第14話 封印されし魔力

 そこは薄暗い木々が生い茂り、昼間でも足元が見えづらいほどだった。


 「この辺りは人の気配がないな。魔物が出るかもしれない。気をつけろよ。」

 「わかってます。」


 ノアがそう言った矢先、遠くから悲鳴が聞こえてきた。俺とノアは顔を見合わせ頷いた。そして同時に声の方へと走り出した。そこには蜘蛛ような形をした魔物の群れに襲われている2人の人間がいた。


 「ラキ、動きを止めろ!」

 「わかりました! 土の精霊エンディニアよ、硬き意思と鼓動を命を育む柔き土となれ! テラスフィールド!」

 

 俺は即座にテラスフィールドで地面を粘土状にし魔物の動きを止めた。ノアも土属性魔法で槍を作り出し、次々と魔物の胴体を貫いた。俺とノアの連携で蜘蛛型の魔物は全滅した。


 離れた先に避難していた二人は「助けていただきありがとうございます!」と言いながら俺たちに駆け寄ってきた。


 「ありがとうございます! なんてお礼を言ったらいいか……本当にありがとうございます。」

 

 1人は俺の手を取りぶんぶんと上下に振っている。もう1人は地面に膝を着いてノアに深く頭を下げている。それはもう頭が地面に埋まるぐらいに深々と。


 なんだろう。

 リアクションが大袈裟だ。

 命を救ってもらったら感謝くらいするだろうけど……

 オーバーリアクションというか、なんというか。


 1人は涙を浮かべていた。さらに「お礼がしたいので、ぜひ村まで来てください。」と言う。しかし、その表情は困っているような、救いを求めるような、真剣な表情だった。


 「ぜひぜひお越しください。いや、お願いします。来てください!」

 

 そう言ってノアにしがみついている。どうやら訳ありのようだ。俺たちは特に行く宛てもなかったのでその誘いに応じることにした。

 

 案内された村は小さく、質素な生活をしているようだった。俺が「なんだか静かですね」と言うと、案内してくれた村人が苦い顔をした。


 「それが……この村では魔法を使うことができないんです。」

 「魔法が使えない?」

 ノアが聞き返す。


 魔法って誰でも使えるものじゃないのか?

 魔力がないとか、そういう理由か?


 村人に案内され、村長の家へと着いた。

 

 「実は……魔物のせいで村全体が魔力を封印されてしまっているんです。」

 村長らしき初老の男性が話し始めた。

 

 「魔力が封印されてる?」

 「魔力封印……そんなことが出来る魔物は多くない。上級の魔物か。」

 ノアが腕を組みながら眉をひそめた。


 俺はまだ上級の魔物に出会ったことはなかった。魔物図鑑にもあまり詳しく書かれていなかった。


 魔力を封印する魔物だ、中級の魔物と違って厄介そうだ。それに、中級といっても強い。上級の強さはどれくらいなのかもわからない。


 村長は事のあらましを話し始めた。

 

 「数年前でした……いきなり蜘蛛型の魔物がやってきて、魔力を封印してしまったんです。私たちは魔法が使えないながらも、村人と協力して魔物退治を何度も試みました。しかし、返り討ちに遭うばかりで……。」

 「犠牲者も出ました。そこからは仕方なく、俺たちは魔法に頼らない生活をしてきました。」

 

 村長と村人は一通り話すと黙り込んでしまった。何か覚悟を決めたかのようにバッと頭を下げてきた。


 もしかして倒してほしいとか、そう言ってくるんじゃ……


 「お願いです、あの魔物を退治してください! 謝礼はお支払いしますので!」

 「お願いします。近頃は低級の蜘蛛の魔物が村をうろついてきてます。子供たちも怖がっているんです。どうか……どうか。」

 「この通りです。」


 やっぱり倒してくれときた。

 ノアは俺の方を見て「どうする?」と尋ねた。

 みんな怯えてる。魔法も使えないのに上級魔物を倒すなんて無茶だ。

 返事は決まっていた。俺は「引き受けましょう」と答えた。

 村人と村長は「ありがとうございます。ありがとうございます。」と何度も頭を下げた。それはもう地面に……以下略。


 「そういえばお名前をお聞きしていませんでした。私としたことが村人の命の恩人に……。」

 「私はノア、こっちはラキだ。」

 「ラキです。パーティ名はルクシオンです。」

 「ルクシオン?」

 「光の道を往く者っていう意味です。」

 「それはそれは……貴女方にピッタリですね!」

 「命の恩人ですものね!」

 「村の光だ! 救世主様だ!」


 村人たちは何故か俺たちを崇めるようになってしまった。 少しだけ、ほんの少しだけ、この村に関わったことを後悔した。


 変わった村だな……


 俺とノアは村に泊まることにした。

 「上級の魔物って、どんなやつですかね?」と俺はノアに尋ねてみた。

 

 「上級の魔物はな……中級とは比べものにならないほどの知性と力を持っている。戦いの経験が豊富で、こっちの動きを見抜くこともある。特に魔力を封印するタイプは、狡猾さも持ち合わせていることが多い。」

 「つまり、ただの力押しでは勝てないってことですか?」

 「そういうことだ。戦いながら相手を分析して、隙を突くしかない。」

 「とにかく、無理はするなよ。」

 「了解です。」


 俺たちは明日の作戦を考えながら眠りについた。上級魔物との戦いがどんなものになるのか、少しだけ不安を感じながらも、覚悟を固めた。

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