事を返していなかった。コイツは俺のスキル『衣服工房』、つまり自動で衣服を作るスキルで作った着ぐるみパジャマだ。スキルが作った衣服はスキル内に保管できる、だから着ていたライダースーツが壊れたから代わりの装備として取り出したらこうなった。スキルの確認不足だ、本当にスマン」
「え、衣服を自動で作るスキル?…そんなスキルがあるんですか?」
「うん、ある。実際にこれ一着しかないけれど作ってスキル内に入れていたからね、でも色々とこれは…」
俺がそう言いかけると同時に今まで聞いた事の無い現象が起きた。何と部屋全体にサイレンの音が響き、部屋の中心に魔法陣が展開。そして魔法陣から何かが5匹出てきたのだ。
「…」
「え…嘘…でしょ?」
サイレンの音が消えるのと同時に魔法陣は消滅、陣があった場所には5匹のメタルリザードがこちらを血走った目で見ていた。
「あちゃー、低確率のエクストラフェーズを引いたか…運がいいのか悪いのか」
俺はモンスターを見つつそう言うとそのまま彼女の前に立ち、構える。
「え、エクストラフェーズですか?」
「そ、このモンスターウェーブの罠は低確率で稀に4回戦目、通称『エクストラフェーズ』と呼ばれている延長戦が発生するんだよ」
俺がそう言うとどんどん5匹のメタルリザードが近づいてくる。だが、不思議と先程までの緊張感はない。『勝てる』、この気持ちだけが俺の心を満たしていて寧ろ高揚感すら感じているからだ。
「アンタはラッキーガールだな。このエクストラフェーズをクリアーすれば追加報酬で『魔武器』かスキルカードを手に入れられる、生きて帰れば最高の報酬が待ってるぜ?」
「ちょっと、魔武器とスキルカードっていいませんでしたか!?」
俺の言葉に背中側からそんな大声が返ってくるが俺振り向かずに構え続ける。
「だから下がってな、丁度いい。この衣服…いや、この装備の検証がてらやるだけやってくる」
俺がそう言うのと同時に5匹の内の1匹が飛び出して、俺に噛みつこうとしてくる。
「ふん!」
『!?』
だが俺はその空いた口上下を片手づつで掴み、動きを止める。その際に口から大量の煙が俺に向かって吐かれる。
「…」
だが、俺の着ぐるみパジャマは一切腐食する気配は無い。寧ろ煙を吐かれた事に心の底から怒りが湧いてくる位だ。
「無駄だ」
俺は掴んだまま力を入れ、普段なら絶対にできない事であるメタルリザードを持ち上げる。もちろん持ち上げられたメタルリザードは想定外の事で暴れるが関係ない。俺はそのまま彼女の方を見ていた2匹のメタルリザードに向かって思いっきり持ち上げたメタルリザードを振り下ろす。
『『ギャバズ!』』
めちゃくちゃ甲高い金属音と共に1匹のメタルリザードと、手に持っていたメタルリザードはお互い同じ凹み跡がついてそのまま光の粒子になり消える。だが、どうやら1匹は瀕死だが生きているみたいで口から血を流し瀕死の状態で俺を睨んでいる。
「…やっぱ、パワードスーツの分類かもな。この着ぐるみパジャマ」
俺はそう小さく呟きつつも、瀕死の1匹の尻尾を掴む。そしてそのまま残りの2匹に向かって瀕死のメタルリザードを引きずりながら走り出した。
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