第7話 オバケ?


 铃の洗濯の手伝いをしつつ、雑談に花を咲かせる。


「铃はずいぶんと師匠のことを崇拝しているけど、なにかやらかされた――じゃなくて、なにかあったの?」


「私みたいな侍女じゃ近づくこともできないわよ。でも、蘭様は何かとお世話になっているんだって。よくお話をしてくださるわ」


「蘭様っていうと……铃がお仕えしているというお妃様?」


「うんそう。なんと後宮二年目にして『充媛』様なのよ!」


「充媛……?」


「んも~」


 分かってなさそうな天真に肩をすくめつつ、铃がそらんじながら教えてくれる。


「後宮には色んな女官がいるけど、ちゃんと階級で偉さが決まっているの。一番偉い正妃様は内廷で皇帝陛下と暮らしているから、後宮にはいないの」


「うんうん」


 その『一番偉い正妃様』は私の母なんだ~。とは、口にしない天真である。


「で、後宮にいる中で一番偉いのが四夫人である藍妃、翠妃、紅妃、白妃。二番目に偉いのが九嬪で、九人。その次が二十七世婦で、二十七人ね」


「……うわぁ」


 それが全部皇帝の『お手つき』になる可能性があるんでしょ? いすぎでは? というのが天真の正直な感想だった。


 それと同時に、これだけの情報を暗記している铃に対して素直に感心する天真。同い年くらいのはずなのに凄いなぁ、と。


「…………」


 あの事件・・・・がなければ、皇太子であった天真と、侍女でしかない铃が直接声を交わすことはなかった。でも今では友人としてこうして雑談に興じることができていて……。嬉しいような、それでもまだ怒りはくすぶっているような。そんな微妙な心境になる天真だった。


「そういえば」


 何かを思い出したような声を上げる铃。


「最近、うちの宮にオバケが出るみたいなのよ」


「オバケ?」


「うん。私は見たことはないんだけど……見上げるような大男がいたとか。光る犬がいたとか」


「それは……オバケなの?」


 見上げるような大男と言うが、女性からすれば男性はだいたい見上げる格好になるし、後宮にも『宦官』という男性器を切断した男性が勤務しているのだ。


 宦官であれば仕事で妃の宮にいたとしても不思議ではない。……いや、オバケと間違われるような時間にいるのは不自然なので、それはそれで別の、犯罪系の怖い話になりそうなのだが。


 そして、光る犬? 犬は普通光らないだろう。もし光っていたらそれはもう妖魔の類いだ。


(……いや、師匠ならあるいは)


 あの不思議な魔術を使うサラなら普通の犬を光らせることもできるかもしれない。まぁ、光らせて何の意味があるのかという話なのだが……サラなら意味のないことをやらかしそうだと思う天真だった。



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