第18話 クレアと王都

「ところで、レリアさん。どこか行きたいところはありますか?」


「行きたいところ……刀が売ってる店とかありますか?」


「はい!ありますよ!でしたら、次はそこに行ってみましょうか。」


レリアとクレアは手を繋ぎながら王都を歩いていた。


何故手を繋ぐことになったのか、それはレリアが見知らぬ土地で逸れないように、という意図で繋がれたものだった。


クレアは今のレリアの状態でシトラに会っても状況は改善しないだろう、と思い、暫くはレリアに王都を巡らせようとしていた。


「そういえばクレアさん、王都式の挨拶について聞いても良いですか?」


「王都式の挨拶……?あぁ、口づけをするあれですか?」


「はい!それです!」


「あれはとても親しい人同士でする挨拶で、なんというか……普通の挨拶から、感謝するときや約束するとき、別れるときなんかまで、色々な場面で使えるんです。……でも、よく知ってますね。誰かに教えてもらったんですか?」


「えっと、シトラにこれが王都式の挨拶って言われてキスされて……しかもみんなこうしてるとも言われて……。」


「なる……ほど?」


本来この口づけは相当親しい人相手じゃなければ行わず、例え恋人同士であろうとやらない人さえ居るものであった。


にも関わらず、ただの幼馴染が出会って一日二日でそれをやるのか、クレアは疑問に思った。


しかし、レリアとシトラの関係は自分が口を挟めるものではない。クレアはそう考えて何かを言うのを辞め、疑問符を浮かべながらも一旦はレリアの言葉を飲み込んだ。


「でも、そうですか……じゃあ、シトラは私のことを親しい人とは思ってくれてるのかな。……えへへ、なんだか嬉しいですね。」


シトラの事が気にかかりながらも、レリアはシトラにそう思われていることに素直に喜ぶ。


シトラとの立場や関係、態度は変わってしまったが、少なくとも親しい存在とは思って貰えている。レリアはそれだけでも十分喜ばしいと感じた。


「この挨拶は親しく無いと思ってる相手には絶対にしませんからね。シトラさんに親しい人と思われてるのは間違いないと思いますよ。……さて、着きましたよ。ここは刀も売ってたはずです。」


クレアが立ち止まった店の中をレリアが覗くと、そこには多種多様な剣類が並んでいた。


その店は近くの店と比べても規模が大きく、確かにここなら王都ではそこまで有名では無い刀であろうと売っていそうだった。


「私は予備の武器として剣を持つことが多いんですけど、その剣はいつもここで買ってるんです。確かその時刀もあったはずですよ。」


クレアの言葉に相槌をうち、レリアは店の中へと入る。


刀のありそうな場所を探すと、店の隅の方に置かれているのが見つかった。


場所は隅の方であるが、広さは他の武器とも変わらない程であり、ここなら様々な刀が見られそうであった。


レリアが暫し刀を眺めていると、壁に張り紙があるのを見つける。


その紙には、「当店の剣類は全て実際に持って頂いて結構です。スタッフに声をかけて頂ければ、試し斬りも出来ます。」と書かれていた。


レリアは早速気になった刀を手に持つ。


軽く持ちながら動かしてみて、また別の刀を持って……というのを暫く行った後、ようやくクレアに何の断りも入れてなかったことを思い出す。


慌ててクレアを探そうとすると、クレアはレリアの真後ろから、レリアの様子を微笑んで見つめているのを見つけた。


「ク、クレアさん!その、何も言わずにクレアさんを置いてけぼりにして夢中になっちゃってごめんなさい!!」


「ふふっ、気にしないでください。レリアさんが夢中になっている姿は可愛らしくて楽しいので。」


「えっ、あ、ありがとうございます……。」


可愛らしい、と言われレリアは少し照れながら再び刀を持つ。


最初は少し恥ずかしそうにしていたが、刀を持つ内に眼差しは真剣なものへと変わっていった。


レリアはかなりの時間そうした後、満足そうに頷いてクレアの方を振り向く。


「お待たせしましたクレアさん……。その、とっても楽しかったです!ありがとうございました!!」


「それなら良かったです。何か買いたくなった刀はありますか?」


「えっと、気になったものはあったんですけど……その、お金がないので。」


「それはどの刀ですか?」


「こ、これです。」


レリアが刀を手に取ってクレアに見せると、クレアはその刀を持ってどこかに行く。


レリアが慌ててクレアの後を追うと、クレアはその刀を購入しようとしていた。


「なっ、ちょっ、クレアさん!?」


「どうかしましたか?これが欲しいと言っていたので買おうとしたのですが……。」


「も、申し訳ないです流石に!刀は安いものでもないですし……」


「ふふっ、大丈夫ですよ。こう見えて私はお金持ちなんです。むしろ余らせてて困ってるぐらいなので……ここは払わせてください。ね?」


クレアにそう言われ、レリアは困惑と申し訳なさを感じながら口を噤んだ。


「……はい、レリアさん。買えましたよ。それじゃあ次どこ行くか決めちゃいましょうか。」


「あ、ありがとうございます!!えっと、次は……」


レリアが次にどこに行こうか考えようとした時、店の入口の方から何か見慣れた姿の人物が入ってくるのが見えた。


よく見てみると、それはシトラだった。


反射的にレリアはクレアの後ろに隠れる。


何事かと思いクレアがレリアの見ていた方を向くと、そこにはこちらに近づいてくるシトラの姿が見えた。


「……貴女、私のレリアに何してるの。」


低く冷たい声でシトラがクレアに食いかかる。


クレアはなるべく穏便にこの場を済まそうとしたが、自分の後ろで怯えた様子で腕を掴んでくるレリアを見て、考えを改める。


「シトラさん、ですね。少し話をしませんか?勿論、レリアさんとも一緒に。」


「悪いけどそんな時間はないの。……レリア、行こう。嫌なところなら直すから。だから、こんな奴には……」


「こんな奴、とは酷い言い草ですね。そういう所が嫌でレリアさんは飛び出したんだと思いますが?」


「……貴女さっきからなんなの?レリアと私のことに口出ししてこないで。」


「じゃあ私こそ、レリアさんとの関係に口出ししないで下さい。」


「……は?どういう意味?」


シトラがクレアの事を睨みつけると、レリアは意を決してクレアの背中から飛び出してクレアを守る体勢になる。


「シ、シトラ!!その、わ、私もシトラと話したい、から、その、クレアさんと一緒に……」


シトラは暫くクレアを睨みつけた後、ため息をつく。


「分かった。……じゃあ、家で話そう。着いてきて。」


それだけ言うと、シトラはスタスタと歩いて行ってしまう。


レリアは見慣れないシトラの様子に怯えていたが、怯まず着いていくクレアに追従して後を追う。


道中、三人は一言も声を発しなかった。

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