俺にやたら懐いている可愛い後輩ちゃんが、雪を言い訳に俺の部屋に泊めてとやってきて、俺の理性を崩壊させてくるのだが。

空豆 空(そらまめくう)

第1話 雪で帰れなくなった可愛い後輩が俺の部屋にやって来た。

「マジか……どうしよっかなー」


 俺――安藤あんどうぜんは窓の外に降りしきる雪を眺めながら途方に暮れていた。


 今日は大雪。交通網もマヒしていることから、バイト先が急遽休みになったのだが、バイト先のまかないをアテにしていた俺の部屋の食料はすっかり底をついているのだ。


「うーん、仕方ない。面倒だけど……コンビニでも行くかぁ」


 そう思った時。ポケットの中のスマホが鳴った。着信元は俺の大学の後輩、夏木なつき駒瑠こまる


「はい。もしもし、どしたー?」


『せんぱーい。雪で電車停まって帰れなくなっちゃいましたぁ。今から先輩のおうち行ってもいいですか?』


「え? ……まぁ、いいけど……」


『じゃあ、お買い物したら向かいますね。そろそろ先輩のおうちの食材も尽きてる頃でしょ? 可愛い後輩、駒瑠ちゃんが、何か美味しいもの作ってあげます♡』


 相変わらず、こいつは自分の事をためらう事なく可愛いと言うのだが、実際誰がどう見ても駒瑠は可愛い。


 小動物のように小柄な体系と大きな瞳、それでいてフレンドリーで話し安い雰囲気。そして、俺にとっては目のやり場に困る、小柄な体型にはやや不釣り合いに育った胸元が、下心のある男をさらに引きつけ、駒瑠は困るほどモテる。


 なのにどうした事か、駒瑠は俺だけに明らかな好意を寄せてくるのだ。俺よりいい男なんていくらでもいるだろうのに、こいつの考えている事はよく分からない。


 いつも何かにつけて俺の部屋に来ては、泊って行く。今回だって……雪で帰れないんじゃ仕方ない。来るのは構わないが……また泊まって行くのだろうか。


 ……先日駒瑠が泊まりに来た時、つい、それなりのことをしてしまったところなのに。けれど駒瑠の相手が俺だなんてと気が引けて、付き合うまでには至っていない。


 駒瑠と俺は、そんな曖昧な関係。


「ん、来るのはいいけど。どこかまで迎えに行こうか?」


『あ、いえ、大丈夫です。パパパーッと買って向かいますから。先輩は温かい部屋でぬくぬくしながら待っててください』


「……ぬくぬくて。じゃあ、待ってるから、気を付けて来いよ」



 ――そうして小一時間が過ぎた頃、ピンポーンと駒瑠がやってきた。俺は玄関を開けて出迎えたのだが。


「せんぱいいいいいい。雪ひどすぎて雪まみれになっちゃいました。シャワー貸してくださいいいいいいい」


 そこには両手に買い物袋を提げた全身雪まみれの駒瑠の姿。


「うっわ。おまえ雪まみれじゃん。顔とか手とか真っ赤になってるし。風呂溜めようか!?」


「いえ、大丈夫です。そこまでゆっくりしちゃったら夜ご飯遅くなっちゃう。先輩お腹すいてるでしょ?」


「それはそうだけど、でも……」


 俺の心配をよそに、駒瑠はその場でコートを脱ぎ始めた。

 育ち過ぎた胸元が、嫌でも自己主張しているように感じてしまう。


「じゃあ、お風呂場お借りするので、先輩の服着替えも貸してください。……先輩は、彼シャツ姿の駒瑠ちゃんと、トレーナー姿の駒瑠、どっちが見たいですか!?」


 駒瑠はイタズラっ子みたいな瞳を輝かせながら聞いてくる。


「ああ、もう、どっちでもいいから、はよ入ってこい。風邪ひくだろ?」


「はぁあああい」


 駒瑠はいつもの如く俺のクローゼットから着替えを抜き取ると、風呂場の中へと消えていってしまった。



「ふー。あったまってきましたぁー」


 しばらくするとシャワーを終えた駒瑠が俺の元へと戻ってきた。服は俺のトレーナーの上だけを着ている。


「……それはよかったけど、お前……なんで下、履いてないんだよ」


「えー? こっちの方が先輩がまた手を出してくれるかなって思って」


 駒瑠は平然とした顔でそんな事を言う。


「……お前くらいだぞ? 俺に手を出されたがる子。駒瑠は可愛いんだし、俺よりいい男いるだろうのに……」


「……お言葉ですけど、先輩くらいですよ? こーんな可愛い後輩に迫られてるのに、自分からは手を出そうとして来ない人。こないだだって、お酒飲ませてやっと手を出してくれた―って感じだったのに、その後また『世界一安全マン』になっちゃうんだもんなー。安全過ぎて嫌になっちゃう」


 駒瑠はジト目をしながら唇を尖らせた。


「へいへい、どうせ俺は意気地なしですよー?」


「まぁ、だから好きになっちゃったんですけどねー? 飲み会で隣の席になった時、私をいやらしい目で見て来なかった人、先輩が初めてだったから……」


「……え、そんな理由だったの? お前が俺の事を好きになったのって」


 そう。駒瑠が最初に俺に懐いて来たのは、大学のサークルの新入生歓迎会で隣の席になったのがきっかけだったのだが。なぜ懐かれたのか、俺にはさっぱり分からなかったのだ。まさかそんな理由だったとは。


「もちろんそれだけじゃないですよ? でも、きっかけはそれでした。で! そんな世界一安全マンさんに手を出してもらうべく、今、可愛い駒瑠ちゃんは、こんな格好をしているわけですが」


 駒瑠は何かねだるように上目遣いで俺を見つめてきた。


「……なに」


 いくら風呂上りの可愛い後輩が目の前にいるからって、突然手を出せるほどの力量は俺にはないぞとたじろんだ時。


「……ちょっと久しぶりに会えて嬉しいから、抱きつかせてください」

 

 駒瑠はそっと甘えるように、俺の身体に抱きついた。

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