第21話 嫌いになんかなれない

二人はチョコレート屋である程度買い物をし、シトラやメイド達へのお土産を携えて店を出た。


「チョコレートってあんな高いものがあったんですね……クレアさんはああいう店に良く行くんですか?」


「いえ、存在は知っていましたが、実際に行ったのは今回が初めてです。何個か試食させて頂きましたが……本当に値段に合う良い味でしたね。」


「そうですね。……これならシトラも喜んでくれるかな……。」


レリアは、その店の中でも最高クラスに高いチョコレートをシトラへのお土産に買っていた。


「きっと喜んでくれると思いますよ。……しかし、思ったより長居してしまったみたいですね。もう日が沈みそうです。」


「ほんとですね……。レリアさん、帰りは大丈夫ですか?」


「道は覚えたので大丈夫です。それにこの辺だと危ない人も居ませんからね。」


この辺りはかなり高級そうな雰囲気がしており、確かに悪事を働く者は居なさそうであった。


レリアは少し心配しながらも、クレアなら大丈夫だろうと結論づけた。


二人は完全に日が沈み切る前に帰ろうと、足取りを早くする。


二人がレリアの家に着くと、ロティアが家の門の前に立っていた。


「あっ!レリアさん!!おかえりなさい!!……えっと、そっちの人は……」


「ただいま!ロティアちゃん!!こっちの人はクレアさんっていう人で、私の友達!」


「はい。クレアって言います。メイドさんですかね?よろしくお願いします。」


クレアはしゃがんで、ロティアと同じ目線で話す。


「は、はい!レリアさんの専属メイドをしてます!!よろしくお願いします!!」


「専属メイドですか!頑張ってくださいね。」


少しクレアとロティアは戯れ、レリアは微笑ましくその様子を見つめる。


「……さて、ではこの辺で私は失礼しますね。明日、理事長に話もしてみます。レリアさん、シトラさんの事、頑張ってください!」


「はい!ありがとうございます!!」


クレアは最後にロティアにバイバイ、と手を振って、帰って行った。


レリアとロティアはクレアの姿が見えなくなるまで手を振って、その後家の中に入った。


「えっと……多分、ご飯はまだだよね?」


「はい。もう少し後です。」


「それじゃあ……自分の部屋に戻ろうかな。」


「か、かしこまりました!案内します!」


ロティアはレリアを部屋まで案内して、ご飯の時間になったらお呼びします、と言って立ち去って行った。


レリアが部屋に入ると、シトラはまだ布団にくるまったままだった。


「シトラ、ただいま。お土産あるんだ。ここに置いとくね。」


シトラは何も言わず、布団の中で身動ぎする音だけがした。


レリアはそっとシトラのくるまる布団のそばに座る。


「……シトラ、私ね、シトラのことが好きなの。シトラの優しいところ、かっこ良いところ、暖かいところ、私を心配してくれるところも好きなの。……シトラにも、私が好きなシトラを好きになって欲しい。」


「シトラに魔法以外何も無いなんて嘘。シトラはいつも私のことを心配してくれて、いつも甲斐甲斐しく世話を焼いてくれる。……たまにそれが嫌なときもあるけど、間違いなくシトラの良いところ。」


「……今日は、ごめんね。シトラのことちゃんと考えられてなかった。シトラに束縛されるのは嫌だけど、シトラと離れるのはもっと嫌。だから、シトラ。私、話がしたいの。……その、私達は婚約者……なんだから。」


「……話すことなんて、ない。」


どこか涙ぐんだ様な声でシトラは声を出す。


「あるよ。……シトラは、自分の良いところを分かってない。私より、シトラの方が凄いよ。私は昔から何をしてもダメで、全部シトラがそれを何とかしてくれた。……ほら、昔私が森で迷子になった時もシトラが助けてくれたでしょ?」


「……そんなの昔の話。今の私は何も残ってない。レリアも、ずっと私に居たら気づくよ。……昔の私はもう居ないって。」


「じゃあ、私がシトラの代わりに引っ張る。今までシトラに助けてもらってた分、私が助ける。」


「……そんなの無駄。レリアは、自分の時間を生きて。……クレアと仲良くすれば良いでしょ。」


「……シトラは、私のこと嫌いになっちゃったの?」


シトラは暫く沈黙する。


布団から少し顔を出して、レリアの手を握る。


「……嫌いになる訳、ないでしょ。」


レリアの手を強く握りしめながら、シトラは大粒の涙を流す。


「私は、もうダメなの。レリアを離したくない。ずっと傍に居て欲しい。でも、私にはレリアを縛る事しか出来なくて、でもレリアはそれが嫌で、私はレリアに嫌な思いをさせたくないの。だから、レリアには離れて欲しいのに、そんなこと言われて、嫌いなんて言える訳……」


レリアは震えるシトラを抱きしめて、優しく背中を撫でる。


シトラも強くレリアを抱きしめ、声を漏らしながら泣く。


「……シトラ。シトラに縛ることしか出来ないなんて嘘。大丈夫だから。不安なままで良いから、私のことを信じて。」


シトラは暫く泣きついていたが、泣きやむとまた布団の中へと入っていった。


少しして、ロティアが部屋に入ってくる。


「レリアさん!ご飯が出来ました!」


「ほんと!?ありがとうロティアちゃん!……えっと、シトラはどうする……?」


「あの、サフィシアさんがシトラの分は別で用意するって言ってたので大丈夫だと思います!レリアさんはもう食べますか?」


「う〜ん……貰おっかな!ロティアちゃん、案内してくれる?」


「はい!任せてください!!」


「ふふっ、じゃあよろしくね。……シトラ、行ってくるね。」


シトラは身動ぎすらしなかったが、レリアはそれを見て満足そうに頷きロティアに着いていく。


クレアについてのちょっとした話をしながら、レリアとロティアは仲良く食堂まで歩いて行った。

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