第15話 王都二日目

「おかえり!シトラ!!」


ダブルベッドに座るレリアがシトラを迎える。


レリアの近くに立っていたロティアはシトラの為か少し逸れて、頭を下げる。


「ええ。ただいま。……レリア、ちょっと良い?」


「良いよ!どうしたの?」


「貴女の入学試験のとき、レリアと私は戦うでしょ?そのとき……もし私が勝ったら……私の言うことを一つ聞いて。」


少し緊張した様な声色でシトラは言う。


レリアは少し驚いた後、笑顔を浮かべて言葉を返す。


「うん!分かった!その代わり、私が勝ったら私の言うこと聞いてね!!」


「……約束だから。」


シトラはそう言うと、レリアに近付き、レリアの隣に座る。


「ねぇシトラ!私、今とっても幸せ!!憧れだった王都に来れて、シトラともまた会えて、こんなおっきい家に住めて、美味しいご飯も食べられて……シトラ!本当にありがとう!!!」


レリアはシトラの手を握る。シトラは少し硬直した後、何も言わずにレリアの胸に飛び込んだ。


「シ、シトラ……?」


シトラは声を出さず、ただシトラは空いている方の手をレリアの背中に回す。


暫くそうした後、シトラは絞り出す様に声を出す。


「……好き。レリア……大好き。」


レリアは穏やかな笑みを浮かべて、シトラの頭を優しく撫でる。


「シトラ、私も好きだよ。」


シトラはさらに強くレリアを抱きしめる。


ロティアは本当に気まずそうにしながら、二人から顔を逸らしていた。


数分ほどそうした後、レリアが口を開く。


「ねぇシトラ、先にお風呂入っても良い?今日は色々やって疲れちゃって……。」


シトラはレリアから名残惜しそうに離れる。


「分かった。……ロティア、レリアの着替えを用意してあげて。それと、用意したらもう戻っても大丈夫。ありがとね。」


「は、はい!えっと……ありました!レリアさん!これを!」


ロティアは部屋のロッカーから服を取り出し、レリアに渡す。


「ありがとうロティアちゃん!それじゃ、行ってくるね!」


レリアは部屋を後にして、浴室に向かう。


失礼します、と言ってロティアも休憩室に戻った。


部屋に残ったシトラは、ベッドにうつ伏せの姿勢で倒れ込んだ。



「ふぅ……良いお湯だった!シトラただいま〜……って、寝てる?」


レリアが部屋に戻ると、そこには寝息を立てて眠るシトラが居た。


「……えへへ、眠ってるシトラを見るのも久しぶりだなぁ……。」


レリアはそっとシトラの隣に座り、シトラの寝顔を眺める。


暫くして、レリアもシトラの隣に寝転がった。


「なんだか、今日はとっても長い一日だったな。……明日も、良い一日になると良いな。」


レリアはそう呟いて、瞼を下ろす。


やがて、レリアも寝息を立て始め、レリアとシトラはそのまま夜を過ごした。




何か物音を感じてレリアが目を覚ますと、そこには風呂上がりのシトラが立っていた。


「んぅ……シトラ……おはよう……」


「おはよう。起こしちゃった?」


「ん……大丈夫……ふわぁ〜〜」


レリアは大きな欠伸をしながら体を起こす。


すると、ドアをノックする音が聞こえ、サフィシアとロティアが入ってきた。


「おはようございます。お嬢様。レリア様。……お嬢様、こちらが今日の予定です。」


「……ん。午後からの予定はキャンセルしといて。」


「かしこまりました。」


シトラはレリアの元に近寄り、キスをする。


「先、食堂行ってるね。」


シトラはそう言って、サフィシアと共に部屋を出る。


レリアは突然のキスに完全に目を覚まし、呆然としてロティアの方を見る。


ロティアもまた驚いた様子でレリアを見て、お互いに見つめあったまま驚きを目で共有した。



「お嬢様、あんな気軽にキス出来るのに何故距離が分からないなんておっしゃったのですか……?」


食堂へと歩きながらシトラとサフィシアは会話をする。


「……キスの価値なんてここじゃ大したものじゃないでしょ?メイド同士でも挨拶にキスしてるときがあるし。」


「それもそうですが……」


昨夜距離感が分からないと言っていたにも関わらず、気軽にキスをするシトラにサフィシアは困惑を覚えた。


サフィシアからしてみれば、キスが出来て他に何が出来ないのか、という気持ちであったが、流石にそのまま伝える訳にも行かず、悶々としながら口を閉ざす。


「……そういえば、わたしとサフィはキスしたことがないわね。」


「主従ですから、そんなものでは?」


「でも、専属メイドよ?それに、ただの主従じゃないでしょ。」


シトラとサフィシアはもう何年もの仲であり、ただの主従関係と言うには関係が近すぎた。


年齢もお互いに近く、その関係は友達と呼んで差支えのないものに見える。


しかし、サフィシアからしてみれば、自分とシトラとの関係は主従関係である、というのは譲れないものだった。


「……私はどこまで行ってもお嬢様のメイドです。そうである以上、キスをする仲にはなれません。」


「……そう。貴女は意外とこだわりが強いわよね。まぁ良いわ。別に私はレリア以外とキスするつもりはないし。」


そこで話は終わり、二人はその後特に何かを言うことも無く食堂に着いた。


シトラは席に着き、サフィシアはその近くに立ってレリアを待つ。


数分程して、レリアとロティアが食堂に入ってきた。


「お待たせ〜!はっ!料理がもう並んでる!」


「悪いけど今日一緒に食べるのはレリアと私の二人だけ。他のメイドは忙しいから。」


「そっか……まぁ仕方ない!シトラ!早速食べちゃおっか!」


レリアはシトラの向かいの席に座り、シトラに向かってそう声をかける。


シトラは頷き、食器に手を伸ばす。


「よし!じゃあ……いただきます!!」


レリアも食器を手に取る。


「……ねぇ、昨日も気になってたけど、いただきますって何?」


「うん?ご飯を食べる時の挨拶!ご飯を作ってくれた人にありがとうっていう意味なんだって!」


「そう。……いただきます。」


シトラはそう言ってご飯を食べ始める。


レリアはそれを見て目を輝かせ、笑みを浮かべながらご飯を食べる。



レリアとシトラは食べ終わり、水を飲みながら少し雑談をした。


「——そうだ!シトラ!今日は何か予定があるの?なかったら王都を色々歩いてみたい!」


「今日はレリアの為に予定を空けてる。王都を歩きたいなら外に行こっか。ちょっと待ってて。」


シトラは席を立ってサフィシアに何かを伝える。


サフィシアは頷き、ロティアを連れて何処かに行った。


「良いよ。もう外出られる?」


「うん!いつでも行けるよ!!」


「じゃあ今から行こっか。……はぐれないでね。」


シトラはレリアの手をしっかりと握る。


「しょ、正直自信ないなぁ……。ぜ、善処します!」


シトラは呆れてため息をつきながらレリアの手を引く。


そのまま二人は王都の中心部まで歩いて行った。

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