彩り旅行

朱田空央

#1「かつて色のあった世界で」

 この世界にある色は実にシンプルだ。光と影、すなわち白と黒の二色だけ。私は生まれてこの方、これ以外の色を知らない。

「…………」

 退廃的……と、まあ、そう言う他ないよね。絵を描いても描いても、つまらない絵が量産される。

「リンダ? ちょっとお買い物に行ってきてくれる? はいこれメモ」

「……はーい」

 お母さんにそう言われ、気怠げに返した。休日は、決まって買い物に行く。


 私の生まれ故郷。フィオナの街。空の色すら、白と黒。建物も、植物も、動物も、何もかも。


 ――メモに書かれた食材を買って、私は帰ってきた。

「昔はもっと色んな色があったのよ?」

「……みたいだね」

 白と黒だけの世界になったのは30年前の話。はた迷惑な魔物が、全世界の色を奪っていった。最初こそ、不満の声が上がったらしい。けれどそれ以外の不便がないので、そのうち、人々は生活に順応していった。

 もちろん、私の他に色を求めて旅立った人はいて、でもその人たちは帰ってきていない。新天地を見つけたのか、未だに旅を続けているのかも分からない。

「……他の色も見てみたいなー……」

「……リンダ。やっぱり、外の世界に行きたい?」


 いつになく真剣な声色のお母さん。


「途方もない旅になるわよ……?」

「わかってるよ、お母さん。今じゃない。あと三年……十五歳の成人の日に、外の世界に出たい」


 それまでに、私は出来ることをしよう。今はまだEランクの雑用クエストしかできないけど、成人したら、遠出をする高ランクのクエストを受注できるようになる。その時に、私は外の世界を旅するんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る