クリスマスイブの夜、主人公は一人でチェーン店に入りチーズ牛丼を食べる。それだけの話のはずが、読み進めるうちに「友」の話が静かに挟まってきて、最後にそれまで「現代のクリスマスの雑踏」だと思っていた描写が、実は黒い降下物が降り注ぐ戦時下の光景だったと分かるこの「時代の種明かし」が鮮やかだ。
防爆帽、防護服、放爆性降下物、大本営、対噴進巨弾。最後のラジオの台詞で一気に世界の輪郭が変わる。遡って読み直すと、最初から「防護服」という言葉があったのに気づく。
「友」は引きこもりから過激な思想に傾き、やがて大きな力に絡め取られた人物として描かれる。「大衆のあいまいな意思は空を黒く染め上げた」というタイトルが、そのまま作品のテーマだ。怒りでも悲しみでもなく、主人公はただ毎年ここを訪れてチーズ牛丼を食べる。
ラジオ・K氏のフィクションの中で最も文学的な一作で、「つめたいちょっとした思い出」とは対になるような読み心地がある。