魔法少女エスフィリア
霧羽エル
第1話 影の領主
ビル群の影に金属音がこだまする。
キィィン。
激しい剣戟の中、二人の少女と黒いスーツ姿の男が争っていた。
二人の少女の片割れ、黒髪の少女の剣がスーツ姿の男のこめかみを掠める。男は避けるのに精一杯。少女たちの方が押しているのはどう見ても明らかだ。男は逃げようとするが、もう一人の蒼髪の少女が作り出した蒼い炎に阻まれる。
「さぁ、もうそろそろ終わりにしましょう?」
蒼髪の少女が、炎の柱で追い詰める。まるで獲物を狩猟するかのような、残酷で鮮やかで合理的で無慈悲な動き。
…蒼い炎が迫る。
黒いスーツの男は周りを見やった、起死回生の一手、希望を求めて。
「…………!
エスフィリア、お前らは強い。だが、同時に弱くもある!」
見つけたのだ、起死回生の一手を。視線の先はビルの影。怯えながら佇む、桃髪の少女。
「咲季!」
蒼髪の少女は咲季という名の桃髪の少女の元へ駆け寄る。が、黒いスーツの男の方が早い。
黒いスーツの男の手が咲季に手を伸ばす…
だが、その手が咲季に届くことはなかった。
「どこまでも弱いのね。」
黒髪の少女の刃が黒いスーツの男を遮る。
彼女の綺麗な髪が風に揺れる。優しい椿の香りが広がる…。
「き、綺麗な人…
あ、ありがとうございます。」
恍惚とした表情で黒髪の少女を見つめる咲季。彼女の心は初めて感じる憧れと、感謝の気持ちでいっぱいだった。思わず頬が赤くなる。
その隙にも黒いスーツ男が反撃しようとするが。
「はぁぁあ!」
気迫とともに放たれる蹴りで黒いスーツ姿の男をよろめかせる。
正義の使者たるエスフィリアは、弱者を盾にしようとするほど弱い者に負けるはずがないのだ。
その様子を見て、安心そうな顔をした女が一人。「ふぅ」と蒼髪の少女がため息を漏らす。
「咲季はここから逃げなさい。」
咲季とは対照的に、冷静に蒼髪の少女は言う。
「う、うん。」
自分を守ってくれた黒髪の少女に礼を言って、かっこいい人だったなぁと思いながら、足早にビルの隙間に消えていった。
咲季が立ち去ったのを横目で見届けて、黒髪の少女は男に刃を向ける。
「今度こそ終わりよ。
あなたのせいで人生が歪んでいった人に対して、侘びながら死ぬのことね。」
蒼髪の少女の蒼い炎の壁と共に追い詰める。逃げ場はない。
「やめろ、助けてくれ!もう弱者を虐めるようなことはしないから!
頼む…!!」
土下座して嘆願するが、このような言葉は聞く価値もない。
「強き者が弱き者を挫く。あなたもやってきたでしょう?」
無慈悲に刃を振り下ろす。
今度こそ終わりのはずだった。
負けるはずがなかった。
奴が来るまでは。
目を瞑りたくなるほどの一陣の黒い風。
「ごきげんよう。
少しは楽しい戦いをしてくれるみたいだな。」
ビルの一つと同じ大きさを持つ、巨大な影。
見上げれば黒いスーツの男が影に掴まれていた。
「影の…領主様!!助けていただきありがとうございます!なんて慈悲深いお方だ!この私でよければ喜んであなた様の下僕になります!!」
そう言う黒いスーツ姿の男は顔は恐怖でこわばっている。
「影の領主…」
黒髪の少女、黒輝道礼(くろき みれい)にとっては両親の仇である。圧倒的な力で両親を屠った時のことは鮮明に記憶している。
思わず手が汗ばんだ。
「やるか?
さぞ私が憎いのだろう?」
「そうね。」
無関心そうにつぶやいて影の領主に向かって駆ける。だが内心はわずかに揺らいでいた。
「レイ!」
蒼髪の少女、蒼伊優利(あおい ゆうり)も続く。この少女も道礼と共に、この時が来るのを覚悟していた。緊張と高揚でより蒼く燃え盛っているトーチから、炎を道礼の刀に"分ける"。
彼女たちの心には、ほんの少しだけ、絶望や怒りが渦巻いていた。しかし、その感情はすぐに強くて大きい決意に変わり、道礼は覚悟を込めた斬撃を放つ。
巨大な影にぶつけるは、二人の合体技、群青爆閃(コバルト・エクスプロード)。爆風で威力を増した斬撃はエスフィリアの最高火力である。
蒼き爆発と黒い斬光。影の領主に大きくダメージを与えている実感があった。斬るたびに影の領主が裂かれていくのを感じる。
「その程度か。」
切り裂いたはずの影は再び集まり、大きな影を再び構築する。
この無限たる生命が影の領主の力であり、多くの手下…"影の廷臣"たちを従える理由であった。
「では、こちらの番のいこう。」
影の領主は自らの影から蝙蝠を作り出す。道礼と優利はたちまち影の蝙蝠に飲まれる。
「くっ。」
見渡す限りの闇。
…それでも。
「はあぁああ!」
闇から蒼い炎が昇る。
「エスフィリアは、負けない。」
…だが。
「その言葉は聞き飽きた、
簡単に負けてくれないのであれば仕方ないな」
影の領主が手を一振りする。
その一瞬で無数の影の刃が生成される。
次の一瞬でエスフィリアに数多の影の刃が襲いかかる!
「くっ。」
舞い上がる黒煙。エスフィリアでもこれは厳しいか。
…煙が晴れる。
そこには道礼と優利が、なんとか立っていた。
エスフィリアは負けるわけにはいかない、と。
「ユウリ。」
「…うん。行ける。」
二人は動き始める。
道礼は後ろへ、優利は前へ。
「え。」
道礼が引く判断をしたのは想定外だったようだ。驚いた顔の優利だったが、道礼を信じて、後ろに走る。
影の攻撃が何度も迫ったが、いずれもたいした打撃を与えることはできなかった。
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