第8話 出た?

 翌日。

 天真が洗濯場に向かうと、少し慌てた様子で铃が駆け寄ってきた。


「天真! 出た! 出た!」


「出たって……もしかしてオバケが?」


「そう! 昨日の夜、かわやに行こうとしたらピカッて光って! ざざざって襲いかかってきたのよ!」


「襲いかかってって……大丈夫なの? どこかケガでも?」


「いやケガはないわ。ちょっと尻餅付いたくらいで」


「それならいいけど……」


 その時のことを思い出したのか、少し笑顔が引きつっている铃だった。


「…………」


 女装こんな格好をしているが、天真だって男の子だ。仲良くしている女の子が怖い目に遭ったというのなら、何とかしてあげたいと思う。


「铃。そのオバケについて詳しく教えてくれないかな?」





 铃の説明はやはり「ピカーッ!」やら「ざざざっ!」ばかりなので正直よく分からなかった。


 自分の説明が伝わっていないことを察したのか、「じゃあ、実際に見てもらいましょう!」と铃は提案してきた。


「え? 大丈夫なの?」


 後宮とは皇帝からの寵愛を競い合う場であり、妃と妃たちは相争い、時には殺人事件にまで発展するという。


 当然ながら異なる宮の侍女と侍女も競い合っているものであり――と、そこまで考えた天真は気がついた。自分と铃は普通に友人関係を築いているじゃないかと。


(あ、なるほど)


 そもそも仙人である沙羅は超越者であり、皇帝からの寵愛競争の外にある存在だ。妃としても競い合う必要はないし、むしろ敵意を剥き出しにしては不思議な『術』による恩恵を受けられなくなる。沙羅の侍女と仲良くするのはむしろ歓迎されるのだろう。


 しかし別の妃の宮を訪れるとなると話は別だ。


「え~っと、私が宮に行っても大丈夫なの?」


「大丈夫だと思うよ? むしろ蘭様も歓迎してくれると思う。沙羅様のお話が聞けるだろうし」


「……う~ん」


 铃のお仕えする『蘭様』は沙羅を尊敬というか崇拝しているらしいが……実物の残念さを知っている天真からすれば「お話をして大丈夫かな?」と思ってしまうのだった。


 しかしここまで話が進んで「やっぱりダメ」とは言いにくいので、結局は宮に向かうことにした天真だった。




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後宮のエルフさん ~残念美人と女装侍女の事件簿~ 九條葉月@書籍発売中! @kujouhaduki

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