第27話 シトラは不器用

「そうだな……不器用、だな。」


「不器用……ですか?」


「あぁ。自分の感情にも気づかない。気づいてもどうしたら良いか分からない。そしてその悩みを一切見せない。零か百かでしか考えていない。魔法の扱いは上手いのに、人間関係になった途端に崩れる……。そこがシトラの良いところだとも思うのだがな。」


「……なるほど。確かに、シトラはそんな感じかも……。」


レリアは過去の様々なシトラの行動を思い浮かべ、確かにそれらの原因はシトラが不器用であるからかもしれない、と思った。


「シトラのことだ。持ち前の不器用さを活かしてレリアちゃんとの関わり方を間違えて、それで不安になったレリアちゃんが私のところに来た……仲違いと言っていたのはそれじゃないか?」


「な、なんでわかったんですか!?」


「さぁ。ただの勘だ。しかし当たっているとは……なんというか、シトラは誰が相手でも変わらないんだな。」


理事長はシトラの方を見つめ、シトラは居心地が悪そうに顔を逸らす。


「……今はもう関係も戻ったから。」


シトラは理事長の方を向かずにそう冷たく返す。


「やはり既に仲直りはしていたんだな。私が仲介役にならなければと意気込んでいたのだが……そうか、それなら良い。しかし、少し気になるな。詳しく聞かせて貰えるか?」


「はい!大丈夫です!えっと、最初はシトラの振る舞い方とかが何だか嫌で、それで言い争いになって……むぐっ!?」


「話さなくて良いから!」


そっぽを向いていたシトラは、レリアが事の顛末について説明しようとすると慌ててレリアの口を塞いで静止する。


「ちょっとお互いに上手く噛み合ってなかっただけ!もう話し合って解決した!これで終わり!!……はぁ。」


無理矢理そう言って話を終わらせると、シトラは腕を組んでまた顔を逸らした。


「シトラ……そんなに話されるの嫌だった?」


「ふむ……これはまた後でレリアちゃんと一対一で話をするしかないようだな。……しかし、仲直りをしたのならここに来たのは無駄足だったんじゃないか?」


「あ〜……確かに、最初の目的は理事長さんに話を聞いてもらうことだったんですけど、もう解決しちゃいましたからね……。でも、王都に来てからのシトラの事は知らなかったので、話を聞けて良かったです!」


「そうか。少しでも役に立てたのなら良いのだが。でも、そうだな……せっかくだ、少しアドバイスでもしようか。」


「アドバイス?」


「あぁ。別になんてことないものだがな。」


理事長はそう言うと、軽く咳払いをして、真剣な目つきでレリアに話し始める。


「色々と言ったが……レリアちゃん。変に自分を取り繕おうとするのはよした方が良い。特に、自分の心については。無理してシトラの事を好きになろうとしたり、シトラの好きそうな人間になろうとしたりだとかは考えるな。そんなことをしなくても、君達なら絶対上手くやれるからな。」


「そして、シトラも同じくな。勿論、お互いの嫌なところは生まれるだろうし、それを何とかしようとするのは構わない。だが、過剰に変えようとしては絶対に失敗する。理想は、お互いにお互いのことを許し合う関係だ。君達ならそれが出来ると信じている。……なんて、この歳になっても未だ婚約の一つすらしていない私が言っても説得力は無いかもしれないがな。」


理事長にそう言われ、レリアは自分のことを振り返る。


実際、自分のシトラを想う気持ちが、シトラの自分に対する気持ちに釣り合ってないんじゃないかと思っていた。


そして、それを釣り合うものに変えようと、自分を取り繕おうとしていた。


「……確かに、シトラの理想になろうと自分を変えようとしてたかもしれないです。そっか、ありのままで良いんですね。」


「あぁ。そういうことだ。未だに顔をこちらに向けていないが、シトラも重々分かっているだろう。……さて、私から話せるのはこれぐらいだ。他に何かあるかい?」


「……いえ!大丈夫です!理事長さん!今日はありがとうございました!」


レリアは深く礼をする。


「こちらこそ、シトラをありがとう。今日はシトラと一緒に帰るのか?」


「いや、えっと……シトラも理事長さんに用があるって言ってたよね?」


「……そうだったけど、もう解決した。一緒に帰っても良いよ。」


「一緒に帰りたい、の間違いなんじゃないのか?」


「……レリア、さっさと帰るよ。」


理事長にからかわれ、シトラは不満げに立ち上がって無理矢理レリアの手を引っ張る。


「わっ、えっと、理事長さん!改めてありがとうございました!また話を……ちょっとシトラ!力強いよ!」


「ははっ、仲も良さそうで安心だ。レリアちゃんの為ならスケジュールもある程度調整しよう。それじゃ、元気でやるんだぞ。」


「ありがとうございます!理事長さん!それじゃあ失礼します!」


シトラに手を無理矢理引かれながらも、レリアは理事長にお礼を伝えて部屋から出る。


レリアとシトラは学園の注目を集めながら歩き、そのまま学園の外へと歩いて行った。



レリアは家に帰る道中、少し悪い笑みを浮かべながらシトラを揶揄う。


「……ふふっ、シトラは不器用だって。」


「……うるさい。レリアだって寝言でずっと私の名前呼んでるくせに。」


「えっ!?私そんな事言ってるの!?」


レリアは驚いてシトラに詰め寄る。


「やっぱり自覚ないんだ。レリアこそ、私のこと好きすぎ。」


「うぐっ……そうだよ!シトラのこと大好き!!シトラはどうなのさ!」


「それは……好き……だけど。」


「でしょ!お互いに相手のことが大好き!これで終わり!!」


「……ふふっ、そうだね。私はレリアのことが好き。レリアも私のことが好き。」


シトラは微笑みながらそう言う。


「……ねぇ、レリア。」


「うん?どうしたの?」


「……大好き。」


「……えへへ、私も。シトラのこと大好き。」


レリアはそう言って、シトラの腕に体を預ける。


シトラはそれを受け止めて、二人は仲良く話しながら帰った。

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刀剣と幼馴染〜王都に行った幼馴染と再開する為に刀剣術を極めたらいつの間にかめちゃくちゃ強くなってました〜 ダクテュロス @moyashirasu

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